ティエリアも基本的に詠唱を破棄するが、たまに少し長い言葉を使う時がある。その場合は、言葉を唱えることで精神をより深く集中する効果をもつ。 「おー、いいな。涼しそう」 半そでにハーフパンツといったラフな服装のロックオンが、庭に出てきてうちわで風を仰ぐ。 風をおくっても、生暖かい風しかこないのだが、それでも何もしないよりはましだ。 「ロックオン、暑そうですね」 「あーもう暑い。バテバテ」 「僕も暑いのは苦手です。でも、氷の精霊に周囲の空気を下げてもらっているので」 ポンと、ロックオンが手をうつ。 「なーる。その手があったか」 早速、ロックオンも氷の名もなき精霊を呼び出して自分の周囲数センチの温度を下げてもらう。 名前のある精霊は、こんな雑用はしたがらないので、意思のない名もなき精霊をこういった場合使う。 例えば、サラマンダーの火の精霊に魚を焼いてくれといえば、サラマンダーの炎は強すぎて、真っ黒こげになる。基本的に名のある精霊は、人の生活の雑用をしたがらないのである。 契約にもいろんな種類があって、普通の契約はお願いします、力をかしてくださいといったかんじだ。 ティエリアやロックオン、その他魔力の強い者が使う契約は絶対服従の契約。その分、消費される魔力も大きい。ティエリアは、ヴァンパイアハンターとしてはかけだしレベルだが、もっている魔力はとても高かった。 ティエリアの体の基礎となったティエル王国の女王ティエルマリア、ティエリアの創造者は、類稀なる魔力の持ち主として有名であった。魔力だけで言葉を出さなくても人を殺せるほどに。その霊子を受け継ぐティエリアも魔力が高い。リジェネも刹那も。 ヴァンパイアと呼ばれる者は、皆魔力をもつ。位が高い者ほど、ロードヴァンパイアやヴァンパイアマスターになるほどその魔力は高くなっていく。 もっとも、ヴァンパイアたちは精霊と契約するのではなく、自らの血を操る種族独特の魔法を使う。精霊と契約し召還し、精霊を使役するヴァンパイアもいるが、血の魔法を好む。オートマティックバトルドールたちを作りだし、血の刃や剣をつくって攻撃したり、血の渦となったり。精霊魔法で攻撃しても、精霊魔法で跳ね返されるからだ。ヴァンパイアは、自分の血を使った魔法を至高と考える傾向が多い。簡単な炎や水の魔法なら精霊と契約なしに使えたりもする。無論、精霊と契約しているヴァンパイアも数多くいるが。 ロックオンは精霊と契約している。そのほうが使える魔法が多いからだ。 精霊ごとの精霊王と契約し、精霊神とも契約しているロックオンは、血の神の一族に恥じぬ存在であった。 「あー涼しい涼しい」 次の瞬間には、ロックオンは氷づけになっていた。 「アイシクルかよ・・・お前かよ、温度下げてくれたの」 ロックオンは名もなき氷の精霊に命じたはずなのだが、くせで精霊を召還し使役してしまったのだ。 アイシクルはフェンリルよりも上位の、戦乙女ヴァルキリーの姿をもった精霊だ。 果敢に戦う姿がとても美しいと評判で、持っているアイスランスを振り回して、氷の魔法と一緒に肉体を駆使して戦う少しかわったタイプの精霊である。 「主、涼しいですか?」 ペコリと上品にお辞儀をする姿は愛らしい。 「つめてーよ!つかいてーよ!」 「あら。主は氷づけが好きだと、フェンリルちゃんが・・・・」 「くおーらフェンリル〜〜〜!!」 ロックオンは、炎の魔法を精霊の召還なしで使い、氷を溶かした。 言葉がなくても、魔法を唱える者。魔力の高い者は、詠唱破棄からさらに呪文の破棄までする。 脳にイメージするだけで魔法が力となる。もっとも、簡単な魔法に限られているが。 バッシャバッシャと泳ぐフェンリルを、ぶらーんとつまみあげるロックオン。 「何するのにゃ!泳ぎの邪魔するにゃ!」 ロックオンの顔をバリバリとひっかいて、フェンリルはくるっと地面に着地すると、またビニールプールにはいってばしゃばしゃと猫かきをする。 「お前・・・暑いのか?」 「暑いのにゃ!」 「だったら、自分の周囲の温度下げればいいだろう」 「そんな無駄な力使いたくないのにゃ!24時間それ毎日は疲れるのにゃ!僕は自分の魔力でこの世界に留まっているのにゃ!主と契約するのではなく、僕から主と契約したので、召還の魔力は僕から消えていくのにゃ!」 「あー。確かに、この温度さげる魔法むだに魔力使うなぁ。これ24時間はきついわ」 「僕はもう止めました」 24時間毎日毎日保ち続ける魔法のほうが、ちょっと精霊を召還して使役するよりも魔力をくう。 ようは、便利な魔法ほどリスクが大きい。 世界には空間転移の魔法もあるが、下手をすると違う次元や 亜空間に出る可能性もあるで、使う者は限られている。 精霊の魔法がいても、自然体でいるのが一番なのだ。 NEXT |