血と聖水[「聖女マリナ」







ひゅるるるるー。
ゴン。
だらだらだら。
いつものように、金色の飛翔する巨大な鷹から飛び降りた刹那は、頭から着地して流血していた。首が変な角度に曲がっている。
「問題ない。完璧だ」
「刹那・・・・首曲がってるから」
ティエリアは、フェンリルを頭にのせて、ハンカチで刹那の流す血をふきとる。すぐにそれはヴァンパイアの回復力を有する刹那の体に吸収され、傷も再生する。

「聖女マリナのところまでは使い魔で移動する。時間が惜しい」
刹那にしては、切羽詰っていた。
ロックオンが空を走る馬「スカイディアボロス」という魔の一種を召還し、その黒い背中に二人でまたがって、ティエリアとロックオンは移動する。
「スカイディアボロス・・・・魔王の馬・・・・うう、負けないぞ」
刹那は、ネイであるロックオンとの力量の差をこうして見せ付けられるが、金色の鷹に乗って前へ前へと進んでいく。1日かけて飛び続けると、聖都から離れたホワイティーネイが滞在するという町につく。

刹那は、勢いよく100メートルから飛び降りだ。
ドッカーン!地中に10メートルほど埋まってしまった。
「うわああああ、刹那!」
「うわ、いたそー」
刹那は、自力で穴から這い上がる。
土まみれになった体を、名もなき浄化の精霊によって体を清め、汚れを落とす。
いちいち、風呂に入って着替えるなとしていられない。
「ここが・・・そのホワイティーネイのいる場所か」
ロックオンは、町を見回す。
「あのホテルかな?」
厳重に警備されている高級ホテルを見る。
「ああ・・・・かすかだが、血の匂い、ヴァンパイアの匂いがする」
刹那が頷く。
金色の鷹を肩にとめて、ティエリアと刹那とロックオンは移動する。

「何者だ!ここは関係者以外通行禁止だ」
「鷹の刹那。ヴァンパイアハンター協会から呼ばれて護衛にやってきた」
「僕はティエリア。同じくヴァンパイアハンター協会から呼ばれて護衛に。こっちは僕のパートナーのロックオン」
三人は、すぐに中に通された。
そして、スイートルームで護衛するべきホワイティーネイの個体と会う。
「ネイ様自ら足を向けてくださるとは・・・・光栄の極みです」
そのホワイティーネイは、普通の個体と違った。長い黒い髪に、ブルーサファイアのような瞳。背の翼はけれど真っ白で、天使のような翼だ。他のヴァンパイアやロックオンの翼のような皮膜翼ではない。
リジェネや刹那の金色の六枚の翼の天使のような翼。
聖女とよばれるそのホワイティーネイの名前はマリナ・イスマイール。
ブラッド帝国でも聖女として名高い大人の女性だ。しとやかで、まるで荒野に一輪の白い花が咲いているような凛とした気高い印象を受ける。
「刹那、来てくれたのね。嬉しい!」
聖女マリナは、刹那に抱きついた。

じー。
じー。
二つの視線が刹那に注がれる。
「お前もやるなぁ。こんな美女たらしこんだのかよ」
ヒューヒューと、ロックオンがはやし立てる。
「そんな関係ではない。俺とマリナは清い関係だ。そう、交換日記からはじめている!!」
胸を張って言い放つ刹那は、かっこよかった。
言ってる中身は低いけど。

「では、マリナ姫を護衛ということで」
マリナは皇女。姫君であった。生粋の皇族。生まれも育ちも上流階級にあったマリナにとって、人間世界に出て教会でヴァンピールを人間に直していた彼女は、噂を聞きつけてやってきた刹那の優しさに触れて、彼に恋をしたのだ。その時、刹那もヴァンパイアマスターに血を吸われて半分ヴァンピール化していて、なんとか教会にたどり着いてそして当時教会を訪れていたマリナ姫に血を分け与えてもらい、元に戻ったのだ。イノベイター、人工のヴァンパイアである刹那は普通ヴァンピール化などしないが、相手が悪かった。トリプルAクラスのヴァンパイアマスター、北に彼ありと恐れられていたヴァンパイアマスターであった。当時まだヴァンパイアハンターとして歩み始めたばかりの刹那は倒せなかった。
それから数年後、成長した刹那はそのヴァンパイアマスターを見事に討ち取った。

聖女マリナを乗せた馬車が、聖都に向けて出発する。
馬車の中には、刹那が同席している。
馬車の隣を、ナイトメアに乗ったロックオンとロックオンの魔力で巨大化したフェンリルに乗ったティエリアが護衛にあたる。
聖女マリナを、聖都へ届けよ。
それが、今回の内容。
ホワイティーネイは、その希少な存在と美しさ故に他のヴァンパイアから狙われる。ホワイティーネイの血を吸うと、ヴァンパイアの寿命は飛躍的に延びるのだ。
ホワイティーネイは皇帝に保護され、帝国騎士がたえずブラッド帝国では護衛に当たっている。
前回は、マリナは先代皇帝から帝国騎士を護衛につけさせられ、人間世界にやってきたが、帝国騎士はやはりブラッド帝国で皇帝を守るのが最大の任務なのだ。
皇帝の命令で聖女マリナを護衛していた帝国騎士は、最初はなぜ皇帝でもないただの皇族の聖女マリナを護衛しなければいけないのかと愚痴をもらしていたが、誰もが聖女マリナの優しさと慈愛に触れて、彼女に惹かれていったのは無理もない。


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