「ロックオン、何をしてるんだい?」 アレルヤが、食堂のキッチンを占領しているロックオンに声をかけた。 食堂には、食欲をそそる良い匂いが漂っていた。 「ん、まぁな。zaiさんに食べてもらうシチュー作ってるんだ。なんせ、一万アクセスだからな。祝いごとにはやっぱじゃがいもだろ!」 そういって、ロックオンはじゃがいもの山を見せた。 それにアレルヤの頬が引きつった。 「いくらなんでも多すぎじゃないかな?」 「そうか?」 軽く、ポテトにしても10人前以上あるじゃがいもの山を、アレルヤはどこから取り出してきたんだと思いながら見つめた。 食糧貯蔵庫にあるじゃがいもを、ひょっとして全部だしてきたのだろうか。 ロックオンならやりかねない。 「ロックオンって、ほんとにじゃがいも好きだよね」 「まぁな。生まれた国の歴史もじゃがいもだからなぁ。飢饉になったときは、アイルランドではたくさんの人が死んだんだぜ?」 「知ってるよ。じゃがいもだけに頼ってた農業が間違ってたんだろうね。一つの作物だけだと、その作物がだめになってしまうと食料がなくなってしまうからね」 「まぁ、俺のことはじゃがいも男爵とでも呼んでくれ」 「ロックオン、おかしいよ、それ」 アレルヤが、噴出しだ。 ロックオンは、気にせずシチューを作っていく。 「ほい、味見頼むわ」 ロックオンは、自分が作るポテトシチューには自信があったが、贈りものでもあるため、念のためにアレルヤに味見をしてもらった。 「うん、おいしいよ」 ことりと、味見用に渡された小皿をテーブルの上に置いた。 それに、ロックオンが一皿シチューを掬って、自分も味見する。 「まぁまぁだな」 そんなロックオンの様子を、アレルヤは穏やかに見守っていた。 「エプロンまでじゃがいも柄だなんて、本当にじゃがいもが好きなんだね」 「このエプロン、自作なんだぜ?」 優しく笑う翠の瞳に、釣られてアレルヤの瞳も細められる。金と銀のオッドアイが、神秘的な色を宿していた。 「じゃがいも男爵。ハロもジャガイモ柄にしてやったぞ。喜べ」 刹那が、ロックオンの相棒であるハロと油性マジックを片手に、ひょっこりと現れた。 その右手に抱えられたハロは哀れ、ジャガイモ柄というか、黒い点々が描かれていた。 「ああもう刹那、この子ったら何しでかしてくれるんだこらぁ!オレのハロが〜〜!」 まるで全身にニキビができたような格好になったハロに、ロックオンが涙する。 「ロックオン、ロックオン。ジャガイモ、ジャガイモ。ハロモ、ジャガイモ、ジャガイモ」 オレンジ色のAIは、嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。 「あははは。ハロまでじゃがいもだよ」 「アレルヤ、そこ笑うとこじゃねーから!」 ロックオンは、シチューを煮ていた火を止めて、刹那の首根っこを掴みあげた。 「何をする、このじゃがいも男爵!」 「この悪戯っ子めが。どう料理してくれようか」 その時、食堂の入り口がシュンという音をたてて開いた。 自然と、視線がそこに集まる。 ティエリアが目にした光景は、刹那に襲い掛かっているロックオンと、それを見て腹を抱えて笑っているアレルヤだった。 「あ、ティエリア」 アレルヤが、ティエリアに声をかける。 ティエリアは、固まっていた。 「ティエリア?」 「僕は、何も見ていない。刹那・F・セイエイがロックオン・ストラトスに襲われている場面なんて、見ていない。アレルヤ・ハプティズムが、それを見て笑う嗜虐趣味だったなんて、目にもしていない」 石榴の瞳が、ガーネットのように紅く紅く煌いたかと思うと、明後日の方向を見ていた。 「ちょ、ティエリア、誤解だから!」 ロックオンが、刹那を解放した。 刹那は、無表情で小さく舌を出して、ティエリアの元に駆けていった。 「ティエリア・アーデ。しっかりしろ」 刹那に揺さぶられて、ティエリアが明後日の方向から刹那を見る。そして、安堵のため息を出した。 「ロックオン・ストラトスの魔の手から、無事に生還したんだな」 「ティ・エ・リ・ア〜〜〜」 お玉を持ったまま、ロックオンが一番年配である自分をからかうティエリアに、警告の声を出す。 「なんですか。あなたは、また面白い格好をしてますね」 ティエリアは、気にしたそぶりも見せずに、カウンターに座ると、持っていたパソコンを開け、端末を繋いだ。 そこへ、ジャガイモ柄にされたハロが跳んでくる。 「ロックオン、ジャガイモ男爵。ロックオン、ジャガイモ男爵。ティエリア、メイクイーン、ティエリア、メイクイーン」 「あなたは、AIに何を教えているんですか。こんな落書きまでして」 「違う、それは刹那が勝手に教えたことで、落書きだって刹那がしたんだ!」 流石に、トレミーでも絶世の美貌を持つティエリアを、ジャガイモの種類であるメイクイーンと表現するほど、ロックオンも落ちぶれていない。もっと、そう、例えるなら氷の女王とか言い出すだろう。それもそれで、ティエリアの 怒りを買いそうではあったが。 「刹那・F・セイエイ。本当か?こんな馬鹿らしい真似を、君がしたのか?」 ティエリアに問われて、刹那は首を横に振った。 「俺じゃない。全部、ロックオンが一人でしたことだ」 (あんにゃろ〜。後で覚えてやがれ〜。頭グリグリの刑にしてやる) ロックオンは、刹那の言葉に呆れた。 刹那は、ティエリアの隣に座ると、ロックオンをからかうのに飽きたのか、ティエリアがパソコンで打ち出す文章を見ていた。ティエリアも、別段それに何も言わない。 「刹那って、なんだかんだいっても、ティエリアと仲いいよね」 アレルヤが、年少組である二人が仲良くすることは、とてもいいことだと、嬉しそうだった。 協調性に欠けた二人ではあるが、食事をする時は時折一緒だったり、雑談もしているし、思っているよりは仲がいいのかもしれない。 「はぁ。アレルヤ、お前はいい子だなぁ」 「急に何言い出すのさ」 「あの年少組二人は、タッグになると強力だからなぁ。アレルヤだけでもこっちの味方でいてくれるだけマシだ」 「僕は、中立の立場なんだけどね」 「でも、どっちかっていうと、俺と行動することが多いじゃないか」 「まぁ、ロックオンは一番年上だし。頼れる存在だから」 その言葉に、ロックオンはしみじみ、アレルヤは良い子だと思った。 なでなでと、黒髪の頭を撫でる。 「もお、やめてよロックオン。僕は子供じゃないんだからね」 言葉ではそう言っているが、本格的に拒絶はしていなかった。 「アレルヤ、あっちで飛び回ってるハロ捕まえてきてくれないか。刹那のラクガキおとさないと」 「でも、料理はいいの?まだ途中なんでしょ?」 「なーに、zaiさんは待ってくれるさ」 「それもそうだね」 ロックオンは、ジャガイモ柄のエプロン姿のまま、ハロを捕まえると、アレルヤが持ってきた油性マジックも消せる液体をタオルに染み込ませ、ハロをごしごしと擦った。 「ロックオン、カユイ。ロックオン、カユイ」 「我慢しやがれ。痒いとかそんな神経ないくせに」 「バレタ。バレタ」 「何はともあれ、zaiさん一万アクセスおめでとさん!」 ロックオンがウィンクすると、アレルヤも微笑んだ。 「おめでとう、これからも頑張ってね」 「ヴェーダからの命令だ。仕方ない。おめでとうと言っておこう」 明らかに義務的な口調で言うティエリアを見習って、刹那も口を開く。 「……おめでとう」 刹那の口調は、棒読みだった。 時間がたって、またキッチンからコトコトと、シチューを煮る音が響いていた。 マイスターたちは、食堂で思い思いの行動を取りながら、ロックオンの料理ができるのを待っていた。 |