学園ヘヴン








「こんな時期ですが、体験入学として転校してきた生徒を紹介します」
お〜と皆が感嘆の声をあげる。
高校3年にもなって体験入学で転校とは、きっとどこかの貴族の御曹司かお嬢様だろう。
「女の子だってさ。転校生。俺職員室であったんだ」
「マジマジ?可愛かった?」
「すげー可愛かった!!もしも結婚できれば玉の輿だよなぁ。なんでも庶子だけどブリタニアの皇族の血を引いてるらしいぜ!」
「マジかよ!すっげーお得物件じゃん」
ルルーシュは心の中でウザイなと文句をたれていた。
ルルーシュが皇族とばれたとしても、別に変態皇帝がギアスを使ってその記憶を消し去るだろうからなんの問題もない。
隣の席に座っているスザクは最近とても様子が変だ。1年前は普通に接していたのに、監視者としてやってきてからというもの、 常にルルーシュの側にいることが多く、スキンシップも異常なほどに多い。今も顔を紅くしながらルルーシュの方を呆けて眺めている。
皇帝の変態菌がうつったのだろうなと、少々気の毒に思いながらもセクハラ行為にはそれ相応の報復をしているので、いずれラクシャータあたりに スザクを診てもらわなければならないだろう。

「はーい、お待たせしました。シャルル・ド・ブリタニアで〜す」

「「げはッ」」

女子生徒の制服を着て入ってきた人物に、スザクもルルーシュも吹いた。

「いやん。そこのかっこいいお二人さん、男前が台無しよ〜」

スカート丈はギリギリ、ハイソックス以外から出た足にはスネ毛がこれでもかというほど生えている。股間もややもっこり気味、胸はパッドか何かいれているのか膨らんでいる。 よくそんなでかい体躯で女の制服など堂々と着れるものだ。
せめてスネ毛の処理くらいしろよと、ルルーシュは内心でツッコミを入れながらアッシュフォード学園の女子生徒服で女装した変態皇帝に度肝を抜かれていた。
それはスザクも同じなのか「陛下…;;」と涙をだらだら零して「あれほど学園にこないようにいいくるめたのに」とか呟いて机の上につっぷしている。

「ハァ〜イvシャルルって名前だけど、ブリ子って呼んでね!」

ブリ子!
うんこをもらすからブリ子か!

すでにルルーシュの手足は笑いのために痙攣している。
それにしても、変態皇帝がやってきたというのに、男子生徒はみなかわいね〜とか美人だね〜とかいうだけで、
「変態がまたきたー」
というツッコミが一切ない。
ルルーシュはやられたと思った。ギアスを使い、恐らくは先生から全校生徒に至るまで記憶をかきかえ、おまけに美人であるという設定にしたのだろう。
女子生徒もブリ子ちゃんかわいーと声援を送っているだけあって、推測は事実だろう。

「ええと、ブリ子ちゃんの席は」
「先生、ブリ子ルルーシュ君とスザク君との間がいいです!」
普通ならそんな我侭は受け入れられないが、ブリタニア皇族の血を引いているということが絶対効果を発揮している。
「「来るな〜変態皇帝〜〜〜」」
ハモって最悪の事態を回避しようとする二人だが、露骨にそれを出しては他の者に不審がられる。
それに、設定では庶子とはいえブリタニア皇族の血をひいているのだ。野蛮な行為をすれば皇族批判と捉えられかねない。
堂々と、二人の間に割って座ったブリタニア皇帝は両手に花だわ〜とかいいながら興奮している。特にルルーシュのほうに身を摺り寄せている。
(我慢だ、我慢。V.Vとやらにはすでに連絡をとっている。今日1日だけの我慢だ!)
スザクがから聞き出した情報でV.Vのことはすでに承知済み。V.Vがなぜか変態皇帝から兄と呼ばれているのも知っている。
C.Cと同じ人外の者だ。性別は少年らしいが、何百年生きているかもしれない。
V.Vの携帯電話番号はNTTでゲットした。何度か話を、実際に会ったこともある。弟が変態すぎて困らせてばかりですまないとか謝罪までもらったのだ。
V.V自体はそれほど悪くない人物かもしれない。変態皇帝はV.Vだけには完全に頭が上がらない様子で、午後にV.Vに着てもらえれば強制的に生徒たちへのギアスを前のものにかきかえるように してくれるだろう。


そうして、午前中の授業は終わった。最悪な環境の中、ブリ子のうんこ巻きの髪に飾られたリボンの数は45だった。
ルルーシュは勉強に力が入らずリボンの数を数えていたのだ。
スザクはといえば、どこでも眠れる習慣を身に着けているためか、すっかり夢の中。でも「変態皇帝が〜」と魘されていた。
全身にくっさいブリ子の香水がこびりついて、今すぐシャワーを浴びたくなる。ルルーシュは我慢して、ロッカールームで普段は使わない香水を手にこれでもかというほど全身に ふりかけた。
お昼の時間になり、ロロがやってきた。
「兄さん、今日はみんなで兄さんの作ったパスタ食堂でたべ…」
ロロは石化した。
見てはいけないものをみてしまったのだ。
大股を開いて、股間まるだしの変態女装皇帝の姿を。
「ロロ、しっかりするんだロロ!」
それでも石化のとけないロロに、ルルーシュはぎゅっと出しきめた後、おでこにキスをした。
ガラガラガラ。
ロロの石化が解けて、ロロは紅い顔でルルーシュの胸に顔を埋めた。小声で、
「兄さん、なんであんな変態がここにいるの。いつもみたいにやっつけれないの?」
「それがな、一般生徒は変態皇帝のギアスにかかっているんだ。このまま追い返すわけにもいかない。策はあるから、午後までは普通に振舞ってくれ」
「はい、兄さん」

兄弟のやりとりに、ブリ子はハンカチをきいいとかみ締めていた。
「ルルーシュ君、いくら弟だからって甘やかしすぎよ!」
「そうだよルルーシュ!僕にも額にキスしてくれ!」
変態皇帝と変態になりつつあるスザクを無視して、ロロとルルーシュは食堂に向かった。
「兄さん、今日は甘い香りがするね。薔薇の匂いかな?」
「すまないロロ。変態皇帝の香水が染み付いて思わず自分の香水を使ったんだ。臭うか?」
「ううん、すごく甘い香りに包まれてて心地いいよ」
食堂でもいちゃつく二人に、ブリ子が業を煮やした。
「これって、全部ルルーシュ君の手作りなの!?ブリ子もたべたーい」
食堂に広げられたパスタを皿に盛っている最終、ブリ子に尻を撫でられたルルーシュは、こらえきれず、
「そんなに食べたいなら勝手に食ってろ!」
ブリ子の顔をパスタ山盛りの皿に押し付けた。
ルルーシュの血管は切れていた。
ギアスの効果がきれてきているのか、周囲に止めようとする者はいない。
反対に、ルルーシュ君のパスタが食べれるなんて羨ましいと、男女問わずに羨ましがられる始末だ。
「もががががぶぐぐぐっぐぐぐう」
ズルズルズル。
ブリ子は、口でパスタ食べれない状況に気づいたのか、それでもルルーシュの手作りパスタがどうしても食べたいので鼻で食べだした。
「へ、変態」
そういいながらもルルーシュはいっそ窒息死しして、死ねとばかりにブリ子の頭から手を外そうとしない。
やがてやってきたスザクに止められるまで、ブリ子は鼻でスパゲッティを食し続けた。
顔をパスタまみれで鼻からパスタを垂れ流して気絶しているブリ子を邪魔だとばかりに蹴飛ばして、生徒会メンバーにスザク、ロロとでパスタを食した。
皆がいうには一流レストランの味にも負けないほど美味であるとか。



時間がたつのは早いもので、放課後になった。 何度も変態女装皇帝からセクハラをうけ、そのたびに拳をうならせたり、かわりにスザクがお仕置きをしていた。
スザク、お前皇帝直属の騎士じゃないのかとつっこみたかったが、助かったりしたので何も言わなかった。
やがて、ブリ子に屋上に呼び出された。
寒気がする。
ルルーシュは身震いをしながら、後ろからコッソリロロに尾行させて屋上までやってきた。
「実はね、ブリ子あと1ヶ月はこの学園にいようと思うの」
(1ヶ月だと!?こっちの身がもたんわ!」
「でも、1ヶ月すればさよならでしょう。だから、ブリ子彼氏が欲しいの!ルルーシュ君が生まれた時からあなたにメロメロでした!マリアンヌ瓜二つの ルルーシュ君!ブリ子の愛の熱いヴェーゼをうけとって!」
ルルーシュの細い腰を手にとり凄まじい力でキスをしようとしてくるブリ子。
キーン。

時がとまり、ロロは重いブリタニア皇帝を屋上の鉄策の外側へと移動させ、恐怖に歪んでいたルルーシュを自分の位置、絶対にブリ子の手の届かない範囲に置く。
ロロのギアスが止まり、はっとしたルルーシュはすぐ側にいるロロを抱きしめた。
「ロロ、怖かったよ、ロロ」

「兄さんを泣かせるなんていい度胸だねブリタニア皇帝」

「ぶちゅー!!!あれ、ルルーシュ君!?」
「兄さんは僕のものだ!皇帝にもスザクにも渡すもんか」
「ブリ子…って、お前はギアスにかかっていないのか」
「当たり前だろう。僕にギアスは通用しない。特殊なギアスを持っているんだ」
ルルーシュを抱きしめたままだったロロから、とん、と軽くルルーシュが離れた。
「お前の大好きな兄さんのV.Vが校庭でまっているぞ。生徒全員と先生たちにかけたギアスを解かなければ、ルルーシュコレクションルームを燃やすそうだ」
「なにいいいいいい!!!!兄さんがすぐそこに!?」
ガクガクと、今までにない恐怖を露にして、ブリ子はうろたえた。
「わざわざ生徒たちにギアスをかけて学園にまでもぐり込んだお礼だよ、父上」
「はひ?」
ブリ子の背後にたったルルーシュが凶悪に瞳の色を染め上げる。
長い足でブリ子の背中を蹴った。
「ひもなしバンジー逝ってこいやああああああああ」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
遠のいていくブリ子の悲鳴。
そして、校庭に半身を埋まらせた変態を引っこ抜く細身の少年の姿。
V.Vはブリ子に白ブリーフを頭からかぶらせ、ギアスをかけた者全員を元に戻せと脅迫しているようであった。

次の日登校すると、いつも通りのみながいた。
ブリ子のことはすっかり記憶から忘れられていた。
唯一スザクがブリ子ちゃんかわいかったなぁと今になってギアスの効果を発揮していたという。