チェスの賭け








「チェスをしませんか。そうだな、私が勝ったらスザクをもらおうか」

ゼロの姿をしてそう宣言したときの、スザクのぱ〜っと明るく輝いた顔といったらもう、まるで3日間遭難にあって飲まず食わずでやっと 救出された人のような顔だった。
実際は「天子を貰おうか」と言いたかったが、天子は中華連邦側の人間で、シュナイゼルとのチェスの賭けには関係なくなってしまう。
それに第一皇子と天子の結婚はもはや決まったも同然で、天子を奪うには結婚式当日に、騒ぎに乗じてのほうが遥かに可能低が高い。
まだ幼い天子を父とも呼べるような年の差のある第一皇子の妻として迎えるというブリタニア側の政策には、先をこされたと同時に非常識極まりないが、 天子を結婚という手で人質にとれば、中華連邦側からブリタニアに争いをしかけることもできなくなる。
上手く考えたものだと、変態皇帝のとった策に舌打ちしそうになった。
「それは面白い。では、こちらが勝ったらゼロ、私の花嫁になってもらうよ」
チェスの盤が広げられ、脳内では今後の計画についてを目まぐるしくシュミレーションしていたゼロの手が止まった。
ついでに周囲も止まった。

「は?」

「おや、聞こえていなかったのかね。私が勝ったら君を花嫁として貰うと言ったんだよ」
「第2皇子シュナイゼル殿下。私をからかっているのか。私はこれでもれっきとした男だぞ?」
「勿論知っているよ。だって、スザクと等価交換するには、君を貰うしかないだろう」
「だからといって、なぜ花嫁なんだ!」
苛立ち気味にルルーシュが叫んだ。
ゼロの姿をしている時に感情をむやみに乱すことはなるべく避けたいところなのだが。
そっと、ルルーシュにしか聞こえない音量で、シュナイゼルはルルーシュの耳元で囁いた。
「父上とだけデートしたり婚約ごっこをしたりしてずるいよ、ルルーシュ。私もたまには混ぜてほしいな」

ルルーシュは固まった。
「なぜ俺の正体を知っている」
「なに、父上の観察していればすく分かるよ」
そうだ。
変態皇帝の宰相までつとめる聡明なこの兄に、自分の正体がばれないはずがないのだ。
皇帝の行動を監視していれば、バカでも分かる。
変態皇帝は、ブリタニアを出てエリア11に行く時はゼロを捕まえにいくという名目でいつも出かけているのをルルーシュは知らなかった。
ルルーシュは、チェスの駒をとって、言いはなった。
「スザクを貰うというのは撤回だ!私が勝ったら、変態皇帝の脱ぎたて白ブリーフを頭から被ってもらおうか!」
すでにゼロの仮面は剥がれたも同然、ルルーシュの地が出ている。
「いいとも。なぁに、今まで何度も被らされているからね。痛くも痒くもない」

マジか。
マジなのか。
いや、マゾなのか。

あんなもっこりの黄ばんだ脱ぎたて白ブリーフを被って平気なのか。しかも何度も!
流石は第2皇子シュナイゼル、侮れない。
「では、私も条件を変えようか。私が勝ったら、その変な服装をやめてブリタニアで1週間一緒に過ごしてもらう。無論、女装してお兄様と呼んで貰おう」

ざわざわ。
なんだこの賭け。
シュナイゼル殿下って実は変態?
どうしてゼロに花嫁になれなんて?

周囲が騒がしくなってきた。

シュナイゼルには、ルルーシュを女装させるクセが昔からあった。
宮殿にいた頃のルルーシュは、シュナイゼルと変態皇帝のせいでいつもかわいい女の子のドレスを着せられてあっちやこっちと連れ回されていた。
二人がいない時だけやっと男の子の格好をできたものだ。
どうやらシュナイゼルの、「かわいい男の子を見ると女装させるクセ」というのは治っていなかったようである。


「いいだろう、その条件のんだ」
この変態が、目にものみせてやる。
負けたとしても、ルルーシュにはギアスがある。二人きりになったところでギアスをかけてやる。
ルルーシュは駒をすすめ、お互いキングが競い合う状況になって。
ルルーシュはキングを下げた。
クスリと、シュナイゼルが笑う。
「皇帝なら、躊躇もなく今のをとっていたな」
そんなことはどうでもいい。わざと負けてシュナイゼルにギアスをかけてやろうというルルーシュの魂胆である。
チェスが進んでいく。
「チェックメイト」
シュナイゼルの声が大きく聞こえた。
ルルーシュの手をもてばそこから逆転をすることもできたが、今回はシュナイゼルと二人きりになるというのが目的だ。


ガシャン、パリーン!!!

いきなり部屋の照明が落ちた。
同然に、硝子窓を破って黒い影がよぎる。
その影の体躯は巨大でちょっと太かった。
全身は黒の網タイツ。頭には白いブリーフ。股間にはオムツ(大人用)
変態皇帝は、カツカツと何もいわずルルーシュとシュナイゼルのチェスをしている場所にやってきて、有無を言わせぬ速さでシュナイゼルに自分の頭に被っていた白ブリーフを被せた。
「この青二才が!ゼロ(ルルーシュ)を手にかけようなど1000年はやいわ!」
格好よく登場したかのように見せて、ルルーシュの救世主はとても本人が望んでいない変態だった。
「ち、父上、誤解です。ゼロを本国に持ち帰り皆で楽しもうと私は画策したのであって!!」
「む、本国に持ち帰る!?おもち帰りか!!!」
非常用の照明がついた中、騒ぎで女性たちは逃げ出している。
護衛の者も、変態皇帝の姿を見て逃げ出していた。
ついでにナイトオブラウンズの姿もカレンの姿も見えない。
「くそ!」
ルルーシュにとって最悪のパターンである。
変態が2匹。しかも手を組み合おうとしている。


そこへ、薄い暗がりの中ゼロの手を引っ張る少年がいた。
混乱していたルルーシュは思わずその手を逆にひっぱった。現れたのはなんとロロだった。
ロロが、突然の登場に驚いているシュナイゼルと皇帝にギアスをかけて、二人を荒縄でしばりあげた。
あまりの手際のよさに呆気にしているルルーシュの手をとって、
「兄さんこっち!早く!!!」
守備よくその場から逃れたのであった。
どこをどう走ったのかなんて覚えていない。日本人地区として貸し与えられた島の船で、ルルーシュはただロロに感謝の言葉をかけるしかなかった。

一方、しばりあげられた二人は。
「父上、ルルーシュと逃げていったあの少年は誰ですか」
「ああ。あれはロロといってな。事情があってエリア11でルルーシュと暮らしている少年だ」
「ロロ君か。かわいかったなぁ。ゴスロリが似合いそうだ…」
「なに、ルルーシュのゴスロリに比べれば…まぁ、確かにあの少年もなかなかかわいい顔をしている」
と、しばられたまま変態な会話をしていたという。