「シャーリー!!だめだ、死ぬなシャーリー!!」 ルルーシュの孤独な絶叫が震える小鳥のように血の海に沈んでいくシャーリーを包み込む。 シャーリーは笑っていた。 走馬灯が目の前を横切る。全てルルーシュと体験したことばかりだ。 「シャーリー!」 震える手で、医者を呼ぼうとする携帯電話に伸びるルルーシュの手をおさえ、じわじわと傷口から広がる血に自分は沈んでいくのだと核心をもって、死を覚悟する。 ルルに、伝えたい言葉があまりにも多すぎて、全てが言葉になることはない。 「何度生まれ変わっても、ルルを好きになるよ」 本当のことだけを、涙を浮かべてルルーシュに微笑みかける。 ルルーシュのギアスが小鳥の翼のように何度も瞬いて、シャーリーの脳内に侵入するが、一度ギアスをかけたことのあるシャーリーには通用しない。 とても切ない言葉だけが零れ落ちる。 視界が霞んで、ルルの手のを握っているのかさえあやふやになる。 ポタポタとふとももあたりに冷たい雫を受ける。露出した皮膚に受けた水は、ルルーシュが本気で流す悲しみの涙。 シャーリーは、言葉の先を続けようとして、あまりに衣服にべとつく血のかわりのインクに嫌気がさして起き上がった。 「ちょっとー、このインク多すぎない?いくら死ぬからってこの扱いはないんじゃないの!」 「あー、シャーリー・・・・」 トントンと玉ねぎのみじん切りをしながら無理やり涙を流していたルルに、彼女は八つ当たりのようにコツンと拳骨をくれてやった。 「ルルも何よそれ!なんで玉ねぎなの!普通、目薬とかさして泣く方法があるでしょ!」 「シャーリー、だめだろ、このシーンは視聴者を悲しみの渦に引き込ませる重要なシーンなんだ。ユーフェミアが死んだ時のシーンはそれはとても哀しくて 、演じていた僕も後になって見ていてなけたよ」 トントントン。 ルルーシュは未だに玉ねぎのみじん切りを続けながら泣いている。 スザクが次の玉ねぎをルルーシュに渡しながら、背後からにょきっと死んだはずのユーフェミア(正確には死を演じたユーフェミア)が、インクそんなに多いですか?と天然系の顔でポカーンとしながらインクを 流すのをやめた。 「カットカットー!」 場を黙らせる神の一声。 「ちょーっとルルーシュ!?涙くらい気合で本物流せないの!?目薬が嫌でいい方法があるっていうからまかせたけど、玉ねぎのみじん切りには無理がありすぎじゃない?」 お天気お姉さんのスケジュールを調整して、監督を引き受けてくれたミレイであったが、重要なシーンがこんなことだとただの犬死シャーリーのシーンにになりそうで先行きがとても不安である。 「なーに、全て私に任せればよい」 野太いおっさんの声。聞きなれた皇帝のものだ。 「ヒロインの死を演じるには、やはりヒロインも相当大物でなくてはな!」 そういって、シャーリーの髪型と同じかつらを被って、アッシュフォード学園の女生徒服に身を包んだ変態皇帝が、シーンのためか頭には普通白ブリーフは被らないだろうが、そんなことかまわずに1年間穿き続けたという、伝説の ゴールデン白ブリーフを堂々と頭に被り、黄ばみを通りこしてどす黒くなっているブリーフを被り直しながら現れた。 「役者変更よ」 舞台では神の声である監督の一声で、シャーリーは舞台から引きずりおろされた。 「嫌よ!ルルは私と悲しみのシーンを演じるのよ!今回のヒロインは私なんだから〜〜〜〜!」 マジで嫌がるシャーリーを、ジノとアーニャが無理やり引っ張っていく。 監督であるミレイの隣に見物にと座布団に座っていたシュナイゼル殿下は、まったりとお茶を啜っている。 できることなら、このヒロインの座を演じたかったが、美少年に女装させて喜ぶのはすきでも、自分が女装するのは嫌な自分本位の皇子であった。 「じゃあ、やり直し!シーン12から!」 まさか代役が変態皇帝と知らなかったルルーシュは、それでも未だに玉ねぎのみじん切りを続けていた。 学園のみんな用にハンバーグを作るために、大量の玉ねぎのみじん切りが必要なのであった。 ミキサーにかけろよという声は、けれど誰も発せず、せっせと主夫らしく玉ねぎを刻み続けるルルーシュは、ヒロインが変わったことさえ知らずにいた。 (兄さんに、もしものことがあれば!) ロロは舞台の影から、必死でルルーシュを見守っていた。 「このシーンはアドリブ使ってOKだから。適当にやっていいわろ〜」 ミレイが変態皇帝を機用したことで、すでに名場面はできないものと諦めている。 隣のシュナイゼル殿下からもらったお茶をずーっと飲みながら、さながら酔っ払ったおっさんの如く呂律が回っていない。お茶は、みためだけで実は強いお酒が入っていた。 シュナイゼルの画策は、シーンを演じ終えて疲れたルルーシュに、労わりのお茶と見せかけて強いお酒を飲ませ、そのまま本国にお持ち帰りしようという安易な発想からであった。 「うおおおお、ルルーシュ、私はもうだめだあああああ」 インクの量はおびただしく増やされており、普通は地面だけでいいのに、髪や顔、ゴールデン白ブリーフも真っ赤で、壁や天井にまで赤インクが飛び散っていた。 さながら頭を木刀か何かで何度も殴打された死体のような血の飛び散り方であった。 トントントン。 ヒロインがかわったことさえ気づかす、ルルーシュは玉ねぎをみじん切りにすることにある種の光悦感を見出していた。危ない兆候である。 「例え何度死のうが私は蘇る。フハハハハハ。ギアスの力を持って、この世界を統一するのだ」 「シャーリー、死んじゃだめだ!」 台本通り、頭に記録された言葉を続けるルルーシュ。 本当のシーンでは凶器は拳銃であり、胸を撃たれたことになっているのだが、変態皇帝の周りには釘バットが何本も転がっていた。 「おおうルルーシュ。いとしのマドモアゼール。私のために涙をそんなにも流してくれるのだな。シャルル感激すぎてイッちゃいそう。 勝手にいってろやおっさんと、その場にいた誰もが思った。特にロロの感情は激しく乱れていた。 (兄さんのおしりに手をまわしてる!あのおっさん、後でヌッコロス!!) 「シャーリー!」 みじん切りに集中していても、体の異変には気づく。 ルルーシュはべしっと、セクハラしていたブリーフ皇帝の手をひっぺがしてその後ふみつけた。グリグリグリ。 「ルルーシュ、本当に気づいてないのかあれで」 スザクがユーフェミアといちゃつきながら、ルルーシュの様子を静かに伺っていた。 「こらそこ、いちゃつき禁止!」 すかさず監督の声が飛んできた。 「シャーリーじゃなく、シャルルだルルーシュ。シャルルと呼んでくれえええ」 「あー。だめだ、死ぬなシャルル。今医者を呼んで・・・」 「るるーしゅうううVVVV」 名前を呼んでくれたことに、しゃるるは感激の涙を流しながら死にゆく小鳥のような演戯をという台本の言葉を忘れ、愛しのまどもあぜーるなルルーシュに抱きついた。 しかし、条件反射のようにルルーシュはそれを避けた。 体育が2なルルーシュにしてはまさに神技である。 「避けるとは、やりおるなルルーシュめ。流石私の息子だ」 「それ以上ルルにセクハラしないで〜この白ゴリラ!私のルルが汚れちゃううう」 ヒロインの座を降ろされたシャーリーが、本気で泣きかけていた。 「だーれが白ゴリラだ!例えるならそう、白き薔薇、白きコウノトリ」 お前のどこが薔薇やねんというつっこみはともかく、何故にコウノトリ!? 「兄さん!」 ロロの叫び声。 白ブリーフゴリラの次の攻撃!ハグハグをもう一度けしかけた皇帝は、パンという乾いた音と共に本当の血を流す羽目になった。 「どうして変態がこんなところにいるんだ」 玉ねぎのみじん切りを終えたルルーシュが、釘バットとかにまぎれて落ちていた拳銃で皇帝を撃ったのだ。しかも脳みそ直撃コース。普通なら死んでいる。 しかし、変態は死なない。 何度も拳銃で心臓や肺、腎臓といった急所ばかりを撃った後で、拳銃は効果がないと知ったのか、釘バットに武器を持ち替えた。 「ルるーちゅ、痛いジョー」 シュナイゼルからお茶(お酒)を貰って飲みながら拳銃の弾を受けていた変態が、目をトロンとさせてウホッと叫んだ。 ルルーシュは、それはもう返り血で衣服をも髪も露出した肌も真っ赤になるくらいに白ブリーフを赤くそめたゴリラをめった打ちにした。 「ウホホホ・・・・、おちっこー」 変態皇帝が、血に染まりながら、ズボンのベルトをはずした。 見たくもないピーが露出される。 頭にゴールデンな白ブリーフを被っておいて、肝心の股間はノーパン。NOパン。アンパン。カレーパン。 赤く染められた壁にむかって犬のように用をたしだした。 「このブリタニアの大恥めがあああああ」 転がっていた釘バットを担ぎ出し、滅多打ちにする。 インクなのか本当の血なのか分からないが、鉄くさい赤い流れが血だまりのように広がっていく。 それでもルルーシュはまだ破壊衝動が抑えきれないのか、皇帝のピーを釘バットで殴った。瞬間、皇帝は陸にあげられた魚のようにビチビチと跳ねた。 ノーパン。NOパン。アンパン。カレーパン。 100人以上も子供を作った皇帝だし、ナニはもう用済みだろう。 顔がまるでお化け屋敷の幽霊のような状態になった皇帝は、それでもシャーリーの役を演じようとしている。 流石のルルーシュも、これ以上変態を触りたくもない、同じ空気を吸いたくもないらしく、手荒に刻んだ玉ねぎのみじんぎりやら道具を片付けて、ジノとアーニャに捕まったままのシャーリーの身柄をもらって 学園を足早に去っていった。 監督であるミレイ他、その場にいた者誰もがシュナイゼルの策略によりお茶(お酒)でべろんべろんによっぱらていた。 唯一平気だったのはシャーリーと、ロロくらいなものか。ジノやアーニャまで酔っ払っていたのだ。肝心のシュナイゼルもベロベロな状態で、スザクに至ってはユーフェミアよりルルーシュのことが好きだとか騒ぎまくる始末で、到底手におえる現場ではなかった。 ちなみに皇帝とルルーシュのシーンは、台本にあった血まみれの小鳥という文字を変換して、変態まみれピーなのゴリラに修正されたという。 |