「ふはははははは!」 平和なアッシュフォード学園に、今日も変態の笑い声が木霊する。 いつも通り、黄ばんだ白ブリーフを頭から被った変態皇帝は、ルルーシュの姿を探していた。 堂々と廊下を通り、悲鳴を上げて去っていく女子生徒が、去り際に石を投げ捨てる。 ガツンと、顔にぶつかる石。 鼻血を垂れ流しながらも、変態皇帝はタフだ。倒れることもよろめくこともなく、歩みを進める。 その日、ルルーシュたちは今度の催しのためにと、会議を進めていた。 そんなルルーシュの着ている服は、なぜかメイドさんだ。 リヴァルもシャーリーもミレイも、それに招待されたナナリーでさえもメイドの姿をしていた。 唯一、スザクだけがボーイの姿をしている。 それに、リヴァルが非難の声をあげた。 「スザクだけボーイなんてずるいぞ」 「そんなこと言われても、じゃんけんで決めたことだから、公平だよ」 ルルーシュの頭には、ネコミミのカチューシャがしてあった。背後には、尻尾までついているし、首には鈴つきの首輪まで。 ナナリーも、同じ姿をしている。兄が、ネコミミをするなら、私もと、自分から志願したナナリーであった。兄だけに、恥ずかしい格好は させられない。 ナナリーの思いやりであったが、ルルーシュには羞恥心というものは欠片もなかった。 こう毎度毎度女装させられていては、嫌がることは勿論、恥ずかしいという気持ちさえ抱くことがなくなってしまう。それは、皇子時代の幼い頃に、 いつも無理やり女装させられたせいで築かれたものでもあった。 「本当に、ルルーシュってば似合うわね。そこらの女子じゃ太刀打ちできないわ。ただのメイドじゃ物足りないと思っていたのよ。ネコミミコスプレさせて正解だったわ」 ルルーシュは、どう見ても完璧な女性であった。非のうちどころのない中性的な美貌は、どんな華やかな女性にだって劣ることはない。 ルルーシュに見惚れたままのミレイに、ルルーシュはため息をついた。 「どうして、俺だけでなくナナリーにまで、ネコミミメイドのコスプレをさせる必要があるんだ」 「あら。ナナリーちゃんが、自分から望んだのよ。お兄様にだけ、そんな姿をさせられないって」 「そうなのか」 真実を知って、ルルーシュが感動する。 「ナナリー、とてもよく似合っているよ。まるで、天使が降りてきたかのようだ」 妹バカのルルーシュが、ナナリーの手を取って褒める。 ナナリーの頬が、兄の嘘のない賛美に、紅くなった。 ネコミミメイドな姿の、とても可憐な少女が二人。何も知らない者がその両者を見れば、思わず写真のシャッターを切りたくなるだろう。 事実、シャーリーとミレイは写真のシャッターを何度も切っていた。 「ルルーシュも、ナナリーも、本当にかわいいよ」 ボーイ姿が嫌なくらい似合っているスザクが、二人の姿に呆けそうになっていた。 今回は、ルルーシュはいつもの長い黒髪のウィッグを被っていない。それでも、どうみても可憐な少女に見えた。衣装一つでこうも変わるなど、生徒会メンバーでさえ初めは知らなかった。 ルルーシュの母親のマリアンヌは、それはとても美しい女性であった。その容姿をそのまま受け継いだルルーシュは、アメジストの瞳が特に印象的である。妹のナナリーも、 マリアンヌの美しさを受け継いだが、まだ幼いともとれる年齢のせいか、ルルーシュのような毅然とした美しさはなく、可憐な可愛さを持ち合わせていた。 誰の目から見ても、二人の兄妹は、とても容姿の優れた、そしてとても仲の良い存在であった。特に、ルルーシュのナナリーに対する態度は、シスコンととられても仕方ないのない部分さえある。けれど、 それも見る者は美しいととらえる。容姿が完璧に整った兄と妹は、華やかなだけでなく、周囲の存在も和ませた。 「お兄様の、鈴の音が澄んでいてとても綺麗です」 「ナナリー。なにも、無理をして俺と一緒の格好をすることはなかったんだぞ?恥ずかしいだろう?」 「いいえ。お兄様と一緒の姿なら、私はどんな格好でも恥ずかしくありません」 車椅子に乗った盲目の少女は、にこりと微笑んだ。 動きに合わせて、首の鈴がリンリンと可愛い音をたてる。 「ナナリー!」 「お兄様!!」 ひしと、抱き合う二人に、自然と周囲から苦笑が零れた。 「ほら、ルルー。ナナちゃんに構ってばっかりせずに、ちゃんと出し物について提案してよ。あ、ナナちゃんも提案してね」 腰に手を当てたシャーリーが、仕方がないとばかりに二人を見た。 二人の周囲に、まるで薔薇が咲いたかのようだ。 とても甘い空気に、リヴァルがついていけないとばかりに舌を出した。 「ほんと、ルルーシュはナナリーちゃんに甘いなぁ」 「当たり前だろう。たった一人の妹だ。目にいれても痛くないくらいだ」 「まぁ、お兄様ったら」 兄のルルーシュはともかく、妹のナナリーには、兄をお兄様と呼ぶくせがある。その儚い容姿と丁寧な言葉遣いのせいもあって、ナナリーはどこぞの貴族のお嬢様に見えて仕方なかった。 クスクスという笑みに合わせて、リンリンと鈴が鳴る。 耳に心地よい音に、ナナリーの表情が余計に和む。 ルルーシュは、今度ナナリーに、鈴のついたアクセサリーをプレゼントしてあげようと、一人ごちる。 「あ、今の表情。惜しい、シャッターチャンスだったのに」 悔しがるシャーリー。 「ルルーシュとナナリーちゃん、それに女性陣はともかく、なんて俺がメイドの格好する必要があるんだよ?」 お世辞にも、似合っていない滑稽な姿のリヴァルが、そう不満を漏らした。 笑いを取るためとしか思えない。 ルルーシュがあまりにも似合い過ぎているので、それと比較されると月と鼈(スッポン)である。 例え、ジャンケンでスザクが負けていたとしても、リヴァルほど酷い女装にはならない。ルルーシュと同じく、そういった部分で羞恥心のもたないスザクなら、メイド の格好だって黙って着こなすだろう。きっと、ルルーシュほどではないが、ウィッグを被ればそれなりに似合っているだろう。 ルルーシュの親友であるスザクは、今ボーイの格好だ。本当に、嫌なくらいに似合っていてかっこいい。その容姿は男性としての強さを秘めたものであり、 ルルーシュほどではないが、女性が黄色い声を出すくらいに整っていた。 「俺がメイドなんて、ほんとに笑い種にしかならないじゃないか」 頬を膨らませるリヴァルに、ミレイが笑う。 「だから、それがいいのよ。完璧に美しいルルーシュと違った、明らかに男性が女装したメイド姿。それも、出し物には必要だわ!」 キラリンと、ミレイの目が光った。 「とにかく、今回はネコミミメイド喫茶できまりね。ルルーシュのヒヨコすくいというのは却下ね」 「ヒヨコ、かわいいですのに……」 ナナリーが、落胆の声をあげた。 それに、ミレイの目がまた光った。ナナリーが、もしもネコミミメイド喫茶に出たくないと言い出せば、ルルーシュまでそれに釣られてしまうかもしれない。 「ナナリーちゃん、落ち込まないで。触れ合いコーナーとして、一箇所にヒヨコと触れ合える場所を設けるわ」 「まぁ、本当ですか?」 リンリンと、鳴る鈴の音でさえも嬉しそうであった。 「ヒヨコ、かわいいですよね。ピヨピヨって鳴き声が、とても好きなんです」 「でも、そうすると、困ったことも出てこない?猫のアーサーが、ひよこを襲ったりするかもしれないわ。ねぇ、会長」 シャーリーの心配な声に、ミレイが任せないと胸を張った。 「猫のアーサーは、出し物の前日から私の家で預かることにするわ」 「本当ですか、会長。それなら、一安心ですね」 「羨ましい…」 ボーイ姿のスザクが、声を出す。 スザクはアーサーに限らず動物全般が大好きであった。けれど、生徒会の一員でもある猫のアーサーには嫌われっぱなしだ。餌をあげても食べてくれないし、 触ろうとするといつも引っかかれたり、噛み付かれたりする。 嫌われているのだと学習したスザクであったが、それでもアーサーと仲良くなろうと、スキンシップはかかせない日々を送っていた。 「とにかく、ネコミミメイド喫茶で決まりね。今回は、スザク君だけボーイの姿をしてもらうわ。ルルーシュと二人一組になって、最初は客の呼び込みをしてもらいましょう。 そうすれば、他のクラブが出す喫茶に人は集まらないわ」 今回の催しものは、既にクラブの半数がもう決まっており、会長のミレイのところにその案を提出している。その中で、バレー部と野球部が喫茶を催すことがすでに決まっていた。 いわば、ライバルである。それを蹴落とすためにも、最初の呼び込みはかかせないものである。 「会長、ズバリ今回のターゲットは女性ですね」 シャーリーが、ミレイの同意を求めた。けれど、ミレイは首を横に振る。 「甘いわよ、シャーリー。なんのために、ルルーシュにネコミミメイドコスプレされると思っているの。それに、当日は私もシャーリーもナナリーちゃんも、ネコミミメイドの コスプレをするのよ。ターゲットは、男女両方よ!」 「なるほど!確かに、ルルの女装は女の子だけでなく、男子生徒にも人気が高いですよね。それに、ナナちゃんには隠れファンも多いわ。ファンクラブまで存在するくらいよ」 その言葉に、ルルーシュが止まった。 「ナナリーは、誰にも渡さないぞ!ファンクラブだろうなんだろうと、誰にもだ!!」 「お、落ち着いてルルーシュ」 「そうだよ、落ち着くんだルルーシュ」 「ルル、ファンクラブっていっても、何もナナちゃんに害を与える行動は一切してないわ。隠し撮りだって、会長が厳しく禁止してるのよ」 シャーリーの言葉に、ルルーシュは少し落ち着きを取り戻す。それでも、アメジストの瞳は険しい輝きを緩めなかった。 「ナナリーちゃんの写真は、生徒会で取ったものしか売ってないわ。ちゃんと、ルルーシュの承諾を得てからいつも売ってるあれよ」 「あれか」 ネコミミメイドの格好のまま、ルルーシュがドサリと椅子に座った。 ナナリーの交友関係は自由にさせているが、男子生徒は厳しく取り締まっているルルーシュであった。 友人としてナナリーの周囲にいたがるのであればいいが、下心をもって近づこうものなら、ルルーシュに影で抹殺される。 事実、アッシュフォード学園で、ナナリーに下心を持って近づいた男子生徒は何人かいた。彼女の足が不自由なのをいいことに、悪戯をしようと近づいたのだ。 その男子生徒たちは、皆が皆病院送りになり、あげくにアッシュフォード学園を辞めている。アッシュフォード学園に居られなくすることくらい、ルルーシュには簡単だったのだ。 ゼロとして、黒の騎士団を率いているルルーシュには、ゴキブリを退治するより簡単なことだ。 それに、アッシュフォード学園の理事長の血を引くミレイが味方である。ナナリーに悪戯をしそうになったという理由だけで、彼女もその生徒を理事長に告げ口をして、退学させている。 今は民間人として暮らしているとはいえ、ルルーシュとナナリーは生粋のブリタニアの皇子と皇女である。 その存在を知っており、なおかつ庇護しているアッシュフォード家からすれば、彼らに理由なく害を与える者は、例え教師であっても許さなかった。 それは、ルルーシュが求めたことでもあり、そして彼らを保護したアッシュフォード家が背負わなければならない責任でもあった。 「いらっしゃーい、いらっしゃーい。美女、ルルーシュがネコミミメイドで紅茶やいろんなジュースを持ってきてくれるよー。写真だって取り放題だよー」 ネコミミメイドのコスプレをしたシャーリーが、喫茶店となった生徒会室の前で、客の呼び込みをしていた。 ルルーシュとスザクが、最初学園をまわって客の呼び込みをすることとなっていたのだが、すでに噂を聞きつけた女子生徒の大群が押し寄せて、それどころではなくなってしまった。 ルルーシュは、圧倒的に女子生徒に人気が高い。それは、その美貌からくるものでもあったが、女性に誰にでも優しい副生徒会長に接した女性は、誰もが彼に憧れる。 暗黙のルールとして、抜け駆けは許さないというものがあるせいで、ルルーシュに彼女はいなかった。しかし、それでも毎日のように、差し入れやラブレターがくる。 酷い時には、靴箱がラブレターの山で埋まっていた。バレンタインの日など、追いかけまわされる地獄の日だ。 「キャー、ルルーシュ君ほんとに綺麗ー!かわいいー!」 「ナナリーちゃんと一緒になると、ほんとに目の保養だわー!」 忙しく給仕をするスザクやリヴァルを放っておいて、ルルーシュは席についた女性たちと楽しげに会話をしていた。 ナナリーも隣にいて、一緒に二人で笑顔を振りまく。 「全く、ルルーシュまで人使い荒いよ!自分は給仕せず、会話だけ楽しむなんて。変わってほしいぜ」 リヴァルが、注文された紅茶の乗ったトレイを片手に、すでに降参の音をあげていた。 あと2時間は、休憩なしだ。 パシャパシャと、シャッターを切る女性たちの多いこと。ルルーシュとナナリーは、すっかり喫茶のマドンナ的存在になっていた。 「ひよこ、かわいいー。喫茶で動物と接することができるなんて、会長もやるわ」 「あ、それ私が頼んだ分よ。スザク君、こっちにオレンジジュースもう一杯お願い〜」 飲み物と一緒に、軽食もとれる。 それはルルーシュたちがほぼ徹夜で作ったもので、クッキーなどのお菓子類がほとんどだった。 「このクッキーおいしい!流石ルルーシュ君の手作りなだけあるわね〜」 「ほんと、うまいよな。ルルーシュ、いっそ、性転換してほんとの女になったらどうだ?」 男子生徒の軽い冗談に、笑いが飛ぶ。 ルルーシュは、家事が得意である。特に、クッキングは得意中の得意。今回用意された菓子の一部は、ほとんどがルルーシュ一人で作ったものだ。他の生徒会の仲間は、 その手助けにおわれただけに近い。他の生徒会メンバーが作れば、菓子は大抵失敗に終わる。 入る人数を見越してか、ルルーシュが作った菓子だけでは足りずに、業者を呼んでブランドもののケーキなども多数用意していた。 「本当にうまいな」 バリバリ菓子をほうばるその姿に、悲鳴があがった。 男女問わずに賑わっていた喫茶は、一転して阿鼻叫喚の地獄へとかす。 カララン。 なんともいえない音をたてて、首にぶら下げられていたカウベルが鳴った。 「ふははははは!」 ネコミミメイドの姿をした変態皇帝が、いつの間にか生徒会が催す喫茶店に現れていた。 黒いマントを被って、歩いた甲斐があった。 石を投げられるばかりで、このままでは目当てのルルーシュがいる場所に着く前に、警察を呼ばれてしょっぴかれると危惧した変態皇帝は、黒いマントで全身を包み込み、匍匐全身を開始した。 ウネウネと腹ばいになって歩くその姿に、疑問を浮かべた者も多かったが、いろんな出し物がだされていた。仮装部屋なんかの出し物もあったので、すれ違った生徒は皆、 どこかのクラブの出し物だろうと、笑い飛ばしていた。 匍匐全身で進む皇帝は、必死だった。 しかし、そのスピードは常人ならざるもので、あっという間に生徒会が催す喫茶店に辿り着く。 ウネウネウネウネ。 すごいスピードですれ違っていく黒い影に、誰かが失笑した。 すれ違っていく生徒に、蹴りを入れたりわざと踏みつけたりされながらも、変態皇帝は目的の場所に辿りつき、そのうんこ巻きな髪型を整えて息をつく。 けれど、黒いマントは頭から被ったまま。 店内に入り、紅茶を注文して啜り、ルルーシュの手作りだというクッキーを口にした。 そして、感動のあまり黒いマントを捨てて立ち上がり、涙を零した。 「なんという美味!宮殿が抱えるコックにすらまけぬ旨さ!」 バリバリとクッキーをほうばる変態皇帝に、その場にいた誰もが悲鳴をあげる。 もっこりとした股間を強調するかのような作りの、メイドエプロン。ウンコ巻きの髪型には黄ばった臭い白ブリーフを被り、その上からネコミミのカチューシャをしている。 首には、鈴のかわりになぜかカウベル。 今にも牛のウモーという鳴き声が聞こえてきそうだ。 感涙のまま、変態皇帝は黄ばんだ白ブリーフを繋ぎ合わせてできた、袋を取り出した。 そして、逃げていく生徒たちが残した菓子を次々にその中にいれる。 ルルーシュの作った菓子を、ブリタニアでも食そう。 そう考えた変態皇帝の眉間を、ネコミミメイド姿のままのルルーシュの足蹴りがヒットした。 カララン。 カウベルが哀しい音をだす。 テーブルごと粉砕した変態皇帝は、けれど次の瞬間にはルルーシュに抱きついていた。 「この細い腰、なんという罪なことかあーーー!真にけしからん!その神が与えし美貌の、なんと美しいことか!マリアンヌにも劣らぬ、なんと可憐なことか!」 リンリンと、動くたびにルルーシュの首の鈴が鳴った。 「離せ、この人外変態めが!!!」 腰に抱きついた変態皇帝を、ルルーシュは渾身の力で引っぺがした。 そして、いつものように懐から取り出したサイレンサーつきの銃で、まずは一発。 パン。 ドガシャーン。 変態皇帝は、前のめりに倒れた。巻き込まれたテーブルと椅子が、けたたましい音をたてた。 変態皇帝が起き上がる前に、その頭をグリグリと踏んづける。 そして、その肩に銃を近づけ、引き金を引く。 パーン。 血の海が、床に広がっていく。 いつもは利かぬはずの銃の効果に驚いて、ルルーシュが変態皇帝を踏みつけていた足をどかした。 「おい、どうしたこの変態!いつものように復活しないのか!?」 「お兄様!?お父様が、どうかなされたんですか」 全自動式の車椅子で近づいてくるナナリーを、けれどそれ以上変態皇帝に近づけさず、ルルーシュは様子を伺った。 血が、止まらない。 変態皇帝は不死身ではなかったのか? 少し焦りだすルルーシュ。今はまだ、皇帝に死を与える時期ではない。 「くそ」 メイドエプロンの布地を破り、止血を試みる。 けれど、すぐに気配を察知して、ルルーシュは飛び退った。血を流しているはずなのに、銃弾で受けたはずの傷跡がない。 ウネウネウネウネ。 匍匐全身で、変態皇帝はルルーシュではなくその隣にいたナナリーに近づくと、立ち上がってナナリーの手を取った。 「フハハハハ、ルルーシュ、愛しているぞおおお!!」 どこからか指輪を取り出して、ナナリーの薬指にはめた。 「ナナリーとの愛は、永遠なのだあああ!!」 「ナナリーを離せ!その薄汚い手を、今すぐ離せ!」 変態皇帝が流していた血はインクだった。 拳銃を構え、ルルーシュはなんの躊躇もなしに数発の銃弾を変態皇帝に浴びせる。 「ほわちゃあああああああ!!」 「なにぃ!!」 変態皇帝は、銃弾を白羽取りした。 驚愕のルルーシュが、一歩後退する。 その時、ルルーシュの太ももがちらりと見えた。メイドエプロンの裾を破うろして、太もも付近まで布地が避けてしまったのだ。 ブシュウウウウ。 銃弾を受けても無傷だった変態皇帝は、天井に向かって凄まじい勢いの鼻血の噴水をあげると、その場に撃沈した。 「お兄様!」 「ナナリー!」 変態皇帝の手を逃れて、ナナリーがルルーシュに車椅子を向ける。その体を抱き取って、ルルーシュは安堵のため息を零した。 「今すぐ、ここを出よう」 「はい、お兄様」 変態皇帝が流した鼻血の量は、とっくに人間の致死レベルをこえていた。けれど、変態皇帝は変態だけに死なないだろう。 復活を恐れて、ルルーシュはネコミミメイドの姿のまま、ナナリーの車椅子を押して、全速力で生徒会室を後にした。 他の生徒会メンバーは、変態皇帝が現れた時点で散り散りになって逃げている。関わるのを恐れて。 喫茶に集まっていた客も、凄い悲鳴をあげて逃げ出していて、ルルーシュが銃を撃った時点で、その場にいたのは、変態皇帝と、ルルーシュとナナリーの三人だけであった。 「あの、お兄様……」 「どうした、ナナリー?」 逡巡気味に、ナナリーが自分の薬指にはめられたままだった指輪を撫でた。 そして、それが自分が欲しがっていたデザインのものであると気づく。 「お父様は、喫茶の邪魔をしにきたんじゃないと思います」 「どうしてだ?」 「だって、お父様がはめてくれたこの指輪、私の指のサイズにピッタリなんです。それに、このデザイン、前から私が欲しがっていたものです」 確信をもって、言い放つ。 変態皇帝が、ナナリーの指に指輪をはめたとき、ナナリーとの愛は永遠なのだといっていたのを思い出して、ナナリーは眩しい笑顔を放った。 「お父様は、不器用だけれど、きっと今日は私にプレゼントをしにきてくれたんだと思います」 そういえば、ナナリーの誕生日が近い。 けれどルルーシュは、変態皇帝に限ってそんなことはあるものかと、首を振った。 「あの変態は、とにかくとんでもない変態なんだ。ナナリーがその指輪を気に入ったのなら、無理に外せとはいわないが」 「はい」 一人残された変態皇帝は、菓子を漁りながら、戦利品がとても多くなったことに満足する。 黄ばんだ、洗濯もしていない白ブリーフを繋ぎあわせて作った袋に食べ物をいれるなんて、衛生上この上もなく汚い。けれど、変態皇帝は一向に気にしない。 食べるのは自分だけなのであって、そんなことは構わないのだ。 そして、ウネウネウネと、気に入ったのか匍匐全身で床に菓子が落ちていないかを確認する。落ちていると、平気でそれを拾って食べた。 カラララン。 首のカウベルが、哀しい音をたてた。 「ナナリー、お誕生日おめでとう」 変態皇帝の言葉は、ナナリーにもルルーシュにも聞いてもらえることなく、静かに消えていった。 |