「お兄様。お誕生日、おめでとうございます」 そう言って、ナナリーはルルーシュに綺麗にラッピングされた小箱を渡した。 「ありがとうナナリー。開けてもいいか?」 「はい、お兄様」 ナナリーが、花も綻ぶような可憐な笑みを浮かべた。 ルルーシュは、ラッピングを綺麗に解いて、中身を開けた。 中には、アメジストをあしらったペンダントが入っていた。ルルーシュには宝石をつける趣味などなかったが、 妹のナナリーが選んでくれたものであれば無条件で身につけた。 「ありがとう、ナナリー。おれの瞳の色と同じアメジストにしてくれたんだな」 「はい。お兄様の綺麗な瞳の色と同じ宝石ですから。それと、私も同じペンダントを作ってもらったんです。お兄様と、お揃いですよ?」 ナナリーは、服の下からペンダントを取り出して、ルルーシュに見せた。 それに、ルルーシュのアメジストの瞳が優しく笑う。 ルルーシュは、本当ならこの世界にはいてはいけないはずの存在だった。 ゼロレクイエムの計画は、ルルーシュの死によって幕を閉じ、そして世界は新しい一歩を踏み出していくはずだった。それが神様の悪戯か、 ルルーシュはV.V.から父であるシャルルの手に渡ったコードを所有していた。そのせいで、ゼロに刺され一度は死んだものの、コードの 不老不死という理念に従って復活したのだ。 世界は、それでも変革していく。 ルルーシュは、身を隠して生きていくことよりも、全てを曝け出して生きることを選んだ。結果、ルルーシュは死んだ先代皇帝の 双子の弟で、名前まで同じルルーシュであり、今まで幽閉されていたという筋書きができあがってしまった。 それはナナリーが、ルルーシュと一緒に暮らせることを強く望んだせいもあり、ルルーシュはその馬鹿げた設定を仕方なしに 受け入れた。 それに、双子の兄弟ということにしなければ、ルルーシュはあまりにも死んだ先代の皇帝に似すぎていたのだ。実際に死んだはずの 先代皇帝なのだから、容姿は同じはずであるが、ルルーシュが生きていると世界は何かと不都合な点が多かった。 それに、ルルーシュは葬儀まで済ませているのだ。ブリタニアだけでなく、世界中の誰もがルルーシュの死を知っていた。 それなのに、コードのせいで蘇ったしまったなど、世界が受け入れてくれるはずがない。 もしも本物のルルーシュだと知られれば、ゼロレクイエムの計画が台無しになってしまう。 ナナリーは、たとえ神の悪戯とはいえ、コードを継承してルルーシュが蘇ったことに、感謝をした。死んだはずの愛しい兄が、 変わらずに自分の隣にいてくれて、会話もできれば触れ合うこともできた。 パレードの時、ナナリーは、ルルーシュの体が血まみれになりながら自分の方に落ちてくるのを 信じられない目でみていた。ゼロに刺されたその体に触れ、ゼロレクイエムの真相を稀有な能力で悟ってしまったナナリーは、 兄が自ら悪を演じ、世界のために死んでいくのだと知って絶叫した。 息絶えた兄の死体に縋りつき、泣き叫んだ。何時間も、何十時間も。 兄の葬儀の時に、現れたC.C.によってルルーシュのコードは解かれ、ルルーシュは蘇った。 ナナリーは、ギアスの人知を超えた力に驚愕しながらも、生き返った兄に縋りついて何度も愛していると叫び、もう絶対に一人にしないで ほしいと繰り返した。 ルルーシュは、そんなナナリーを抱きしめ、絶対にもう離しはしないと誓ってくれた。 そして、影で生きることはせず、ルルーシュの双子の弟として、ルルーシュは堂々と宮殿で暮らしはじめた。ナナリーと、スザクと、 そしてC.C.と一緒に。 「お兄様、かしてください。私がつけますね」 「ああ、すまない」 かがんで、ナナリーがペンダントをつけやすいようにする。 「やっぱり、思ったとおりです。とても似合っていますよ、お兄様。お兄様には、アメジストが一番似合います」 ナナリーが、手を叩いて喜んだ。 ルルーシュの深い紫と同じ色をしたアメジストのペンダントは、ルルーシュの瞳を強調するかのようでよく似合っていた。 「ナナリーも似合うよ。とてもかわいいよ」 「まぁ、お兄様ったら」 ナナリーが、零れ落ちんばかりの笑みを浮かべる。とても嬉しそうだ。 「スザクも、そう思うだろう?」 会話を振られて、ゼロの仮面を外し、私服だったスザクがルルーシュの言葉に頷いた。 「よく似合うよ、ナナリー。勿論、ルルーシュも」 普段はゼロとして振舞っているスザクだったが、今いる場所はアリエス宮の一室である。アリエス宮では、スザクはゼロの仮面を脱ぎ、服装も変えていた。 ナナリーとルルーシュとそしてC.C.しかいない場所では、スザクはゼロの姿をする必要性はなかった。 ルルーシュの強い要望の元、スザクはゼロの仮面を脱いだ。 「ルルーシュ、誕生日おめでとう!」 台所から、いきなりC.C.がケーキを片手に現れた。 そして、それをルルーシュの顔面に向かって投げた。 ルルーシュは、ナナリーの愛に酔いしれていて、かわすことができなかった。 ベチョ。 見事に、C.C.が投げたケーキはルルーシュの顔にヒットした。 「あはははは!バカみたいだぞ、ルルーシュ!」 ルルーシュは、ケーキをすぐさまはらいのけると、絹でできた豪奢な衣装のスカーフの部分で顔を拭った。それでも完璧に拭いきれず、生クリームが顔のあちこちについていた。 「C.C.、もっとましな祝い方はないのか!?」 「静かに祝って欲しかったのか。それならそうと言えばよかったのに」 「お前な」 「ちゃんと、手作りのケーキも用意してあるぞ。ちなみに、今投げたのは失敗作だ。一度でいいから、ルルーシュの顔にケーキを投げてみたかったんだ。 面白いほどに滑稽だったぞ、ルルーシュ」 「ルルーシュ、顔洗ってきたほうがいいよ」 スザクが、タオルを手渡す。 ルルーシュは、生クリームまみれな顔を洗うために洗面所に向かった。そして、顔を洗うと衣装も取り替えた。 「お兄様、相変わらずC.C.さんと仲がいいですね」 ナナリーは、焼餅を焼くこともなく、二人を見守っていた。 C.C.は、少女の外見はしているものの、年齢はこの中の誰よりも一番上だ。そのせいか、いつも落ち着いている。魔女と呼ばれるだけあって、コードを持っているせいで不老不死であった。 けれど、ルルーシュがコードを継承して蘇ってから、C.C.は少し子供らしい悪戯な部分も見せるようになっていた。 C.C.とて、ルルーシュの死が相当きいたようで、ルルーシュと過ごせる時間を満喫するかのように、時折はしゃいだりもした。 「仲がいいなら、普通はケーキなんて顔面に投げないだろう」 ぶつぶつと文句をいうルルーシュに、C.C.が舌を出した。 「私に絶望を味わせてくれたルルーシュへの、ささいな仕返しだ」 「俺は生きているだろう。まだ絶望は消えないのか?」 「いいや。ルルーシュは、生きて今私の隣にいる。ナナリーとスザクと私と一緒だ。私は幸せだよ」 水に塗れたルルーシュの髪を、C.C.はタオルで拭き取った。 「本当に、幸せだよ。魔女である私に、こんな幸せが許されていいものなのかと、時折思うくらいだ」 「私も、C.C.さんがお兄様の傍にいてくれて幸せです。お兄様を幸せにしてくれる女性がいてくれて、とても嬉しいです」 「ナナリー。お前はいつもかわいいことを言うな。兄のルルーシュとは大違いだ」 ルルーシュは、C.C.に髪を拭かれながら、ため息をついた。 ナナリーとC.C.は、今では実の姉妹のように仲がいい。 それも全てはルルーシュの存在があってこそだ。 「ケーキ、みんなで食べないかい?せっかく手作りだっていうんだし」 スザクが、思い出したようにC.C.の方を見た。 「そうですね。C.C.さんと一緒に、私もケーキ作りがんばりました」 「そうか。ありがとうナナリー、C.C.」 「味見させてもらったけど、おいしかったよ」 スザクが、つけ加えた。 「そうだルルーシュ」 「なんだC.C.」 「お誕生日、おめでとう。これが私からのプレゼントだ」 「ピザ1年間無料クーポン券……C.C.らしいな」 C.C.の言葉に、密かに期待を抱いたルルーシュであったが、呆気なく撃沈する。 「だめですよ、C.C.さん。ごまかしちゃ。お兄様、これがC.C.さんからのプレゼントです」 密かに隠してあったプレゼントを、ナナリーが見つけ、ルルーシュに手渡した。 「ナナリー!ずるいぞ!」 「ちゃんと、こんな日くらい、素直になってくださいね」 「う」 ナナリーが、にこりと微笑んだ。 そして、ぐしゃぐしゃに包装された中身を、ルルーシュは取り出した。 「ぬいぐるみか」 「違う。正確には、ぬいぐるみの格好をしたまくらだ」 お世辞にも、そのぬいぐるみは可愛いとはいえなかった。熊をかたちどったつもりなのだろうが、馬か豚に見えた。 「ありがとう、C.C.。大切にするよ」 手作りであるのが見て分かり、ルルーシュはC.C.の頬にキスをした。 それに、C.C.が紅くなった。 ナナリーやスザクの前でキスされるのは、あまり頻繁ではなかった。 アリエス宮は、今はC.C.とルルーシュ二人の住いになっており、二人きりのときは緊張も紅くなったりもしないが、流石に見物客が いるとそうもいかない。 「不細工だろう。別に、捨ててもかまわないんだからな」 プイっとそっぽを向くC.C.に、ルルーシュが首を振った。 「一生懸命作ってくれたんだろう?捨てたりするものか」 「ルルーシュ」 見つめあう二人を、ナナリーが止めた。 「お兄様、続きは夜にしてください。今は、私にもお兄様の誕生日を祝わせてください。皇帝である私には、自由になる時間は限られています」 「そうだな。すまない、ナナリー」 「えっと、ルルーシュ。僕からの誕生日プレゼント。何も思い浮かばなかったんで、つっこみはなしの方向で」 スザクが渡した誕生日プレゼントは、手書きの肩たたき券だった。ルルーシュは、声をあげて笑いそうになるのを堪えた。 スザク、ナナリー、C.C.が、台所からケーキを持ってくる。 蝋燭はたてなかった。 ケーキを切り分けて、3人がルルーシュの方を向いて、声をそろえた。 「「「誕生日おめでとう!」」」 |