メリー苦しみます








「メリー苦しみますだ、ルルーシュ」
C.C.が、部屋に入ってきたルルーシュに向かって、パーンとクラッカーを打ち鳴らした。
ルルーシュの返事も聞かず、次々とクラッカーを鳴らしていく。
その全部がルルーシュの頭に降り注ぎ、ルルーシュはクラッカーの残骸と紙切れにまみれていた。
「何がメリー苦しみますだ。それを言うなら、メリークリスマスだろうが」
「祝う彼女のいない男や、祝う彼氏の女には、メリー苦しみますな日だろう?せっかく恋人と甘く過ごせる大切な日だというのに、相手がいない場合は、メリー苦しみますでいいんじゃないのか」
ルルーシュは、クラッカーの残骸を片付けてゴミ箱にいれた。
「確かに、そういう意味では、メリー苦しみますって言葉は合っているのかもしれないな」
「ルルーシュも、祝う相手がいないな」
「何を言う。俺には、ナナリーという大切な存在がいる。ナナリーとクリスマスを過ごすんだ」
「何かにつけて、お前は、ナナリー、ナナリーと、妹のことばかりだな。これだから、童貞なんだ、お前は」
「関係ないだろう」
ルルーシュは、C.C.の言葉を適当にあしらった。
「こんなに分厚いラブレターを毎日貰っておきながら、お前は彼女を作らないんだな」
C.C.の手には、ルルーシュの鞄から勝手に取り出した、ラブレターの山があった。
内容は、全てルルーシュとメリークリスマスを祝いたいというものばかりだった。

「お前、また勝手に人のものを漁って!恥というものを知れ!」
ルルーシュは、C.C.からラブレターの山を取り返すと、読むこともなく、ポイとゴミ箱に捨てた。
「うわ、最低だな、ルルーシュ。読むこともなく捨てるのか」
「読んでいるだけ、時間の無駄だ。毎日、毎日、女たちも飽きることなくよくもまぁ、ラブレターなんて書いて渡してくるものだ。呼び出されても何度も断っているし、ラブレターは渡されても読まないと生徒会企画の「ルルーシュの日常」というかいうくだらない校内放送で公言しているのに、減ることがない」
「ルルーシュはもてもてだな。本当に、こんな男のどこがいいんだろうな?」
C.C.が、おかしそうに、捨てられたラブレターに同情する。
「どうせ、見た目だろう」
「そうだろうな。ルルーシュは、美しいからな。女の私から見ても、美しい」
「美しいのはC.C.だろう」
「おや、私の外見を褒めてくれるのか?」 「少なくとも、そこらにいる女よりはよほど美人だ」
ルルーシュは、C.C.の白い雪のような肌をした横顔を見ていた。
長い翠の髪の魔女は、ゾクリとするような美貌を湛えていた。それは、もう何百年も変わることがない、劣ることを知らない美貌であった。
同じように、母親マリアンヌの美貌を引き継いだルルーシュも、美しかった。生徒会企画で女装した時など、本当に美少女にしか見えないくらいだ。
妹のナナリーも、マリアンヌの血を引いていて美しかったが、兄のように母親譲りの美貌ではなく、愛らしい、とてもかわいいものだった。

クリスマスツリーの飾り付けは、すでに終えている。
目の見えない妹のためにしていることだが、見えなくても、やはり雰囲気というものは大事である。
C.C.は、ルルーシュの手を引っ張った。
「おい、どこにいくつもりだ」
「なぁに、すぐそこだ」
C.C.は、ルルーシュをクリスマスツリーのところにまで引っ張ってくると、その黄金の瞳に凛々しいまでの美しさをたたえて、紅い唇を吊り上げた。
「メリークリスマス、ルルーシュ」
「C.C.?」
「どうせ、お前のことだから、イブもクリスマス当日も、ナナリーと二人きりで甘く過ごすのだろう?」
C.C.の顔は、どこか寂しげだった。
共犯者となったが、ルルーシュとナナリーの二人だけの、大切な時間を邪魔することはできない。
そんなC.C.の頭を、ルルーシュが乱暴に撫でた。

「うわ、何をする」
「何を言い出すのかと思えば。お前はばかか。ナナリーは、お前の存在を知っているんだぞ?だったら、三人でクリスマスを祝うに決まっているだろう」
思ってもみなかった言葉に、C.C.が顔を上げる。
「いいのか?大切な家族の中に、私が紛れて」
「お前はもう、家族のようなものだ、C.C.」
ルルーシュに、頭をぐしゃぐしゃ撫でられて、C.C.はマリアンヌと過ごした日々を思い出していた。
あの頃は幸せだった。
二人で、クリスマスを祝ったものだ。プレゼントを交換しあい、笑いあった。

「メリークリスマス、C.C.」
ルルーシュが、白皙の美貌で、C.C.に小さな紙切れを渡した。
それを見たC.C.は、嬉しさのあまり飛び跳ねた。
「ピザ1週間、食べ放題クーポン券!クリスマス限定チーズくん人形引き換え券まで!!」
「それでいいだろう、C.C.は。宝石や服なんかより、お前にはそれのほうが似合っている」
「ルルーシュ。私は、お前に渡すプレゼントなど何ももっていないのだぞ。それなのに、いいのか?」
「俺が、勝手にしていることだ」
「ルルーシュ!」
C.C.が、ルルーシュに抱きついた。
ルルーシュはよろめいて、ゴンと壁に頭を撃ちつけた。
「痛い。お前という奴は、もう少し手加減というものを考えろ」
「だって、嬉しいのだから、仕方ないだろう。クリスマスにプレゼントを貰うなんて、何年ぶりだろうか」
マリアンヌを過ごしていた日以来ではないだろうか。
C.C.は、本当に嬉しそうにはしゃいだ。
「メリークリスマスだ、ルルーシュ!!」
抱きついてくるC.C.を、ルルーシュは紅い顔で受け止める。
C.C.の胸は少し大きめだ。それが、胸にあたっている。
「ははは、本当に嬉しいぞ、ルルーシュ。私は幸せだ」
「大げさだな」
「だって、誰かからプレゼントを貰うのは本当に久しぶりなんだ。それも、とても嬉しいプレゼントを貰うのは」
マリアンヌからも、よく嬉しいものを貰った。
くまのぬいぐるみや、お揃いの耳飾りや、綺麗な衣服、高級な宝石。
だが、C.C.がマリアンヌから貰って一番喜んだのは、手づくりのお菓子だった。
いつもおいしいお菓子を、マリアンヌは作ってくれた。
手作りというところが、C.C.を余計に喜ばせた。
ルルーシュから貰ったものは、手作りではないけれど、ルルーシュはC.C.の好みをよく把握してくれた。
ピザが大好きで、チーズ君人形も大好きだ。
チーズ君人形を集めているC.C.には、クリスマス限定のチーズ君人形は、是非とも手にいれたい代物であった。
「当日は、ルルーシュの手作りのご馳走も食べれるのだろうな。ああ、私は幸せ者だ」
「そんなことでお前は幸せになれるのか。安く済む奴だな」
「何とでも言え。嬉しいのだから、仕方ない。家族か」
ルルーシュの、家族という言葉が、とても嬉しかった。
居候の身であるC.C.を邪険することなく、ルルーシュは暖かく家族として迎えてくれるのだ。
ナナリーならそうしそうであったが、まさかルルーシュの口から、家族という言葉が飛び出してくるとは思ってもいなかった。
「フフフフ」
「君の悪い奴だな」
「嬉しいのさ、ルルーシュ。ああ、私も何かナナリーに贈り物をあげなければならないな。心優しいナナリーには、贈り物は絶対に必要だ」
何にしようかと迷いだすC.C.に、ルルーシュは表情を緩めた。
「全く、お前という奴は」
「ふふふふ。楽しみにしていろ。当日までには、私もルルーシュに贈り物を用意しておく」
その言葉に、ルルーシュのアメジストの瞳が不思議そうにC.C.を見つめた。
「私が、誰かに物を贈るのは、本当に久しぶりなんだぞ。そんな気持ちにさせてくれたルルーシュに礼をいう」
「勝手にしろ」
「ああ、勝手にするさ。贈り物が変でも、文句は言うなよ?」
「別に、最初から期待していない」
一蹴するルルーシュ。
C.C.は、そんな様子を気にした風もなく、本当に楽しそうだった。

「お兄様、ただいま」
「おかえり、ナナリー。さよこさんも」
散歩から帰ってきた二人を、ルルーシュが満面の笑みで出迎える。
C.C.のことは放置だ。
「あら、C.C.さんは?」
さよこが、いつもなら真っ先に迎えにくるC.C.の姿が見えずに、探す。
「あいつは今、頭の中に春がやってきているんだ」
「まぁ、お兄様ったら。C.C.さんに、もうクリスマスプレゼントを渡してしまったのですね」
どうしてのばれたのかとばかりのルルーシュに、にっこりとナナリーが微笑む。
「私も、もうちゃんとお兄様とC.C.さんと、さよこさんの分のクリスマスプレゼントは用意してあります。楽しみにしていてくださいね」
「ああ、ナナリー」
「まぁ、ナナリー様、私の分までなんて。ありがとうございます」
さよこが、申し訳なさそうに畏まる。
「いいです、さよこさん。さよこさんには、いつもお世話になっていますので」

「少し早いですが、メリークリスマス、お兄様!」
「メリークリスマス、ナナリー!」

二人は、暖かく微笑みあった。
そんな様子を、さよもこ暖かく見守る。
そして、C.C.も、マリアンヌが残した二人の命を、見守るように、そんな二人の姿を玄関から少し離れた場所で見つめていた。



メリークリスマス!!