「ナナリー!」 今日も小さなルルーシュは元気だ。 「あら、小さなお兄様。お勉強はどうしたのですか?」 「暇だったから抜け出してきた」 「あらあら。困りましたわね」 ナナリーは、おっとりと笑う。 5歳のルルーシュ。生前の少年皇帝ルルーシュに生き写しである。それもそうだろう、この小さなルルーシュは、C.C.とルルーシュが最後の夜に宮殿で愛し合った一夜にできた、二人の愛の結晶だ。 C.C.は、一度ルルーシュの子供は流産したと思っていた。腹部が痛み、月のものなどないはずなのに、血が流れたのだ。 医者などにはかからなかった。 だが、ルルーシュの子供は確かにC.C.のお腹に宿って、流れてなどいなかった。 そのまま僅か数ヶ月で臨月を迎え、C.C.はブリタニアの最新の医療機関に入院し、子供を産んだ。 その子供に、C.C.は「ルルーシュ」と名づけた。父親にそっくりだったからだ。誰よりも魔女が愛した魔王。 世界のために生贄となって僅か18歳という年齢で死んでしまった。 そう、彼は死んだのだ。 それがなんの神のイタズラか、ルルーシュの子供が5歳になったとき、今までも普通の子供ではない、何処かおかしいと思っていたのだが、父親であるルルーシュの精神が宿っていることが発覚した。 小さなルルーシュは、自分の存在は争いの種になるだけだと、それまでの幼い間ずっと母親であるC.C.にも隠していたのだ。 だが、幼い精神も宿しながら、ルルーシュの精神を宿した小さなルルーシュは、ナナリーやスザクと共にアリエス宮殿で過ごしていくうちに、隠す必要もないかと思い、全てを話した。 その時のナナリーとスザクにC.C.の喜びようといえば、まるで雨が降ってきたかのように涙を流して。 小さなルルーシュは、皇族の皇子として育っている。 ナナリーは、小さなルルーシュを第2皇位継承者とし、コーネリアの娘ユーフェミアを第一皇位継承者とした。できることなら、もう二度と小さなルルーシュに皇帝にはなってほしくない。小さなユーフェミアと将来婚姻が囁かれている小さなルルーシュ。 でも、ナナリーは小さなルルーシュが10歳になったら、小さなルルーシュと婚約するつもりだった。兄であって、兄ではない小さなルルーシュ。婚姻は可能だ。 家臣たちからもたらされる結婚を促す言葉に頑なにナナリーは誰とも結婚しないと話す。でも、小さなルルーシュが10歳になったら婚約していつか彼が結婚できる年齢になったら結婚しよう。ナナリーの望みは小さなルルーシュの望みでもある。 C.C.は最初からそれがいいと賛成してくれた。スザクも同意してくれた。 もっか、21歳になったナナリー皇帝の恋敵は、コーネリアの娘の小さなユーフェミア。 宮殿中でもとても仲がいいと囁かれている。 母親のコーネリアも、娘の小さなユーフェミアと小さなルルーシュの結婚には賛成のようだった。 他にも家庭教師や女官やら元貴族、他の皇族の少女やらナナリーの恋敵は多い。 最もな恋敵になるはずであるC.C.は、小さなルルーシュの母親であって結婚はできない。ナナリーは、C.C.も愛していた。今では、スザクも愛している。ゼロである彼だが、アリエス宮にいるときはただのスザクに戻っている。 「だって、象はさんはどれだの、パズルだの・・・・5歳の教育は、18歳の精神を持った俺には辛い。眠くなる」 「でも、ちゃんと普通に5歳の皇子として過ごさないと。周りが小さなお兄様には英才教育をといっていますが。一度小さなお兄様が高校LVの問題を簡単に解いてしまってから、家臣たちは小さなお兄様を神童と呼んで、英才教育を受けさせるべきだとうるさいのです。小さなお兄様が望むなら、そうしますが」 「いやだ。ナナリーやC.C.、スザクといる時間が減る。帝王学もつまらない。チェスなら今まで通り、大人ともするが」 「ナナリーをあまり困らせるなよ、ルルーシュ」 C.C.が、呆れた声を出していた。 「大丈夫だろう、ルルーシュなら」 紅茶を飲んでいたスザクが、小さなルルーシュを抱きかかえる。 「そういえば、スザク、日本に行ったそうだな。単独で。カレンと会ったそうだな。どうしていた?」 「元気にしていたよ。ジノと結婚して、もう人妻だね。子供も一人いる」 「へぇ。あのカレンが一児の母親か」 C.C.が紅茶を啜りながら、感心深そうに聞いていた。 「ミレイもリヴァルと結婚して、子供がいるし・・・みんな幸せそうだったよ」 「懐かしいな。会いたい」 「一度くらい、会ってもいいんじゃないのか?ルルーシュの子供として、普通に子供らしくふるまってさ」 「ナナリー、一緒に」 「勿論ですわ、小さなお兄様。私、皇帝になってから何度かカレンさんやミレイさん、リヴァルさんと会いました。でも、小さなお兄様はまだ生まれていなくて。家臣たちがうるさいのです。かつての友人たちと会うと情が移るので、控えろと。でも、お手紙でやりとりしています。皇帝とは、本当に窮屈ですね」 「そうだな。皇帝は窮屈だ」 小さなルルーシュが同意する。かつて皇帝であっただけに、皇帝の忙しさは身に染みている。 「今度、日本に行くか、ルルーシュ」 C.C.がナナリーの膝から小さなルルーシュを抱き上げる。 「行きたい」 「では、僕はゼロとしてお供しますか」 「そうしてください、スザクさん。小さなお兄様、家庭教師が呼んでいましたよ。さぁ、お勉強に戻ってくださいね」 「またパズルやら足し算やらをするのか。これもまた窮屈だ」 ナナリーにC.C.、スザクは声を出して笑うのだった。 |