「おい、ピザ女」 ルルーシュが人気のないカフェで目の前にいるC.Cにそう投げかけた。 「なんだ」 目の前にいるC.Cは否定もせずにひたすらピザを食べ続けている。 ここのカフェはピザがメニューとしてでており、いろんな種類のピザがバリエーション豊富で密かに人気なのだ。 閉店間際に来たこともあり、人気はない。いわば貸切状態だ。 東京租界にあって、もっと目立った場所にあればもっと繁盛するだろうが。 それでもまぁ店の主人が忙しすぎるのが嫌らしく、こんな場所に建てたという。 ルルーシュはピザを追加注文するC.Cに呆れたため息をついた。 1年ぶりの再会を経て、皇帝に狙われているというC.Cを今までのように家に匿うわけにはいかない。 一体どこに忍んでいるのは知らないが、時折学園や家に現れてはこのようにゼロとしてではなくルルーシュとしての自分を 引っ張りまわす。 C.Cは5枚目のピザに手を伸ばしている。 このピザ女は本当に危機感というものがないのか。 家に現れた時なぞ、顔を隠すことすらしていなかったのだ。ロロからの情報を使って周辺のらしき諜報員にはギアスをかけているので 今のところ心配はないのだが、新しい人手が作戦に加わるとまたギアスをかけなければならないので厄介ではある。 「ピザ女、食いすぎだ。それにもう閉店の時間を過ぎている。俺もそろそろ家に帰りたい」 「だったら帰っていいぞ。ただし、このピザが最後だがちゃんと支払いをすませておけよ」 「お前という女は……」 財布の中身は、皇帝に記憶を封じられていた頃よりは重い。 黒の騎士団の、ゼロとして黒の騎士団のために裏ネットワークを使って貯蓄していたあちこちの資金は、凍結されたわけでもなく、 未だに架空の個人名義のまま放置されている。 口座を使えるのは一部の黒の騎士団とゼロのみ。 ピザ女のせいで、金というもの(というか生活費?)をルルーシュは与えている。 C.Cはいらないと言うと思っていたのだが、案外とあっさり受け取った。 口座番号も教えてある。 ロロが家にいる以上、念のためC.Cを家に匿うわけにはいかない。 身を匿う場所を転々としているのが辛いわけでもなさそうで、この魔女は皇帝に捕まるということを危機していないようにも見える。 むしろ1年前のように喜々として「生きる」をいうことを楽しんでいるようだ。 無論ピザを食べることを。 ピピピピ。 携帯が鳴った。ルルーシュはすぐ様携帯をとりだす。 「兄さん、帰りが遅くて心配してるんだけど、まだ帰ってこないの」 チッ。 ルルーシュは心の中で舌打ちした。 ロロからの電話である。ロロは、未だに離れていると監視のように携帯をかけてくるクセがある。 それが自分をまだ信用しきっていないということにルルーシュは勿論きづいている。 家族という愛情に飢えているロロの心の闇を利用しているルルーシュには、完全に堕ちるまで、いや堕ちた後も必要なくなるまで ロロの兄として接する必要があった。 「ああ、すまないロロ。もう帰る。心配しなくても、急にお前の側から居なくなったりしないさ」 優しい猫なで声を出しながらもルルーシュの顔は歪んでいた。 これがナナリーであればどれほどに幸せであることだろうか。 1年前までは普通であったそれが幸福であることを皇帝のギアスから解かれて痛感した。 ナナリーが側にいない世界がここまで痛いものだと。 「帰るんだろう」 「ああ、うるさい弟からの電話での催促もあるしな」 「ルルーシュ」 「なんだ」 「遠い。もう少しこっちへ」 「?」 チュ。 「なっ!!!」 「どうした童貞。キスもしたことがないのか。このピザ、どうだ美味いだろう」 「そんなこと知るか!!!だいたい、キスならシャーリーととっくに済ませている!!!」 「ほおおお」 いきなり口付けられて、動転するルルーシュ。 シャーリーとは恋人とはいいきれないが、時折誘われてデートもしているし、幾度か軽いキスをかわしたこともある仲だ。キスはいつもシャーリーのほうからだ。 彼女と彼氏というには、いささかぎこちない関係。 皇帝のギアスでルルーシュのことを思い出したとはいえ、かつてシャーリーにギアスをかけた罪悪感は未だにじくじくと傷を塞いでくれない。 今ナナリー以外で、一番気になる女性といわれたらシャーリーかもしれない。 C.Cとは共犯者だ。恋だの愛だのというものはあまり感じられない。 ルルーシュは、唇を手の甲できつく拭ってから、C.Cに注意した。 「俺は帰る。清算はここに金を置いておくからお前で済ませ。それから、あんまりバカな真似はよせこのトマト女」 「う」 スザクの学園復帰の歓迎会でトマトいっぱいのカート車に突き落とされ、トマトとぐちゃぐちゃになってあわれピザの材料に なるところだったのを、ルルーシュに助けられている。 あれは流石にC.Cを参らせた。 「じゃあな、トマト女!」 テーブルに金を財布ごと置いたルルーシュは気をつけてお前も帰れというのを言うことすらすっかり忘れて帰宅したのであった。 |