永久凍結(コード継承シリーズ)







ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
そう書かれた立派な墓石に、肩まで漆黒の髪を伸ばした少年は百合の花束を捧げる。
ここは皇族たちが埋葬される墓地。
ナナリーが死んで、もう数十年が経った。
毎年、ルルーシュは秋になるとブリタニアに戻り、この墓地を訪れて妹の墓に花束を捧げる。

「なぁ、ナナリー。また、死んでしまった。新しい友人だった人が」
墓に話しかける。
もう、何百人の死を見てきただろうか。
目を背けることもなく、ルルーシュはコードを継承した証のように、死を見つめ続けた。
新しい友人だった者は、カレンの孫だった。ジノとの間に生まれた娘の子。
カレンもジノももう百年近く前に他界している。
誰かと友人になると、ルルーシュは数年たつと忽然と姿を消す。その側には、常にC.C.という名の緑の長い髪に金色の瞳の美しい少女の姿があった。
そして、死の間際に訪れるのだ。
相手は、ルルーシュに驚き、そしてルルーシュの言葉に納得してこの世を去ってしまう。
ナナリー皇帝の時代に、世界にはコードというものがあり、それを継承した者は不老不死であることが世界に発表された。
現在確認されているコード継承者は5人。
その中に、ルルーシュとC.C.が入っている。
他の三人はコード継承確認後、ブリタニアに保護される形で生きている。
コードが継承された者が迫害を受けないようにと、ナナリーが特別な法律を作ったのだ。
ナナリーは知っていた。
何故なら、ルルーシュは少年皇帝の双子の弟として、数年間ナナリーの側にいたのだから。皇族として、生きていた。
幸せだった。
でも、このままではいけないと分かっていた。
そして、C.C.と一緒にブリタニアを出た。
ナナリーは、コードというものが正確にはどういうものであるのかは知らない。でも、継承した者が不老不死になることは、兄を見て知っていた。
世界には、他にもコード継承者が、隠れて生きていた。
ナナリーは理想的な皇帝だった。
ブタリニアの繁栄は続いた。
皇帝が変わり、さらに次の代へと歴史は刻まれる。

「ナナリー。いつか、本当に会いにいきたいな。お前の魂に」
「そんな無理なことを言うのか、お前は」
黒い馬に乗ったC.C.が、馬の首筋を撫でながらルルーシュを見下ろす。
「不可能でも。いつか、俺たちにも安息の死が訪れるのだと、信じたい」
「無理だな」
C.C.はか興味なさそうに、馬を嘶かせると、去っていった。

「世界は、許してくれない。許されたのだと思っていた。でも、生き続けることが、世界への贖罪なんだよ、ナナリー。またくるよ」
ルルーシュは、葦毛の馬に乗って、C.C.を追いかける。
森を走り抜ける。

ナナリーと、スザクと一緒に過ごした数年間の幸せな思い出が、心をチクリと刺した。
もう、あんな暖かな記憶は二度と訪れないだろう。
C.C.と一緒に、世界から逃げるように寄り添い合って生きるしかないのだ。

それが、俺のできる全て。
永久凍結の体。
生きることに飽きはじめている、すでに。もっと生きているC.C.はもっと飽きているだろう。
世界にも、何もかも全てに。

ただ、側にルルーシュがいるだけが救いだろうか。

空は蒼すぎて寂しかった。
そう、ナナリーが死んだ時と同じような秋の晴れ空が広がっている。
「ハッ!」
ルルーシュは、馬に鞭を入れて速度をあげる。

自分の墓も見た。
随分荒れていた。
ナナリーがいなくなった今、あの墓を管理する者もいないのだろう。
あの墓の下で眠りたい。
そんなことを考えながら、馬を走らせる。

ああ、永久凍結。

世界で、二人は隔絶されて。

森の木霊する木々のざわめきを聞きながら、ルルーシュは目を閉じた。

世界に許されたい。いつか、いつか。