まるで揺らめく世界。 平穏の暖かい海にまどろむルルーシュは、もう頃合だと分かっていた。 スザクは、ついに三十路までいってしまった。 ナナリーも28か、29だ。 なのに、ルルーシュの時は止まったまま。 18の姿のまま、変わらない。 皇族として、一緒に生き続ける限界はもう来ている。 本当なら、C.C.と一緒に消えるつもりだった。だが、C.C.はゼロレクイエムでゼロであるスザクにさされ、死亡したルルーシュをナナリーの目の前で復活させた。 「望まずにコードを継承する場合の条件は、ギアスを持っていること、そしてそのギアスが王の力も持っていること。コード所有者を殺せば、コードは眠りについた状態で、ギアスを所持した者に宿り、そして時が満ちればコードは現れる。コードの覚醒に大切なのは、死、もしくは死に近い体験をすることだな。それがない場合、他のコード所持者がコードを眠らせている者を覚醒させることもできる。私のようにな」 淡々と説明するC.C.は、まるではじめからルルーシュにコードがいつか宿るだろうと知っているかのような口調だ。 「王は、孤独になっただろう。この世界で、王はお前一人。王の側に、魔女がいて良かったな」 緑の髪を手で弄びながら、皇帝の衣装を脱ぐルルーシュを見つめる。 「これが、お前の言っていた王の、本当の意味か。王は孤独になる。ギアスの力は確かに俺を孤独にした。だが、それでも仲間はいた。友達は生きていた。本当の王となった時、死に別れるんだな」 「そう。王は、コード継承者の隠語だ。ギアス所有者もさす。だが、私がいう王とは私のような存在。私も王といえなくもない」 「魔女が、王か・・・・」 ルルーシュは着替えると、中庭に出て空を見上げた。 「いつまで、ここにいるんだ」 「さぁ。時がくれば、お前と一緒に消える」 「私もつれていってくれるのか」 「お前に、幸せを与えると約束した」 「私の欲しい幸せは、この永遠の命がなくなる安息なんだがな」 「いずれ、見つかるさ。ギアス・・・ラグナレク・・・遺跡を。遺跡を探していけば、いつか必ずコードの解除方法が見つかる気がする。それがだめなら、望む誰かに王の力を与えてコードを継承させればいい」 「それができれば、苦労はしない。お前に最初はコードを継承させようかとも考えていた。だが、お前はそんなこと望まないだろう」 「当たり前だ」 ルルーシュは中庭に咲いていた白い薔薇を摘むと、それをC.C.の髪に飾った。 「王になれて、嬉しいか」 「王になれて、幸せなどあるものか」 二人は顔を見合わせて、声もなく笑う。そう、自分たちの忌わしい存在が世界に在ることがおかしくてたまらないのだ。 「なぁ。いつか、ここを出なければいけなくなったとき、旅に出よう。一緒に」 「そうだな。一緒に、行こう」 二人は手を繋いで、その時約束した。 その時が、きたのだ。 ルルーシュは、C.C.と共に何もナナリーに告げず宮殿を出奔し、ブリタニアを去った。 ガタガタと、列車に揺られながら、二人はあてもない旅を続ける。 カントリー風の衣装を着たC.C.と、黒い私服のルルーシュ。C.C.はゴシックドレスも好きだが、旅をするときはカントリー風の地味な服を着る。ルルーシュは、ずっと黒い服ばかりきている。どの服も黒。 ゼロのイメージはルルーシュの中では黒だった。だから、黒の騎士団なんてものを作った。 「お前、たまにはもと明るい色の服をきたらどうだ。まるで喪服のようだ」 「そういうお前こそ、もっと違うデザインの服を着たらどうだ。いつも同じような服ばかりだろう」 二人は互いに罵りあう。 「なぁ。これで、よかったのか、お前は。せめて、ナナリーに別れを」 「言うな」 その先を、ルルーシュは言わせなかった。 いつかくる、ナナリーとの別れ。 永遠の別れが、いつか必ずくる。 その時は戻ろう。ナナリーに会いに。 それだけを心に決めて。二人は列車に揺られながら眩しい太陽の光を遮るために列車のブラインドを下ろした。 「スウェーデンもそろそろ終わりだな。次は隣の国か」 C.C.は、世界を旅した経験はあまりないようだった。 愛されるというギアスを与えられ、そして先代C.C.からコードを継承したC.C.は、死を求めている。それは、今でも変わらない。いつか、ルルーシュもそんな風になるんだろう。 でも、C.C.はルルーシュという存在を手にいれたことで、もう少し世界を生きてみてもいいかなと思うようになった。ルルーシュという魔王と一緒に、魔女として。 ただ、永遠を生きる魔王と魔女は世界にとって脅威ではない。 「次は何処にいきたい?」 「スイスがいいな。空気が澄んでいて景色が綺麗だと聞いた」 国名は、昔の時代のもの。国の名前ではなく地方の名前だ、スウェーデンやスイスは。今は超合衆国という名前だ。 「なぁ」 「なんだ」 ガタンガタン。列車に揺られながら、二人は手を握りあう。 「もしも、新しいギアスを与えられるとしたら、どんなギアスがいい?」 ルルーシュが尋ねる。 C.C.は自嘲気味に、こう答える。 「自分の命を、誰かに与えられるギアスがいい。不老不死の長い命を、たくさんの人に与えて、そして死ぬんだ。たくさんの人に感謝されて、天使に召されて、神の元に還る。お前は?」 「好きなだけ、眠れるギアスがいい」 「なんだそれは」 「眠り続けるんだ。友人や家族、愛する人たちとの死を経験しないで、ただ眠り続ける。そんなギアスが欲しい」 「もう、生きることに飽きはじめたのか?まだ、生きて35年もたっていないだろう」 「そうだな。まだまだ、若いな、俺は。お前に比べると赤子のようなものだ。なぁ、おばあさん」 「誰がおばあさんだ!!」 怒って頭を叩いてくるC.C.の腰を引き寄せて、耳元で囁く。 「一緒に生きよう。最後まで。永遠も、お前となら怖くない。王は孤独だ。でも、お前がいてくれれば孤独じゃない」 C.C.は金色の瞳を細めて、ルルーシュにキスをして、閉じていたブラインドから太陽の光を見上げる。 「お前は、どうしてだろうな。漆黒の夜のようなのに・・・時折、金色の太陽のようだ」 「答えは?」 「そんなの、決まってる。もちろん、一緒に生きる」 C.C.は、涙が零れるのをずっと我慢していた。 ああ、私は生きるという呪縛から解放されない。 幸せはこない。 でも、新しい幸せを手に入れた。 ルルーシュという、幸せを。 |