新妻な白ブリーフ皇帝









学校が終わり生徒会での仕事も終わってようやく帰宅した頃には夕方になっていた。
ロロはすでに帰宅しているはずで、ルルーシュは自宅のキーをドアに差し込んだ。
「ただいま」
返ってくるはずだろう、弟のおかえりという返事は、しかしいっこうにない。
出かけたのかと思ったが、ロロは外にあまり一人で出ようとしない。どこかにいく時は必ず一緒か、告げてから家を出る。
そして、ルルーシュを待ち受けていたのはあまりにもキモい猫なで声の返事だった。

「お帰りわが息子ルルーシュよ。ご飯にする?お風呂にする?それともこの私か?」

「どっからわいたあああああああああああああああああああああ」

頭に白ブリーフをかぶり、珍しく黄ばんでいない白ブリーフにエプロン(ほぼ裸エプロンに近い)状態で皇帝が玄関にお出迎えしてきたのである。
ルルーシュはありったけの悲鳴をあげて、壁に取り縋った。
「この変態!家にまでおしかけてくるな!!」
「何を言うか。親子水いらずという言葉をしらんのか」
ずいっと近寄ってくる皇帝に、ルルーシュはさっと鞄からサイレンサーつきの銃を取り出して、構えた。
「それ以上近づいてみろ。殺してやる」
「いやん。できないくせに。ちなみに今回のセッティングはずばり新妻だ!」
皇帝はしなをつくってうっふんとウィンクをする。
それだけでルルーシュは卒倒しそうになった。
確かに、今ここで皇帝を殺すことはできる。
だがギアスを使われる可能性が高いし、何よりこのような場所で皇帝を殺害すればゼロとしても黒の騎士団の未来もナナリーのことも全て終わりだ。
できないと分かっていて、皇帝はフッフッフと傲慢そうにルルーシュを見下ろした。
「く………」

見るにたえない皇帝の姿。 かわらず股間はもっこりで、筋肉だるまの裸エプロン。下着はブリーフをはいているとはいえ、全体から見た図では意味がない。すね毛はぼーぼーで、 よくみれば鼻毛もとびだしている。
ウィッグなのか地毛なのかわからないうんこ巻きの髪型だけが変わらずだった。

「くそ」
「風呂は沸いているぞルルーシュ。先に入ってこい」
主導権を握られるのは気に食わないが、この変態を一刻もはやく自宅から追い出さなければ。
「願いはなんだ、言え!」
「父に向かってその言葉使いはないだろう。まぁそれがルルーシュのかわいいところだ。フハハハハ。願いはそう、今日1日一緒にこの屋根の下で過ごすことだ!」
「なにぃ!!!」
あまりのショックにルルーシュはわなないた。かたんと、銃が地面に乾いた音と立てて落ちる。

幼い皇子時代、どれほどこの変態皇帝に悩まされたことだろうか。
日本にナナリーと共にいくことになり、やっと変態皇帝から開放されると天国に昇る気持ちであったが、それも甘かった。
皇帝は、ことあるごとに度々ルルーシュの元を訪れるのであった。
日本がエリア11となり、ルルーシュの生死が不明になった頃は全く姿を現さなかったが、アッシュフォード学園に通いだした頃には情報網で生きていることがばれ、 皇帝は白ブリーフを愛用しろとしつこくエリア11にやってくる。
ゼロになったのも、思えばこの変態を早々に排除するためでもあるのだ。

「ロロは!ロロはどうした!?」
「ああ、あの偽りの弟か。なに、皇帝命令で学園に待機しているように命じてある。助けには来ないぞ」
最後の頼みの綱であるロロが!!
ロロのギアスを使えば皇帝をすまきにして、川に捨てることができるというのに!

「観念しろルルーシュ。なに、白ブリーフをはくまで帰らぬなどと無理なことは言わぬ。私も年だ。久しぶりにな、お前と家族の時間をもってみたくなっただけだ」
変態はそう、泣き真似をするが、それをまに受けるルルーシュではない。
「拒否すればどうなる」
「なに、ナナリーに脱ぎたての私のパンツを頭からかぶせるのみ」
「!!!!!!!!!!!!!」
拒否権はもはや残されていなかった。
愛しいナナリーが、そんな目にあうくらいならいっそ俺が死んだ方がましかもしれない。
ナナリーにも皇帝は愛を注いでいたが、それは普通の親子としての愛。ルルーシュに対する変態の愛情とは全く違ったものであった。

「で、ご飯にする?お風呂にする?それともこの私か?」
どうしてそこで「私」という選択肢が出てくるのか。新妻ではあるまいし。
新妻変態白ブリーフ皇帝。
もうだめだ。ああ、目の前が暗い。
「と、とりあえず風呂だ。あいにくだが食事は外で済ませてきている」
「そうか。ルルーシュ、湯は残しておけよ」



もはやルルーシュは諦めた。頭脳を駆使して逃げ出すのは簡単だが、ナナリーが生贄になってしまう。
それだけはどうしてもさけたかった。
「ルルーシュ、背中を流してやるぞおおおお」
思ったとおり、風呂に入っていると、外から皇帝の声が。
「入ってくるな、変態め!」
「フハハハハハ!」
バタンと戸をあけて、はいってきた皇帝は胸までバスタオルを巻いていた。ある意味、気色わるすぎる。
頭にはシャンプーハット、右手にはアヒルのおもちゃ…。
ルルーシュは、はじめからこうなるであろうことが分かっていた。
なので、湯船の中から、棚に置いてあったナイフを手にとり、自分の顔にそれをあてた。
「入ってくるな。これ以上入ってくれば、俺は自分の顔に傷をつける」
「なにいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ルルーシュの美貌が大好きな皇帝は、ルルーシュの体にも顔にも、傷がつくことを何よりも恐れていた。
それを、脅しのねたにとられて、ギアスを駆使することもできず、すごすごと引き下がる他なかった。
「く、分かった。だが残り湯だけは置いておけよ」



夕飯は食べてきたというのに、なぜか日本食がテーブルに置いてあった。二人分。ルルーシュは沈黙してもはや皇帝の存在をないものとみなして一緒に食卓を囲んだ。
そして寝る時間。
「いいか、絶対に俺の部屋に入ってくるなよ。入ってきたら、自分の顔を切り刻む」
現に、そうするぞ、と、血がにじむまでナイフを頬にあてたのだ。脅しは効いたのか、大人しく皇帝はロロの部屋で寝ることになった。

翌朝。
危惧していた部屋への侵入はなく、ロロの部屋にも皇帝はいなかった。
プレゼントだと、皇帝がきていたエプロンとおそろいのエプロンがテーブルの上にあったが、ルルーシュは足でグシャグシャに蹴りつけてからごみ箱に捨てた。
しかし、やはり皇帝が泊まりにきてただでは済まされなかった。
風呂場の残り湯は皇帝がピーでピーでピーなことをしたのかすごい有様になっていたし、ルルーシュの下着が、ゼロのときにつける黒ビキニから普段はいているボクサーパンツまで全てなくなっており、かわりに 白ブリーフに埋めつくされていた。
ロロの部屋にも段ボールいっぱいの白ブリーフ。
ついでに、学園の制服も、私服まで服という服全てがなくなっていた。
「あの変態が!!!!」

「絶対に、いつか殺す!!!」
ルルーシュは、帰ってきたロロと白ブリーフの破棄におわれながら怒りを露にした。
ハウスキーパーを呼んで家の中をとにかく隅々まで綺麗にしてもらい、それでも浴槽は使う気にはなれずに新しく作った。しばらくの間はクラブハウスのシャワーを使うことを余儀なくされたが いたしかたあるまい。
「兄さん、皇帝ってあんなにすごい変態なの」
「そうだ、ロロ。いいか、絶対にあんな変態を野放しにはできない」
ロロも、同じく頷く。

ルルーシュはなくなった服をネットショッピングで買い揃え、制服は生徒会長がすぐに予備を立て替えてくれたので問題はなかった。
今度からは、絶対に家に皇帝がいても追い出すと硬く誓ったルルーシュであった。


その頃、ブリタニア皇帝は、たくさんの荷物を抱えてルルーシュのコレクションがまた増えたとホクホク顔で本国に帰宅したという。