ルルーシュとC.C.はあてもなく世界を旅する。 魔王と魔女は、世界を支配するのではなく世界から逃げている。 もうブリタニアを出て200年以上になるだろうか。 変わらず空は青くて、いつの時代も綺麗だった。 そんな空を見上げながら、二人は旅を続ける。ルルーシュもC.C.もありふれた服装で、親切な運転手のトラックに荷物と一緒に乗せてもらって、町外れまでやってきた。 麦畑が広がる丘を、C.C.は無言で走り出した。 「おい、どうした、C.C.?」 ルルーシュも、C.C.の後を追う。 小さな森を抜けた奥にあったのは、教会だった。 もう完全に人の気配はない、天井もない教会。 「この教会は・・・・」 寂れた、もう打ち捨てられた教会に、C.C.は吸い込まれるように中に入っていく。 ステンドグラスの窓は破れ、聖母マリア像も欠けていた。 祭壇は薄汚れ、人々が祈りのために座る席も壊れている。 C.C.は欠けたマリア像のところにくると、いきなり倒れた。 「おい、C.C.、C.C.!!」 揺さぶっても反応は返ってこない。 ルルーシュは、C.C.を抱き上げて、まだ壊れていない教会の椅子に座らせると、自分も隣に座った。 一体、何事だろうか。 ルルーシュは、その時気づいた。 C.C.の額にあるギアスの刻印が消えていることに。 「おい・・・・なんなんだ」 ルルーシュは、次の瞬間吸い込まれた。 Cの世界へ。精神世界へ。 「愛されるギアスがほしい。誰からも愛されたい」 今からは想像もできないようなボロボロの姿のC.C.が、額にギアスの刻印をもつ女に縋りついていた。額にギアスの刻印をもつ女はシスターだった。 そして、当時のC.C.は奴隷の少女だった。誰にも愛されなかったC.C.。ただこき使われるだけで、虐待にに近い日々を送っていた彼女は、誰かに愛されたがっていた。 そしたら、きっと私のことを守ってくれるだろうと。 「いいでしょう。与えましょう。そして、いつか私の・・・」 その続きは聞こえなかった。 場面が変わり、C.C.がドレス姿でパーティーを開いて、たくさんの男から貢物を受け取るのを見た。 たくさんの人間に愛されるC.C.。 彼女の両目の金色の瞳はギアスの刻印を刻み、ローズクォーツ色に輝いている。 ふと、C.C.がこちらにやってきて、ルルーシュの顔をそっとなでた。 「あなた、綺麗ね。あなたも、私を愛したいんでしょ?」 「違う。俺は、そんなんじゃない」 「どうして?ギアスがきかないの?」 「俺は、もうお前を愛してるから」 C.C.が悲鳴をあげた。 また場面が変わり、教会の中だった。 ルルーシュはまるでC.C.の記憶に飲み込まれたように、C.C.の過去を、かつてCの世界で体験したようにまた見ているのだ。 目の前で、先代C.C.がC.C.にコードを継承させ、そして血まみれになって死んでいく。 「あははははは」 シスターの女は壊れていた。 生きすぎて、壊れたのだ。 「やっと、やっと死ねる。やっと私の願いがかなう!!」 シスターは刃物を取り出すと、それで自分の喉笛を切り裂き、そしてC.C.の額にギアスの形の傷を作った。 「あああああ・・・・」 額から大量の鮮血が流れ出る。 そのときのC.C.は裸だった。 湯浴みの途中だったのだ。湯の入った桶が少し遠い場所にある。 C.C.は、額の傷がゆっくりと再生していくのを感じて、そして死んでいくシスター、唯一ギアスにかかることのないコード所有者の愉悦に満ちた笑みに、自分が本当に利用されていたのだと悟った。 鮮血にまみれたC.C.の額に、コード継承の証であるようなギアスの紋章が刻まれはじめる。 「力をあげるかわりに、私の願いを一つ叶えてと私は願った・・・・もう、叶った」 先代C.C.は血まみれになって、微笑んで死んでいった。 その亡骸を揺さぶって、C.C.はただ悲鳴をあげていた。 「ああああああ!!!」 これは。 これは、いつか昔に見た光景。 C.C.の世界で見た、C.C.の記憶。 Cの世界。 それよりも鮮明な、C.C.の記憶。 ルルーシュは、いつの間にかCの世界から脱出していた。 「おい、C.C.、C.C.!!」 揺さぶると、金色の瞳がルルーシュを見上げる。 「あなたは・・・新しい、ご主人、さま?」 「ばかな冗談はよせ!いまさら、お前がいなくなるなんて、そんな悪夢のようなこと!!」 「私は・・・・ご主人さ・・・私・・・は・・・・・誰?」 C.C.はまた記憶喪失になった。 でも、昔のようにすぐに戻る気がルルーシュにはした。 そのまま、教会に一日とどまり、ルルーシュはただじっとC.C.の側にいた。 「ご主人さま?どうして、こんなに優しくしてくださるんですか?」 「お前はC.C.。本当の名は・・・・・」 C.C.の耳元で、優しく遥かなる昔に彼女自身から教えてもらった本当の名を口にすると、C.C.は涙をこぼしてルルーシュにすがりついた。 「私は・・・こんな風に、なりたくなかった。そう、私はコード継承者。彼女から、コードを継承した。いや、継承させられた。無理やり」 C.C.はルルーシュから離れると、欠けたマリア像を見つめる。 額のギアスの刻印ははっきりと刻まれている。それにルルーシュは安堵する。 「お前はC.C.だ。それ以上でもそれ以下でもない」 「見たんだろう。Cの世界で。また私の記憶を」 「ああ」 「いつか、こんな世界がお前にも訪れる」 「覚悟はしている」 「でも、俺はお前をおいて記憶喪失になったりしないし、誰かに無理やりコードを継承させることなんてしない。お前が誰かにコードを継承させるとき、俺も誰かにコードを継承してもらう。死ぬときは一緒だ」 「そうだな・・・・生きるのも一緒、死ぬのも一緒・・・・なぁ、シスター。私は、こうなったことを呪った。死にたいというのが私の唯一の願いだった。でもな、私も変わった。生きているのも、悪くはないと、そう思うようになったんだ」 マリア像を見上げながら、C.C.はもういない先代C.C.のシスターに言葉をかける。 「生きるのも、悪くはない。飽きるがな」 「そうだな。悪くはない。飽きるが・・・・お前がいれば」 「そうだ。お前がいれば・・・生きるのも、悪くはない」 ルルーシュのコードは右手の甲に刻まれている。 C.C.のコードは額。 天井のない教会から、朝日が見えた。 黄金色の輝きはC.C.の目の色に似ていた。 「朝焼けだ。お前の瞳の色」 「なら、お前は夕暮れだな」 二人は、キスをして、そして目をつぶって、二人で向かい合って胸の前で手を握り合う。 「空の色が、俺たちの世界だ、きっと」 「そうだな。空の色が、きっと私たちの世界」 永遠なる空。 いつの時代でも変わらない空。 二人の世界は、これからも続く。コードがある限り、生きていかなければならない。 いつか、この空が終わる日がくるのを待とう。 二人で。 |