「ここは・・・・地図に載ってないな」 寂れた町だった。人口も少ない。 行き交う人々はどこか古臭い衣装をまとっている。 ヨーロッパを横断する鉄道の最終駅に乗って、そのまま荷馬車に揺られて旅を続けて数ヶ月。 今がどこの国であるのかさえもあやふやだ。 「それより・・・おかしくないか?町の風景もだが。古臭すぎる」 ルルーシュが、C.C.から地図を受け取って、すぐ横を通ろうとしている人に声をかけた。 「あの」 その人物は、ルルーシュの声なんて聞こえていないように無視して通り過ぎていった。 「魔女の火あぶりだぞ!!」 町を、一人の若者が走っていく。 「魔女の火あぶり、だと?」 ルルーシュが眉を寄せる。そのまま、人だかりのできている場所に集まると、額にコードが刻まれた今よりも少し幼い印象のあるC.C.が木にしばりつけられていた。 「なんだ、これは」 「ああ・・・そうか。私は、この町で魔女狩りにあったんだ」 C.C.は淡々と呟く。 ボッと火がつけられ、幼いC.C.は泣き喚くこともせずに火あぶりになって、体が燃えていく。 「やっと、死ねるかな」 そんな声が聞こえた。 でも、火は途中で消えてしまった。 その火は町を呑み、焼き尽くしていく。 「うわああ、魔女の呪いだ」 「私は、この町を滅ぼした」 隣にいるC.C.はなんの感慨もなく、目の前で町に火をつけていくほぼ全裸に近い、昔の自分を見つめる。 「自分の身を守るために。魔女狩りなんかで怯えて過ごすなんて真っ平だった。魔女なら魔女らしく生きようと決意した。そう、コードを継承した時から」 目の前の幼いC.C.は泣きながら笑っていた。 その体に、ルルーシュは着ていたコートをかけてやった。 「あなたも、魔女である私が怖い?」 「いいや。怖くない」 「そう」 幼いC.C.はふらついた足取りで町から消えてしまった。 「これは、私の、記憶、だな。コードに刻まれた」 古ぼけた町が、廃墟に変わっていく。誰も住んでいない、中世の町並みを少しだけ残した人のいない廃墟。 「Cの夢」 「そう。これは私の夢」 ルルーシュはC.C.の手をとって、廃墟となった町をぬける。 「魔女狩りは怖い。痛いから」 「もう、誰もお前を狩る者なんていない。俺がいる」 「そうだな」 二人は手を繋いで、地図にのっていないその場所が朽ちていくのを見届けてから、また歩きだす。 今度は何処へ行こうか。 また、Cの夢の世界を旅するのもいいかもしれない。 C.C.の孤独と痛みを、少しでもルルーシュが理解できるのなら。彼女はもう一人ではないと安堵できるように、手を繋いで。 「Cの世界の夢なんて、みんなこんなのばかり。コードを刻まれる前は愛される夢ばかり。ろくなものがないな」 「でも、お前はそんな記憶でも風化せず持っているんだな」 「それは、魔女だから。コードが記憶として残しているんだ。私の望みではない」 「知っている」 朽ちた町をぬけて草原を抜けると、新しい町が見えてきた。 果たして、この町は地図にのっているだろうか? それとも、この町もC.C.の夢の記憶? ルルーシュはどちらでもいいと思った。隣にC.C.はちゃんといる。昔の孤独を他人ごとのようにみる冷たい瞳がある限り、C.C.が取り乱すこともないだろう。 「なぁ、ルルーシュ。たまにはLの世界の、お前の夢を見せてくれ。そう、ナナリーやスザクがいた頃の夢を」 どうすればコードを使ってそんな記憶の世界を構築できるのか、ルルーシュにはまだよく分からない。 「ああ、一緒に見よう。今度は、俺のコードの、俺の記憶の夢を」 魔女と魔王はまた歩きだす。永遠の果てまで。 |