ルルーシュは、体育の授業を受けていた。 ヴィレッタ先生の授業だが、着ている体操服はダボダボである。 特にウェストの細いルルーシュには、他人の体操服など着るのはかなり困難なものがある。 上の服はリヴァルに貸してもらったが、下のハーフパンツがどうしてもサイズがあわないために、仕方なくシャーリーのものを借りていた。 女性ならばウェストは細くて当たり前だし、女性だからといって体操服に違いはなく、アッシュフォード学園のそれは男女同じデザインと色でできていた。 「ルルーシュ君が忘れ物するなんて珍しい〜」 女子がそうはしゃいでいる。 「ほんとだよな、ルルーシュが体操服忘れるなんて」 リヴァルに至っては悪戯をした子供のような顔で、ルルーシュのだぼだぼした、貸してやった自分の服をひっぱる始末だ。 「体操服の忘れ物は原点1だ」 ヴィレッタ先生は、メモ帳か何かにルルーシュ原点1とメモをしだす。 「俺だって、完璧じゃありませんよ。忘れ物だってします」 ルルーシュはそういって苦笑した。 本当に小さな、カシャカシャという隠し撮りのカメラの音にルルーシュは気づいていない。 学園では当たり前のように隠し撮りをされているので、それをルルーシュは止める気も別段なかった。 それをまとめて会長はルルーシュ隠し撮り写真集とかいう本を作って公然と売っているし、売れ行きは生徒会が企画した 下手な代物よりはだんとつにTOPを誇っている。 売り上げは生徒会の活動費に割り当てられ、文化祭は普通一度だろうに、アッシュフォード学園では何かと文化祭らしきものがよく催されてもいる。 (それにしても、おかしい。確かに体操服は自前のをロッカーに入れて鍵をかけていたはずだ。やはり、あいつか) ルルーシュの私物は、度々なくなっていた。 それはシャーペンだったり、ハンカチだったり、キーホルダーだったりと種類はいろいろで統一性はないが、ルルーシュの私物を盗んでまで売るような者は この学園にはいない。 私物を売るのはルルーシュが自らOKしたもので、生徒会を通してオークションに出されるのである。 それ以外はタブーとなっていた。 犯人は、恐らく変態皇帝の間者か、もしくは皇帝本人だろう。 ルルーシュがいる時いない時と関わらず堂々と学園にやってくるのだ。 ちゃんとした正装の皇帝であるからに、その行動を止める者は誰もおらず、また警備の者もつれていないためか誰も声をかけれない。 遠巻きに皇帝だ、と見守るしかないのである。 白ブリーフを頭にはいた変態ヴァージョンの時は、誰もが皇帝とは認めず、不法侵入者としていつも警察に連行されていくが、正装しているときの皇帝は、 そこにいてもないものとして扱うように命令されているので、そうせざるをえないのであった。 変態皇帝は、本国のブリタニアの宮殿にルルーシュコレクション室を作るほどのルルーシュ狂である。 体操服などレアものを逃さない皇帝ではないだろう。 そういえば、朝に頭をうんこ巻きの髪型にしたおっさんを見たような見ていないような。 正装している皇帝を、ルルーシュは完全にないものとみなしているので、見ても視界から遮断され記憶から弾かれる仕組みになっている。 正装している時は実害はほとんどないのだ。ゆえに、白ブリーフをかぶっている時は用心しなければならない。完全なる変態モードなのだから。 体育の授業が終わり、リヴァルとシャーリーに体操服は洗濯してから返すと言うとシャーリーは 「ううん、汚れてなんかいないしこのままでいいの!」 と紅い顔をしてハーフパンツをひったくるとそのまま駆けていった。 「うーん恋だねぇ」 唖然とするルルーシュに、リヴァルは一人腕を組んでうんうんと頷いていた。 午後になり、生徒会での活動の時間。 ルルーシュはため息をついた。去年した男女逆転祭りが余りにも好評だったために、今年もやるはめになったのだ。しかも男子だけ。 すでに衣装は用意されており、今からさぼるわけにもいかない。 女装など屈辱であろうが、ルルーシュはあまり世間的な考え方をもっていなかったために、ただ面倒だと思うだけだった。皇子自体はよく女装させられていたのだ。 そのために免疫ができてしまっているのかもしれない。 「よお、ルルーシュ!準備はいいか!」 すでに女性用のドレスを身に纏ったリヴァルが、生徒会室のドアを開くなり濃い化粧顔でお出迎えである。 「ルル!今回は、ドレスじゃなくってゴスロリだからね!」 やたらとやる気になっているシャーリーがルルーシュの腕を引っ張る。 「ゴス…。ドレスじゃなかったのか?」 「会長が、ルルにはゴスロリも似合うって。だからみんなで手分けして衣装つくったのよ」 嬉しそうなシャーリーの手を振り払うこともできず、女の子って男が女装するとかそういうの好きだなぁと、ため息をついた。 部屋の中には会長のミレイ、それに猫のアーサー、同じく女性用のドレスを窮屈そうにきているスザクの姿がある。 「スザク…苦しそうだな」 「コルセットがね。女の人ってよくこんなの着れるなぁ」 新たな監視者としてやってきたスザクではあるが、すでにゼロとして覚醒していることはばれている。 変態皇帝のせいで、ばればれ。 それでも、皇帝が命令を続けている限り、監視役を続けなければならないスザクも哀れではある。 バレてはいるが、形式上は二人は親友ではなく、幼馴染でもなく、ただの友達。ルルーシュは皇子ではなく民間人で、スザクはナイトオブラウンズ。 堅苦しい形だけの関係だ。 「衣装はこれとこれとこれ。頭にはヘッドリボンを被ってね」 会長のミレイが、バサリと、フリルとレースそれにリボンで彩られたゴスロリな衣装をルルーシュに渡した。肩からのパーツと、 あとはフリルいっぱいのソーニソックス…。 「どうやって着るんだこれ」 さすがのルルーシュも、ドレスとはまた違うゴスロリという衣装の着方に悩んだ。 「僕が手伝うよ」 「そうしてあげて。しあげはシャーリーに任すわ」 「任せて〜。ルルーシュを綺麗にすることなら私自信があるの」 そんな自信つけられても困るぞシャーリー。 ほぼ半裸になったルルーシュに、スザクが衣装を着せていく。 なんだか皇子時代の時に戻ったかんじだ。 「手馴れてるな」 「うーん、何事も体験かな」 クスクス笑う。 ゼロとしての対立は学園にはない。 友人で通せるのだ。 あらかた衣装を着せられ、続いてシャーリーのところに引っ張っていかれる。 フリルの手直しやら、ヘッドリボンのとりつけ、踵の高い靴をはいて、最後には薄く化粧をされる。 「きゃー。ルルやっぱり綺麗〜。お人形さんより綺麗〜」 シャーリーがうっとりとルルーシュに見とれている。 会長もスザクもリヴァルも、あいた口が塞がらないといった様子だ。 去年の男女逆転祭りの時のドレス姿の時も皆呆けていたが、恐ろしいほど似合っているのだ。 ストレートの黒のウィッグをいじりながら、ルルーシュは鏡をのぞいた。 (母上) そこにいるのは、亡きマリアンヌ皇妃そのもの。 母の、若かりし少女時代であろう容姿。 「写真!写真とらなきゃ」 会長が、はっとなってカメラを取り出し、パシャパシャとシャッターを切る。 「ルル、笑って〜」 シャーリーが腕を組んでくる。 元から母親譲りの女性めいた容姿を持っているのだ。クールな性格や振る舞いがあいまって、印象は女性的な容姿というより毅然とした美しさに変わる。 衣装一つでこうもかわるとははじめは誰しもが思わなかったものだ。 生徒会室の外が、何やら騒がしい。怪訝な表情をする皆の中、 スザクがルルーシュに土下座した。 「ゴメン、ルルーシュ!皇帝に、今日のこと話しちゃった」 「!!!!お前というやつは、また友人を裏切るのか!」 衝撃の言葉に急いで退路を探さねばならないと焦るルルーシュ。 バタン! 白ブリーフを頭にかぶり、白ブリーフをはいて、以前の白鳥の股間のやつが気に入ったのか今度は鶴の首をもしたものを股間に取り付けた変態皇帝が、頭からストッキングを被ってすごい 顔をしながら両手に花束を抱えて入ってきた。 「ブハ」 流石のルルーシュも、ストッキングをかぶり、顔全体が上に引きつった皇帝に吹いた。 スザクも吹いた。 「へ、陛下……ギャハハハハ」 「どうだ、今日の私はいけてるだろう」 「、、、いけてる」 いつもはすぐに足蹴りをかますルルーシュだが、笑いすぎて壁に身体をもたせかけている。 笑いすぎて、呼吸が苦しい。 スザクなんぞ、酸欠で死に掛けている。 ミレイ、リヴァル、シャーリーも笑い転げている。 そして、ストッキングをとった変態皇帝が、壁でぜぇはぁいっているルルーシュの手をとった。 「我が愛しのマリアンヌ。どうか再び私と結婚してくれ」 皇帝は、今日はどこかがすでにイッてしまっているらしい。 「チュっ」 「うわああああああああああああ」 手の甲にキスをされて、ルルーシュは我に返った。 「この変態皇帝!目を覚ませ!俺は母上じゃない、ルルーシュだ!」 笑い転げまわっていた生徒会メンバーたちも、ルルーシュの危機を察知して飛び起きる。 「ルルーシュから離れなさいこの変態!」 「それ以上ルルに触れたら許さないんだから!」 叫ぶメンバーたちをちらりと横目にしながら、皇帝は続ける。 「いとしのマドモアゼール。もはやルルーシュでも構わん、私と結婚しろ」 どこから取り出したのか、大粒のダイヤをあしらったリングをルルーシュの手にはめ、花束を無理やりルルーシュに持たせる。 皇帝の目は、完全にいちゃっていた。 「変態、放せ!」 足けりをかますが、慣れない衣装のせいでこけそうになった。 ドサリと、ルルーシュの身体が皇帝の手の中に。 ルルーシュの目の前には唇をむーっと突き出して、今にも接吻をしようとする変態皇帝の姿。 「危ないルルーシュ!」 スザクが、いつの間にか皇帝の後ろにまわり、背後から飛びひざけりをかました。 皇帝は壁にのめりこむ。 危機一髪、変態との接吻を逃れたルルーシュはガタガタと震えだした。 「ルルーシュ!ルルーシュ!ごめん、僕が皇帝に情報を与えなければ!まさかこんなことになるなんて」 そうだ、変態がやってきた元凶はスザクだ。 未だにガタガタ震えているルルーシュを、スザクは抱きしめた。 それを恐怖からくるものだと勘違いして。 ルルーシュは、思いっきり腹に蹴りをかましてやった。 「グフ、ル、ルルーシュ!?」 「はっ。これしきのことで」 ビリビリとゴスロリの衣装のスカートの部分を太ももぎりぎりのところまで破って動きやすいようにして、はき直したいつもの靴でルルーシュは、壁にのめり込んでいる 皇帝を足蹴り連打でさらに壁に埋め込ませた。 「ロロ!」 「はい、兄さ……う、兄さんその格好犯罪」 弟の名前を声高に呼び、それにどこに潜んでいたのか分からないロロが現れ、白い太ももを晒したゴスロリ服のルルーシュに顔を赤らめる。 「ギアスを」 「らじゃ」 ルルーシュは、ロロのギアスを使って壁にのめりこんだままの変態を、倉庫からもってきた布団で簀巻きにした。 同じくスザクも簀巻きにする。 そして、ルルーシュ自身がギアスをかけた通りすがりの生徒に二人をかつがせ、学園外のゴミ廃棄場に持っていかせた。 「兄さん、その格好やばいって!早く制服に着替えて!」 頬を紅くしたままのロロに、何がやばいのかよく分かっていないルルーシュであったが、こんな恥ずかしい格好でいつまでもいられないと、生徒会室に戻って制服に着替えた。 生徒会室は、メンバーらがルルーシュが消えたことで校内を探し回っているのか、誰もいない。 ルルーシュは、メモに書置きを残して、ロロと一緒に学園を後にした。 皇帝を廃棄処分するときに、ストッキングを皇帝の顔にはめなおし、カメラのシャッターをきった。 その画像は、後にブリタニア全土にインターネットで配信されることとなる。 ついでに、リングはスザクの指にはめてやった。自ら進んでナイトオブラウンズになるくらいだ。 結婚するなら、スザクとでも結婚しやがれと、ルルーシュはその日一日ちょっと凶暴性がましていたという。 |