「ミュラー君、聞いてくれたまえ!」 後ろから、がばっと抱き着いてくるオリビエに、蹴りをいれて、ミュラーは体勢を整えた。 「何をするんだ、僕の愛しい人!」 「こんな真昼から、気持ちの悪いことをいうな」 すでにミュラーは怒りそうだ。 この友人、性格は一本気で頑固でそれで堅実なのだが、いかんせん柔らかさというものにかける。 とかオリビエは、勝手に思った。 「今日は!なんと、記念すべき日ではないか」 「は?」 ミュラーは、帝国大使館で、仕事をしている途中だった。 そこに、いきなり現れたオリビエが乱入してきた形となる。 視線を彷徨わせて、ミュラーは天井を見てから、元の席に戻って書類の処理を始める。 「酷いわっ!」 しくしくと、泣き真似するオリヴィエが鬱陶しくて、ミュラーは一喝した。 「ええい、何がしたいんだ、お前は!」 「そうとも!思い出してくれたか!」 「意味が分からんわ!」 「そうとも!今日は、愛しき友人である君と初めてめぐり合った記念すべき日だ!!!」 オリビエは、薔薇をとりだして、ミュラーに向かって投げた。 それは書類の上に落ちた。 ああ。もうそんなに経ったのか。 そういえば、この皇子のお守りを任されてはや十年近くか、いやそれ以上か。忘れてしまった。 初めて出会った時は、お互いまだ子供だった。 皇子という存在に、畏敬の念を抱いていたミュラーは、オリビエの性格に全てがそれが粉々に砕け散り、今のに至る。 帝国大使館にいつまでも居候し続ける、このお荷物は。 全く、人騒がせな。 ミュラーは、書類を読んでいた手を止めた。 「おや、どうしたんだね、ミュラー君。涙がでてきたのかね?」 「バカをぬかすな」 今日一日くらい、仕事を休んでも平気だろう。 「確かに、今日だったな。嫌な記念日だ」 「酷いわっ!僕のことをさんざん玩具にしたくせに!」 「気色の悪いことを言うな!」 ミュラーの拳骨が、オリビエの金髪の脳天を直撃した。 「あははは、ミュラー君、ほれ、行こう」 「どこへだ」 「居酒屋さ!」 「こんな真昼から酒を飲むつもりか、お前は」 「もちろん!つもる話もあるではないか〜〜」 「そうだな。確かに、つもる話がある。この請求書はなんなのか、きっちり説明してもらおう」 ミュラーは、外出のために上着をとりだして羽織ると、帝国大使館に請求された、額はそう大きくはないが、オリビエが放蕩に使ったお金の、その使い方についてきっちり聞いて、みっちりお説教する気満々だった。 「僕は、知らない!さらばだミュラー君!」 「待てい」 がしっ。 コートの後ろを?まれて、オリビエはそのまま、ミュラーに捕まり、居酒屋で酒を飲みつつも事情聴取を受け、そのあとこてんぱんに怒られたそうな。 |