そんな雰囲気なのに。









夕暮れの黄昏時。
綺麗な紅に染まりあげられていく大地。ここは、リベール王国の王都、グランセル。
その女王宮に続く、空中庭園だった。

遊撃士であるエステルとヨシュアは、自由に立ち入りが許されていて、女王と面会もできる。もちろん、正式に王太女になったクローゼとも。
他の遊撃士も同じで、皆それぞれにギルドや居酒屋で今は寛いでいる最中だ。
ここは、思い出の場所。
ヨシュアが、目の前でエステルの前から消えた、あの悲しい場所。
その同じ場所で、エステルはヨシュアと手を繋いで、恋人同士、拙いが愛を語っていた。言葉にすればとても照れくさいが。
「ここ、思い出すよ、あのときのことを」
「そうね」
「もう、絶対にあんな真似はしないから。エステルを一人にはしない」
「当たり前でしょ!また、あんな真似しようとしたら、今度こそただではすまさないわよ!」
勝気な性格のエステル。
それでも、随分丸くなった。健康的な焼けた小麦色の肌は変わりない。
エステルは、ヨシュアの琥珀の瞳を見てから、目を瞑った。

一瞬の沈黙。
ふと、二人の唇が互いに触れようとしたとき、がさりと音がして、二人は振り返った。

「ああ!なんてことだ、この僕が子猫ちゃんたちの愛の邪魔してしまうなんて!いっそ僕もまぜてーーー!!」
「またあんたかあ、オリビエーーー!!」
一人、放置されたオリビエは、帝国大使館に戻ったのだが、愛しの友人のミュラー君がまだ帰ってきていないその寂しさから、この空中庭園でリュートでも奏でて哀愁に浸ろうとしていたのだが、発見してしまったものは仕方ない。
大人しく、去るかそれともドキドキ胸を高鳴らせて様子を見つめるか。
オリビエは後者を選んだ。

「オリビエさん・・・・」
ヨシュアは、溜息をついている。エステルは、せっかくいい雰囲気をぶち壊されて怒っているし。
「ふふん、さぁ愛を語ろうではないか!二人とも、僕は分け隔てなく愛を与えようとも!さぁ、この熱いヴェーゼのキッスを!」
「いるかーー!」
エステルは、棒術でオリビエをぶん投げた。
「あーーれーーーー」
オリヴィエは、見事に吹き飛ばされて、床に叩きつけられることなく、華麗に着地すると、薔薇を2つ取り出して、それを二人に向かって投げた。
どういう動きをしているのか、薔薇は二人の手の中に。

「はっはっは、今回はこれで許してくれたまえ!帰ってみんなに伝えなければ!ヨシュア君とエステル君がラブラブイチャイチャしていたと!」
「ちょ、まてえええ!」
追いかけていくエステル、去っていくオリビエ。

空を見上げると、綺麗にそまった夕焼け。
ヨシュアは、琥珀の瞳にそれを写してから、また大きく溜息をつくのであった。