髪を結う







長くなってしまった髪が邪魔で、適当な長さに乱暴に切った。大体、肩くらいの長さで。

院生の4回生なっていた。

恋人である京楽は、髪を伸ばせとうるさいので、伸ばしてきたのがいい加減うんざりしてきた。もっと短く切ってやろうかとも思ったが、肩の長さで我慢した。

多分、京楽は嘆くだろうなと知りつつ、髪を短くした。

入学してから一度も髪を切っていない。全部、京楽のせいだ。

別に、京楽のことが嫌いになったわけではない。好きだと思うし、京楽も浮竹のことが好きだろう。

「髪くらい、別にいいよな」

ざんばらな髪を、京楽に切りそろえてもらおうと、寮の京楽の部屋の前で、扉をノックする。

「いるか、京楽」

「どうしたんだい」

部屋の中から応答があった。

ガチャリと扉が開いて、京楽が出てきた。京楽は、浮竹の姿を見て血相を変えた。

「誰に切られたの!くそ、殺してやる」

冷酷に光る瞳と荒ぶる霊圧が怖くて、一瞬言葉を失った。

誰かに無理やり切られたと見えるくらいに、浮竹の髪はざんばらだった。

「違う。自分で切ったんだ」

「え?」

「京楽が伸ばせという通りにしていたが、長くなりすぎて鬱陶しくて、つい」

その言葉に、京楽は少しだけ寂しそうな表情をしてから、室内に浮竹を招き入れた。

ふわりと、柑橘系の香がした。京楽がいつもつけている香水の匂いだ。

その匂いに安堵する。

「どうしたの?」

「な、なんでもない・・・・」

「ほら座って。髪、揃えてあげるから」

櫛で髪を梳かれて、万能鋏で浮竹の髪を切りそろえてく京楽。

「できた」

手鏡を渡されて、肩の長さで綺麗に揃えられたことに、感謝すると同時に勝手に髪を切ったことへの罪悪感が混ぜこぜになった。

「ありがとう。・・・・勝手に髪を切ってすまない」

背後から抱きつかれた。

「できれば、そのまま伸ばしてほしかったね」

「でも、ずっと短くしていたから。鬱陶しくて」

「僕がその、君の白い髪を好きだということを知ってて切ったんでしょ?」

「それは・・・・」

その通りなのだが。

「髪を切ったこと、怒っているのか?」

「怒ってはいないよ。ただ悲しいだけ」

「どうして悲しくなる?ただ髪を切ったくらいで」

抱き寄せられた。

「君の全ては僕のものだ。髪一房でも、僕のものだ」

肩の長さの髪を手で梳いて口づけられる。

「京楽・・・・」

「僕は、独占的なんだよ。君のことになると」

「京楽」

「なんだい」

「もう、勝手に髪を切ったりしない」

「うん。切りたいときは僕に言って。ちゃんと切りそろえてあげるから」

翡翠の瞳に口づけられた。



あれから、浮竹は二度と自分で髪を切ることはなかった。数百年の時の中、熱い夏に京楽に頼んで、少し髪を切ることはあったが、たいていは腰より少し短い程度で切り揃えられていた。

浮竹の白い髪からは、いつも花のような甘い香りがした。

それが、浮竹の匂いだ。

京楽は、いつものように雨乾堂にきていた。浮竹の花の香りに満足しながら、浮竹の白い髪をいじっていると、浮竹が声をかけた。

「京楽」

「なんだい、浮竹」

「前髪が伸びすぎて邪魔なんだ。切ってくれないか」

「分かったよ」

お互い、学院を卒業と同時に、浮竹は13番隊の、京楽は8番隊の席官の地位が待っていた。

最初は仕事に手いっぱいで、お互いに会うという時間をつくれなかった。

でも、慣れてくると二人で寄り添いあう時間も増えた。

隊長クラスまできた。責任のある地位にいることを理解しつつも、逢瀬の時をもつことはなくならない。

シャキンシャキンと、京楽がいつものように浮竹の髪を切る。

今回は前髪だけだったので、すぐに終わった。

手鏡を渡される。

少し髪を軽く見せるために、すかれた前髪に満足して、手鏡を返す。

「ありがとう」

「どういたしまして」

後ろ髪は、腰の位置のままだ。

「結おうか?」

「ああ、頼む」

京楽の手で、髪を結われていく。

「僕はね、この君の白い髪が大好きなんだ」

「俺も、京楽のおかげでこの白い髪が嫌いでなくなった」

昔は、あんなに嫌いだったのに。

白い色が美しいと言われ続けて、嫌いではなくなった。

肺の病で白くなった髪。こんな髪と、幼い頃短く短く切っていた。学院に入るのだかた、少しは見た目を気にしないと怒られて、少しだけ伸ばした。十分短いと評価される髪の長さは、浮竹には我慢できないくらいに長いものだった。

今では。腰より少し高い位置まで伸びた。

京楽の囁くままに、伸ばし続けて。伸びすぎると京楽が切ってくれた。

「ほらできた。かわいいね」

髪を編み込んで結い上げて、翡翠の簪で留められた。


「浮竹隊長失礼しま・・・・・・・うきゃあああああ」

口づけしているシーンをルキアに見られてしまった。

「朽木か。いい加減、慣れないのか?」

「無理です浮竹隊長!失礼しました!」

顔を真っ赤にして、ルキアは去っていってしまった。

来客用にと、お茶とお菓子が2つずつ盆の上に乗っていた。

「ルキアちゃんは初々しいねぇ。もう副隊長になって3か月でしょ?」

「ああ・・・・いつまでたっても慣れないな」

二人が付き合っていることは知っているし、体の関係もあることをルキアも知っていた。でも、ルキアはいつまでたっても、京楽が浮竹と過剰な接触をしているシーンを見ると、時には鼻血をだして・・・大抵は顔を真っ赤にして走り去っていく。


「この翡翠の簪・・・・大事にしてくれているんだね」

「最初は硝子玉とかいってたのはどこのどいつだ」

「だって、そうでも言わないと、君は高価なものは受け取ってくれないから!」

「別に、そんなものはいらないんだ」

少し、京楽が寂しそうな顔をする。

「俺は、こうして京楽が隣にいてくれて・・・・・それだけで満足だ。それだけで十分なんだ」

「誘ってる?」

「なぜ、そうなる」

二つの影は重なりあっていく。

「あ、髪が・・・」

乱れて、簪もとれてしまった。

「髪なんて、いつでも結ってあげるから。このまま食べられちゃいなさいな」

「京楽・・・・」


白い髪が、畳の上に乱れて、流れていた。