四楓院夜一は、四大貴族の一つ四楓院家の出身である。本人さえ忘れがちだが、上流貴族の姫君であった。そんな夜一は、さっぱりした性格の女性であった。> 「夜一様!これを、受け取ってください!」 砕蜂は、敬愛する夜一にチョコレートを渡そうと、綺麗にラッピングされたかわいい包み紙に入った箱を、夜一の前に突き出した。 今日はバレンタイン。 砕蜂は、丹精込めて、一晩かけて作った。 いわゆる、手作りチョコだった。 夜一のために、猫型に整えられたチョコレートだ。 「おう、すまんのう砕蜂」 夜一は、砕蜂から箱を受け取ると、その場で中身をあけてしまった。 「ふむ。かわいいのう。それに、美味いではないか。菓子を作る腕前も、昔に比べて立派になったものだのう」 猫型の、少し小さめのチョコレートを食べ終えて、夜一は砕蜂のほうを向いた。 「何か、礼をしてやらねばならんのう」 「そんな、勿体のうございます!私なんかのために」 「いやいや、可愛いおぬしのため、どれ一肌脱ぐか」 そう言って、本当に服を脱ぎだした夜一に、砕蜂は真っ赤になって目を手で覆うが、しっかりと指の隙間からみていた。 「夜一様!こんな冬に裸になってしまっては、風邪をひいてしまいます!」 「いや、着換えをするだけなんじゃが。おぬしは、こういうことのほうが、喜びそうじゃからのう」 「いえ、夜一様がくださるものなら、たとえ枯れ木の一枝でも大切にいたします!」 「そうか?では、ほれ」 夜一は、ぽいっと、砕蜂に髪飾りを投げてよこした。 「わしが、昔愛用していた髪飾りじゃ。お古で悪いが、値もけっこうするいい品だぞ」 「夜一様!」 感動のあまり、砕蜂は涙を浮かべた。 ちりんと、鈴の音がなる。金細工でできた鈴がついていた。 「ああ、愛しています夜一様!」 「ふふふ、砕蜂、今夜は寝かさぬぞ」 夜一と、砕蜂はできていた。どこぞの、隊長たちのように関係を隠していないわけではないので、二人ができていると知っている者は一部の者だけだが。 じー。 二人の愛の語らいを見ていた京楽は、浮竹のいる雨乾堂に、瞬歩で向かうと、浮竹に向かって手を突き出した。 「なんだ、京楽」 「ちょうだい」 「何を」 「ほら、例のあれだよ」 「ソウルキャンディ?」 「違う、違う」 「モッドソウル(改造魂魄)?」 「いや、それは犯罪でしょ」 「わかめ大使?」 「いや、それは朽木隊長のトレードマークでしょ!」 「じゃあ、チャッピー」 「いや、それはルキアちゃんがすきなものだから!」 「じゃあ・・・・・・・雑草」 「なんかひどくない!?」 「なんなんだ、一体」 「愛の結晶!」 「愛の・・・・・・・ミトコンドリア?」 「全然違うから!なんで愛の結晶がミトコンドリアなの!」 「じゃあ、葉緑体」 「なんか現世の理科になってない!?」 「愛の・・・・・・・贈り物?」 「そうそう、大部近い!」 「やっぱり、わかめ大使か!」 浮竹は、朽木百哉のわかめ大使が何気にすきだ。甘くておいしい。 「ちがう、今日という日の愛の結晶のあれだよ」 「ふむ。頭でもわいたか?」 「しくしく」 京楽は、冷たい反応の浮竹に、畳の上に座り込んで、泣き真似をしていた。 「なんだ一体。何が欲しいんだ」 「ほら、今日は何の日かな?ヒントはそれ」 「仏滅の日」 「しくしく・・・・・・・・」 ああ、そうか、今日はバレンタインだったな・・・・。 浮竹は、去年は京楽にバレンタインチョコを渡していたので、京楽は今年もあると思っていたのだろう。 「その、悪いが用意していない。もらいもののチョコでいいなら、大量にあるが」 女性死神からの人気も高い浮竹は、甘いものが好きで、チョコも好きなため、部下の男死神からなんかもチョコをもらっていたりした。 今日で一番うれしかったのは、日番谷隊長から、友チョコだと、ただの板チョコを渡されことだろうか。 「これやるよ、浮竹」 「えっ、日番谷隊長、いいのか?」 板チョコを渡されて、浮竹は喜んだ。日番谷は、浮竹と同じように、女性死神協会の女性たちから、大量のチョコをもらっているようだった。 「言っとくが、友チョコだからな。深い意味はない」 「ああ、わかっている」 浮竹は、大量のチョコを抱えて、雨乾堂に戻って行った。 「えー、今年はないの?楽しみにしてたのに」 大げさに落胆する京楽に、浮竹は苦笑した。 「お前も、女性死神からチョコを大量にもらっただろう?」 数では、浮竹の方が多いが、女性に優しい京楽を慕う女性死神も多い。 「それはまた別!君からもらうのが、嬉しいんだよ」 「今から買いにいったものでもいいか?」 「うん、それでもうれしい」 京楽は、浮竹と手を繋いだ。 「そういえばね、砕蜂隊長が夜一にチョコ渡してたよ。あの二人、前から妖しいと思ってたけど、できてたんだねぇ」 「知らなかったのか京楽」 「えっ、浮竹知ってたのかい?」 「いや、夜一とは昔馴染みだからな。たまに遊びにくるし」 浮竹と京楽の仲を誰よりも知っていて、からかったりする夜一に、恋人がいるとは京楽は知らなかった。 浮竹は、夜一からたまに砕蜂のことで悩みを聞いていたので、知っていた。 ただ、それだけのことだ。 「僕だけ仲間外れなんて悲しいねぇ」 夜一もけっこう酒豪で、浮竹と京楽と一緒に飲みに行くことも多い。でも、知らなかった。 「まぁ、とにかく今からチョコ買いに行くから。京楽もくるか?」 ルキアからも、チャッピー型の大きなチョコをもらった浮竹は、ちゃっぴーのチョコでも買おうと思っていた。 「君がくれるなら、駄菓子のチョコでも嬉しいよ」 繋いだままの手にキスを落とされて、浮竹は翡翠の瞳を瞬かせた。 京楽のことだから、本当に駄菓子屋で売っているような5円チョコのようなものでも喜ぶだろう。 でも、バレンタインなのだ。 チャッピーの形のチョコでも買ってやるか。 浮竹は、京楽の手をひいて、菓子屋にやってきた。 「うわぁ、いろいろあるねぇ」 浮竹のために、甘味ものを買いにスイーツの店にいくことはあっても、駄菓子を買うために菓子屋にいくことなかった。 浮竹は、同じシロちゃんだからと、お気に入りの日番谷によくこの店で菓子を買っては渡していた。 「あった」 よかった、売り切れてなかった。 チャッピー型のチョコを選んで、勘定をすますと、雨乾堂に帰った。 京楽は浮竹の耳元で囁く。 「君の手で、食べさせてよ」 浮竹は、京楽の口の中にチャッピーのチョコを乱暴につっこんだ。 「ちょっと!こういう時は、もうちょっとエロティックに・・・・・」 じー。 視線をかんじて、浮竹は後ろを振り返った。 そこに、夜一がいた。 「いや、やっぱりおぬしらを見るのは飽きないのう」 「夜一」 「どうだ、浮竹、京楽。酒でも飲みに行こうはないか」 夜一の後ろでは、少し小さくなった砕蜂が、隠れていた。 「京楽にもばれているみたいだし、もう隠す必要もなかろう」 夜一は、砕蜂を抱き上げて、キスをした。 京楽はそれを見て、自分も負けるかとばかりに浮竹を抱き上げ、キスをした。 「わしらは、似た者同士じゃのう」 「そうか?」 浮竹は、首を傾げる。白い髪が、さらさらと音をたてる。 「夜一様に、手をだしたら許さないからな、お前たち」 威嚇してくる砕蜂に、夜一が頭をなでると、一瞬でしおらしくなった。 「夜一様・・・・・・・」 「そうじゃ、忘れるとこじゃった。ほれ、浮竹、京楽。おぬしらの分のチョコじゃ」 「おのれ、浮竹、京楽!夜一様に、チョコをもらうなど・・・・・」 「砕蜂、わしが愛しているのはおぬし一人じゃ。チョコ程度で、焼きもちを焼くな」 「はい、夜一様!」 その後、4人はべろんべろんに酔っぱらうまで、酒を飲んだ。 朝起きると、隣に全裸の夜一が転がっていて、京楽はびっくりした。 少し間をあけて、浮竹が寝ている。隣には、やや乱れた衣服の砕蜂が寝そべっていた。 「あー。飲みぎた・・・・何したのか、覚えてないよ」 まさか、夜一に手を出したわけじゃあるまい。浮竹も、砕蜂に手を出すなどありえないだろう。 事実、起きた夜一は、京楽と浮竹が寝た後で、砕蜂といちゃいちゃしていたという。 酒に強い京楽までべろんべろんに酔っぱらわせるほどの酒豪である、夜一は。 「また、飲みにいこうのう」 「いや、勘弁してくれ」 浮竹は、京楽に介抱されながら、水をのんだ。 「酒に強すぎた、夜一」 「ふーむ。まぁ、ホワイトデーなるものを、期待しておるからの!」 「やっぱ目的はそれか・・・・・・」 夜一が、砕蜂以外にチョコを渡すはずがないのだ。 結局、夜一へのホワイトデーは少し高価なおくりものになった。 京楽から、浮竹へのホワイトデーは、現世へのスイーツ店巡りツアーだったという。 |