それは、決して避けて通れない道。 まるで、運命のような.。 霊王の死により、崩壊する世界を安定させるために、自身の病気の進行を抑える薬代わりでもあった霊王の右腕「ミミハギ様」を解放した。 一時的に世界を安定させたのと引き換えに、病気が進行していく。 もう末期だと、4番隊隊長卯ノ花は京楽に、最後の対面をと、浮竹が静かに療養のために過ごしている部屋に行くように勧めた。 「もう、だめなのか・・・・・・・・」 比翼の鳥は、片翼を失うと失墜する。京楽にとって、片方の翼であった浮竹は、もう長くなかった。 毎日のように、せき込んでは大量に吐血した。 「浮竹・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・きょう、らく・・・・・」 さっきも、吐血した。 そして、京楽に見せたくないのに、咳き込んでまた吐血した。 べったりと張り付いた血の赤さに、京楽は眩暈を覚えた。 なぜ、彼なのだろう。 運命とは、かくも残酷だ。 浮竹がもう長くないと、皆知っていた。だから、せめて最後まで京楽が傍にあれるようにと、邪魔する者はいなかった。 愛していた。 海よりも深く。空より広大に。 愛されていた。 比翼の鳥のように、お互いを大切にして寄り添いあった。 院生時代からの、恋人だった。何千回・・いや、何万回も交わった。数百年の時を一緒に生きてきた。 それが、もうすぐ終わる。 「春水・・・・・・」 京楽は、血に濡れるのも構わずに、浮竹に口づけた。 「愛して、いるよ・・・・」 涙が、頬を伝った。京楽の初めて見せる涙に、浮竹は微笑した。 「俺も・・・・愛してる。さよなら・・・・・」 京楽は、浮竹の手を握りしめ、浮竹が少しずつ深い昏睡状態になるのを見守った。 そして、浮竹が息を引き取るまで、傍にいた。 比翼の鳥は、片翼を失った。だが、時代は京楽を必要とした。山本総隊長はなくなり、その代わりにと、京楽が総隊長の座についた。 「さよなら、浮竹。たくさんの愛を、ありがとう」 痛々しいまでにやせ細った体を隠すように、棺は白い桜の花で満たされた。朽木百哉に頼んで、桜の花をだしてもらった。 浮竹は、よく花見をする人だった。とりわけ、桜を好んだ。 棺の中には、おはぎが供えられた。 誰もが、泣いていた。京楽は、涙を零さなかった。 そのまま、火葬されていく。 数百年にわたって、愛してきた恋人が、灰となっていくのを、京楽は見守った。 ------------------------------------- 「浮竹ぇ。遅いよ」 総隊長の座について、千年の時が過ぎた。 迎えにやってきた浮竹は、長い白い髪をなびかせて、京楽の手をとる。 京楽は、年のせいでやせ細った自分の体をみた。髪の色など、もうとっくの昔に浮竹とおそろいの白になっていた。 「迎えに来た、京楽」 「うん。ずっと、待ってた」 現実世界の京楽は、老衰により死を迎えようとしていた。 まどろむ夢の中で、愛しい人と出会った。 最後にみた、長い白髪のまだ病弱であるけれど、元気であった姿をしていた。 「いこう、京楽」 「ああ・・・・・・・」 ふわりと、京楽の体が浮かんだ。自分の体を見ると、総隊長に就いた頃の年齢の姿をとっていた。 浮竹の体を抱きしめる。涙が零れ落ちた。 体温が、暖かかった。 まるで、本当に生きているようだ。 「浮竹、愛している」 「俺もだぞ、京楽」 深い口づけを交し合い、二人は光にむかって、まっすぐ歩いていく。 死の先に待っているのは、輪廻か、それとも完全な無か。 輪廻があるのなら、浮竹はすでに生まれ変わり、京楽の元きていただろう。だから、きっと無になるんだ。 光へと向かっていく。 二人の姿は、やがて鳥になった。 比翼の鳥だ。 お互いに翼は一つしかない。羽ばたきあい、空を駆け、ずっと遠いところにある光めがけて、飛んでいく。 海より深く、空より広大な世界を。 愛という名で塗りつぶして、光に向かって飛んでいく。 やがて、光は消えた。 静寂だけが満ちた。 世界は、沈黙に包まれた。 京楽の墓は、雨乾堂の浮竹の眠る墓石の隣に建てられた。 もう、離れない。 永遠に、一緒だ。 刹那と永遠(とわ)の時間を刻んで。 |