男性死神協会







「あんたら、人の部屋で何勝手なことしてるんだよ」
現世にある、黒崎一護の部屋に、尸魂界の男性死神協会の面子が集まっていた。
吉良イヅル、檜佐木修兵、射場鉄左衛門。
「尸魂界には、男性死神協会に場所を貸してくれる場所がないんじゃあ!」
射場は、涙を流していた。
うんうんと頷く吉良と、檜佐木。
「まじかよ。でも、だからってなんで俺の部屋なんだ?」
「それは、ここが一番居心地がいいからだ!」
檜佐木は、ガッツポーズで、エアコンのスイッチを入れた。
「ああ、涼しい・・・・」
「ただ涼みにきただけかよ。それより・・・・・・・」
ちらりと、もう一人いた面子の、浮竹をみる。
「浮竹さんは、なんでそんな恰好してるんだ?」
「ああ、気にしないでくれ」
他の男性死神協会の面子と同じ、上半身裸でグラサン、腹巻、黒いズボン。そこまではいい。他の三人も同じ格好をしているからだ。
でも真っ白な髪を結い上げて、髪飾りで留めていた。んでもって、めっちゃ派手な女ものの着物を肩から羽織っていた。
「気にしないでくれって言われても・・・・・・背後の、京楽さんがめっちゃ気になるんだが」
「僕のこと?気にしないでいいよ。空気だと思ってくれれば」
「いや、無理だから」
「浮竹ぇ、やっぱりその恰好じゃだめだよ。色っぽすぎる。せめて、上半身裸はやめようよ。
僕以外の死神か人間にそんな姿見せるのがもったいない」
浮竹の白い髪をまとめあげて、この前買ってあげた翡翠の髪飾りで留めたのは京楽だった。
浮竹は、涼しいからと、別段気にもとめていなかったようだが、整った容姿と普段は見えないうなじが見えて、かなり色っぽかった。
じっと見ていると、京楽の怖い笑みに気づいて、一護は視線をずらす。
「浮竹さん、あんたは帰れ」
「えっ、なんでだい一護君。俺は、男性死神協会の看板を背負っているようなものだぞ」
「いや、後ろの人がすごい怖いから」
「京楽が?また冗談ばかっり」
いや、まじで怖いんですけど。
吉良も檜佐木も射場も、浮竹を見てはギロリとした視線で、京楽に睨まれている。
「浮竹。エアコンが欲しいなら、僕がいくらでも現世から買ってあげるから、やっぱり帰ろう。肩に着物羽織っただけのそんな姿じゃ、風邪をひいちゃうよ」
「大丈夫だ、京楽。俺は別にエアコンがあるからきてるわけじゃ・・・あああ、涼しい」
エアコンの風があたって、浮竹は幸せそうだった。
「甘味屋で、かき氷とアイスおごってあげるから」
「うーん」
浮竹は、甘いものにつられそうになっていた。
その場にいた男性死神協会の全員が、議題を出しそびれていた。
儚い浮竹のうなじが、とにかく色っぽいのだ。女ものの着物が、やたら似合っている。
「やっぱり帰ろう」
どうしても集まる視線に嫌気がさして、京楽は浮竹を抱き上げた。
「こんな格好、まるで狼に子羊を会わせるようなもんだよ」
いや、いくらなんでもそこまではいかないから。
その場にいた、誰もが思った。
むしろ狼はあんただろ。
一護は思った。
「浮竹さん、京楽さんまたな」
穿界門(せんかいもん)をあけて、去っていく二人に、一護が手を振る。
「浮竹隊長、京楽隊長、お疲れさまです」
吉良が、ぺこりとおじぎをする。
二人が去って、男性死神協会の面子はやっと、議題をだして会議をはじめた。
「あーうまい。エアコンの風にあたりながらだったら、もっとうまいだろうな」
京楽は、一度浮竹と一緒に雨乾堂に帰ると、浮竹を着換えさせて、甘味屋まで来ていた。
尸魂界に、エアコンがないわけではない。四大貴族の朽木家なんかにはあったりする。
アイスを幸せそうにほおばる浮竹は、髪は結い上げたままだった。暑いからだ。
「今年の夏も暑いなぁ、京楽」
「ああ、うん、そうだね・・・・」
京楽は、かき氷を食べていた。頭にキーンときて、ちょっとつらそうだ。
女性死神が、ちらちらと二人の姿を見ていた。
「今日の浮竹隊長、髪結っててなんか色っぽいわね」
「肌の色しろーい」
「あれ、京楽隊長の上着でしょ」
浮竹は、着替えさせられたが、京楽の女ものの上着の着物を肩にかけたままだった。
「かき氷も頼んでいいか?」
「好きにしたらいいよ。でも、風邪ひかない程度にね?」
「ああ、分かっている」
浮竹は、いろんな味のアイスを食べたあと、宇治金時のかき氷を注文した。
「浮竹はさぁ。もっと、危機感もったほうがいいと思うよ」
「ん?なんでだ?」
シャリシャリと、かき氷を口に運びながら、浮竹が小首を傾げた。
その様子があまりにかわいかったので、京楽は写真を撮りたいと思ったほどだった。
「いろいろとね。男ってもんは、危ない生き物だから」
「俺も男だが?」
京楽は、溜息を零した。
「やっぱ浮竹は分かってないねぇ」
時折、男性死神の熱い視線が浮竹に注がれているのを、京楽は気づいていた。
浮竹の今の姿は、男の情欲をそそるものがある。
満足するまで甘味ものを食べた浮竹は、京楽の着物を彼に返した。
「これは、もういい」
「似合ってるのに」
「京楽のほうが、似合ってる」
「まぁ、そりゃいつも着てるからね」
「また今度、髪結ってくれるか」
京楽に、髪を櫛ですかれるのが浮竹は好きだった。
「君のためなら、いくらでも」
にこりと、京楽は微笑む。
浮竹は、京楽の手を掴むと、建物の影に入った。
浮竹は、少し背伸びすると、京楽に口づける。
「浮竹?」
「今日のお礼だ」
少し赤くなって、浮竹は目を逸らす。
「あーもう。君は、なんでこんなにかわいいの」
京楽に抱きしめられて、浮竹の体は強張った。
いくら建物の影に入ったとはいえ、往来の中だ。
ちらちらと降る視線に、浮竹は京楽の笠をとって、走り出す。
「あ、浮竹!僕の笠、返してよ!」
瞬歩で浮竹は移動する。
同じく、瞬歩で京楽はその後を追う。
「捕まえた」
細い白い手首をとらえられて、浮竹は前乗りに倒れそうになった。抱き上げてくる京楽の胸に、顔を埋める。
それから、ぺろりと、自分の唇を舐めた。
ああ。
この子、誘ってるんだ。
浮竹が、情欲を覚ると自分の唇を舐める癖があるのを、京楽は知っていた。
それを知られているのを、浮竹も知っているようだった。
「ここじゃなんだから、僕の館にいこうか。お湯、わかしてあげるからまずは風呂に入ろう」
「ああ・・・・・・・・」
京楽は、尸魂界にいくつかの別邸をもっていた。
上級貴族なだけあって、どの別邸にも定期的に人をやって、いつでも使えるようにしていた。
浮竹の露出されたままのうなじに、唇を寄せて、京楽は囁く。
「愛してるよ、十四郎」
「・・・・・・・・俺も。春水」
浮竹は、京楽の腕から降りると、手を繋いで別宅へ向かった。
途中、死神と遭遇したが、気にしない。
二人は、関係を隠していない。手をつないでいる姿を見ても、萌える女性死神と、幸せそうな二人を見守る男性死神がいるだけだ。
比翼の鳥は、まどろむように、日常の幸せを享受しあうのだった。