猫又







「京楽、この通りだ」
「だめなものはだめ」
「そう言わず」
「だーめ」
「これでもか?」
浮竹は、自分の服の襟元をはだけた。
「うっ・・・・・色仕掛けしても、だめなものはだめ!」
「そんな。又吉・・・・・・・」
にゃあ。
浮竹に抱き上げられた黒猫は、かわいく鳴いた。
といっても、ただの猫ではない。
正体が夜一だというパターンでもない。
尻尾が二つあった。
いわゆる、猫又・・・・・・妖怪の一種だった。
尸魂界では、一種の虚に似た姿を保つ獣の一種だ。分類上では。
「はっくしょん」
京楽は、くしゃみをした。
「頼むから、こっち向けないでくれないかい。くしゃみが止まらなくなる・・・・っくしょん」
京楽は、浮竹と同じで夜一と交流をもつ。だが、夜一が猫の姿をとると、京楽はいなくなる。彼は・・・・・・猫アレルギーだった。
「はっくしょん。とにかくだめなものはだめ!雨乾堂で、猫又かうなんて!僕が遊びにいけなくなるじゃない」
「京楽がきたら、清音と仙太郎に世話するようにもっていってもらうから!」
「もっていくまで、ここにいるんでしょ?僕が猫アレルギーだって知ってるでしょ?」
「だから、頼み込んでいるんじゃないか。雨乾堂は、俺の居場所だぞ。本当なら、京楽の許可なしでも飼えるのを、こうやって許しをえて飼おうとしてるだけましじゃないか!」
「だめなものはだめ!」
京楽は、猫又を我慢してつかみ、ぽいっと雨乾堂の外に捨てようとする。
「又吉!」
「にゃああ」
又吉と呼ばれた猫又は、暴れると京楽の顔をひっかいて、浮竹の元に戻ってきた。
「ここがだめなら、どうしよう・・・・・・・そうだ、シロちゃんだ!」
自分と同じ、シロちゃんこと日番谷を思い出した。
彼は、けっこう動物好きだ。
「ちょっと、行ってくる」
「あ、浮竹・・・・・・・はっくっしょん!」
京楽は、くしゃみをして、瞬歩で去って行った浮竹の後を追った。
「日番谷隊長!」
「なんだ、騒々しい」
10番隊の隊舎の隊長室にやってきた浮竹は、又吉と名付けた猫又を、ずいっと日番谷の目の前にもってきた。
「にゃああ」
「なんだ、猫か。猫なんてもってきて、なんなんだ、浮竹」
「10番隊で、飼ってくれないか」
「急にそんなこと言われてもな・・・・って、この猫、猫又じゃねぇか!」
「大丈夫、ただの猫が長生きして猫又化しただけで、害はない」
「問題あるわっ!」
猫又を飼うなんて、聞いたこともない。
普通の猫として飼えるのかもわからない。
「頼む!13番隊では、京楽が猫アレルギーだから飼えないんだ」
「あのもじゃもじゃが・・・・っていうか、雨乾堂にいつもくるのか、あのおっさん」
「どうせ、僕はもじゃもじゃのおっさんだよ・・・・・・・」
浮竹の後をつけてやってきた京楽は、笠を深くかぶっていじけだした。
それを浮竹は無視した。
「だめか、日番谷隊長・・・・・・」
「んーそうだ、雛森!おい、松本!」
「んー。なんですか、隊長・・・・ふあああ、あらかわいい。猫かぁ」
長椅子で寝ていた松本を乱暴に起こすと、日番谷は命令した。
「今すぐ、雛森を呼んでこい」
「えー、まだ寝ていたいですー」
「いいから、さっさと呼んで来い!」
怒鳴られて、松本は仕方なしに瞬歩で雛森を呼びにいった。
数分後。
「わーかわいい!」
呼ばれた雛森は、猫が好きだった。
実家でも、数匹の猫を飼っている。
「シロちゃん、本当にいいの?私がもらっちゃって・・・・・」

雛森は、黒い猫又をみて、次に日番谷の顔をみた。

「シロちゃんって呼ぶな!日番谷隊長と呼べ!」

「シロちゃんは、シロちゃんだよ?」

頭を撫でられて、その覆そうにもまだできない身長差に、少し悔しそうに日番谷は雛森のされるままにしていた。

「いつか、絶対背を追い越してやるからな」

「シロちゃんがー?あははは、いつになるんだろうねぇ」

雛森は、陽だまりのように日番谷を包み込んでいた。

「シロちゃん、大好き!」

「ばかっ!松本とか浮竹が見てるだろう!」

京楽はいるけど、省いておいた。

「シロちゃん、恥ずかしがりやだなぁ」

「にゃあ」

猫又が鳴く。
「そいつ、猫又だぞ。隊舎じゃかえねぇ。大体浮竹がもってきたものだしな」
その浮竹は、松本が入れたお茶を飲んで、せんべいをかじっていた。
「雛森副隊長、飼ってくれるか?」
「ええ、浮竹隊長!猫又なんて珍しいし、実家で良ければ飼います!」
「よかった・・・・・はっくしょん」
様子を見ていた京楽は、くしゃみをしながら安堵した。これで、今までのように雨乾堂に堂々と遊びに行ける。
「浮竹隊長〜、キスマーク、うなじについてますよ」
「えっ」
今日もまた、浮竹は白く長い髪を結い上げていた。露出していたうなじに、痕が残っているのに気づいた松本は、むふふふと、腐った笑みを浮かべていた。
「京楽!」
浮竹は、痕を残されることを嫌う。
怒鳴られて、京楽は浮竹を置いて瞬歩で逃げ出した。
「あのくされエロ魔人がっ」
「浮竹。ほんとに、あんなもじゃもじゃおっさんの、どこがいいんだ?」
「自分でも、たまに分からなくなる」
「にゃあ」
又吉は、かわいく鳴いて、二本の尻尾を揺らした。雛森の腕の中で、気持ちよさそうにしている。
「シロちゃーん。名前、又吉じゃかわいくないから、エカテリーヌに変えていい?」
「べ、別にいいんじゃないか」
日番谷は、雛森のネーミングセンスに、ちょっと引きかけていた。
「にゃーお」
「元気でな、又吉・・・じゃなかった、エカテリーヌ」
浮竹は、雛森の腕の中の猫又の頭を撫でてから、雨乾堂に帰っていった。
それから、戻ってきた京楽とぎゃいぎゃい騒ぎあって、結局は京楽の甘い甘いキスとかにとろけさせられて、許してしまうのである。
比翼の鳥の片割れは、猫アレルギー。