比翼の鳥W







「ああ、また散らかして・・・・・・・」

海燕は、雨乾堂でばらばらになった書類を、片付けていく。

ハンコはもう押されてあった。

後は、次の隊に回すだけの書類だ。

「またこんな場所で・・・・・」

浮竹と、京楽が寝ていた。

畳に敷いた布団の上で、京楽は、浮竹を抱きしめていた。京楽の腕の中で、浮竹はすーすーと眠っている。二人とも、よく眠っているようだ。

いくら京楽の手の中だからといっても、あまりにも無防備だ。

「隊長・・・・」

海燕は、浮竹のやや薄い桃色の唇に指で触れる。

起こすまいと、優しく。

「んー・・・・・・」

京楽が、身じろぎした。

自分の今しでかしたことに気づかれたのかと、ぎくりとなった。

浮竹は、変わらずスースーと眠りに入っている。京楽のほうが、眠りは浅いようだった。

真っ白な長い髪が、布団の上で乱れている。

その髪に、そっと触ってみると、サラサラと指の間から零れ落ちた。

「ん・・・京楽の、あほ・・・・」

眠っていた浮竹が、少しだけ動いた。

また、気づかれたのかと、ぎくりとなる。

自分には、都という名の妻がいる。浮竹と出会う前から、結婚していた。もし、妻帯していなかったら。もし、浮竹に京楽がいなかったら・・・。

敬愛する上官に抱いてしまった劣情に、海燕は首を振って想いを抑え込んだ。

「二人とも、風邪ひきますよ」

かけ布団を二人にかぶせて、拾い上げた書類を手に、海燕は雨乾堂を後にした。



「・・・・・・・・・」

ゆっくりと、京楽が目を開ける。

残っていた霊圧に、眉をしかめる。

愛しい浮竹の霊圧に触れるように、少しだけ霊圧の名残があった。

それは、浮竹が京楽の他に最も信頼しているはずの、副官のものだった。

確か、名前は志波海燕。妻帯者で、浮竹の世話をよくやいてくれる、京楽も頼りにしている相手だった。

「ちょっと、まずいんじゃないの・・・・・・」

もしも、浮竹を取られでもしたら、嫉妬で身が滅びそうだ。

「君は、僕だけのものだからね」

腕の中で眠る、白い髪の麗人を抱きしめる腕に、力を籠めると、僅かに翡翠色の瞳が開いた。

「ん・・・きょうら・・・く?」

交わったわけではない。だが、ぐずぐずになるように、甘く甘く、耳元で囁くように浮竹に接した。
何度も口づけして、体のラインを確かめた。

「まだ、眠い・・・・・・」

浮竹は、京楽のもじゃもじゃの胸毛のはえた胸筋に、頭をこすりつける。

浮竹の白い髪や体からは、甘い花の香りがした。

いつもそうだ。

香水も使っていないのに、甘い香りがする。花のような香りだ。

さらさらと零れ落ちていく、白い長い髪を、手に取る。

「誰にも、渡さない・・・・・・・」

やや乱暴に、口づける。

「んー・・・・・・きょうら・・く・・・・」

「どうしたんだい、十四郎」

下の名前で呼ぶと、ぴくりと浮竹の体が反応した。

「春水・・・・・・」

触れ合うだけのキスをする。

「浮竹は、甘いねぇ」

とろけるようなキスも、触れるようなキスも、甘くて甘くて。

まるで、果実のようだ。

「春水・・・・・・・愛してる・・・・・・」

「僕もだよ、十四郎」

その甘さを貪るように、覆いかぶさって、深く口づけた。

「誰にも、渡さない」

もしも、浮竹に自分以外の愛しい人ができたら、きっと相手を殺してしまう。

狂気じみた愛だ。



比翼の鳥の片割れは、貪欲だった。欲しいだけ貪る。
もう片方の比翼の鳥は、貪られて啼くことを覚えた。


優しく甘い時間は、あっという間に過ぎていく。


比翼の鳥は、お互いを抱きしめあいながら、熱を孕んで飛び立っていく。


休息を何度も取りながら。


ただ、真っ白な世界へと。