浮竹は、甘いものが好きだ。 甘味ものに目がない。果物も好きだった。 季節は初夏。 桃をむくと、その甘ったるい匂いに釣られて、浮竹が寝ていた布団から這い出してきた。 「お前が食べるのか?」 ほしいと、顔にかいてあった。 京楽は苦笑して、皮を剥いて適当な大きさにカットした桃を入れた器を渡した。 「ちゃんと冷やしておいたから、きっと美味しいよ」 ルキアに、氷をだしてもらい、それで冷やしておいた。現世には冷蔵庫という便利なものがあるが、尸魂界は基本的に氷をいれて冷やす冷蔵庫しかない。 桃を一つかじって、浮竹がつぶやく。 「甘い・・・・・・」 甘ったるい匂いが、雨乾堂に漂う。 「京楽、お前も食え」 爪楊枝でさされた、カットされた桃を口元にもってこられる。 京楽はそれを一口だけ食べて、浮竹に口づける。 「んっ」 浮竹の喉から、甘い声が出た。 「京楽・・・・・?」 浮竹の、長い白髪を指ですいてやると、口中に桃の味が広がった。 口に含んだ桃を、口づけのついでに渡されて、それを咀嚼して飲み込むと、ゴクリと自分が思っていた以上に大きな音がたった。 「ふっ・・・・・・」 浮竹が、桃の汁にまみれた京楽の指に舌を這わす。 「誘ってるのかい?」 「さぁ?」 押し倒すと、桃の甘ったるいにおいにまじって、浮竹の甘い香りがした。 ぱさりと、畳に浮竹の長く白い髪が流れる。 口づけを交わす。 桃の味がした。 「桃、もう一つあるんだけど、食べるかい?」 「今は、いい・・・・・・」 お前を貪りたいのだとばかりに、口づけられる。 全体の輪郭を確かめるように指を這わすと、浮竹がびくりと体を強張らせた。 「力、ぬいて?」 また口づける。 何度も口づけると、甘ったるい気分になってきた。 「きょうら・・・く・・・・・・」 京楽の体の下で、浮竹は乱れていく。 そうさせることができるのは、自分だけなのだと、刻むように見えない場所に痕を残した。 「あ、あ、あ・・・・・・・」 刻む律動に、浮竹が上ずった声をあげる。 浮竹の中は、吸い付いてくるようで、酷く心地がよかった。 「ごめん、潤滑油、少し足りなかったね」 「大丈夫、だから・・・・・・」 相手を思いやる気持ちを、忘れてはいけない。 京楽は、一度浮竹の中から出ると、己の熱に潤滑油をぬりこんで、また浮竹の中を侵した。 「あっ」 浮竹の声のトーンが、あがっていく。 そろそろ限界が近いのだと、お互いに認識しあう。 「あうっ」 浮竹のいいとこを突きあげると、彼は白い髪を乱してあえぐ。 「十四郎、愛してる」 「あ、あ、あ・・・・・・・春水っ!」 名を呼ばれたのと同時に、浮竹の中に熱を放った。浮竹も、京楽の手の中に熱を放った。 ぐったりと弛緩した体を抱きしめる。 「浮竹?」 「・・・・・・・ん」 ほんの少しの間、意識を飛ばしていた浮竹は、京楽の肩に爪をたてた。 「桃、もう一つ食べる?」 「食べる・・・・・・・・・」 雨乾堂には、甘ったるい匂いが満ちている。 桃の果実と、浮竹の、甘いにおいに。 冷蔵庫から桃をとりだして、むいていく。浮竹に食べさせてやる。 行為の後のせいで、気だるげな浮竹はそれはそれは色っぽかった。 桃を食べ終えると、その耳朶を噛んで、耳元で囁いた。 「もう一回、抱いてもいいかい?」 こくりと、浮竹は頷く。 かわいい恋人は、とても儚げだ。でも、芯は強い。病弱で細い体をしているが、お互いの命を預けて、背中合わせに戦うことができるくらいに、強い。 そんな浮竹の、乱れる姿を見ることができるのは、京楽だけだ。 「桃、また買ってくるね・・・・・・」 「んー・・・・・・」 甘ったるい果実は、浮竹に似ていると、京楽は思った。 |