命日(IF







「京楽総隊長、ここにいましたか」

副官の七緒が、京楽に声をかける。

京楽は、窓辺で一羽の小鳥に餌をやっていた。

「ああ、逃げちゃった・・・・・・」

チチチと、小さい声をあげて飛び立っていったのは、一羽の白い小鳥だった。目の色は綺麗な緑色だった。

「京楽総隊長?」

「七緒ちゃん。あの子に餌付けしてる時は、声をかけないでくれって前にもいったでしょ?」

「しかし、火急の要件がありまして」

七緒が、ばつの悪そうな顔で手にした書類を、京楽に見せる。

「そこに置いといて。すぐに片付けるから」

「はい。それでは」


七緒が去ると、窓辺に小鳥がまたやってっきた。

その種の小鳥は、本当なら羽の色は黒だ。色素がないために、真っ白になってしまったのだ。アルビノかと思ったのだが、目の色は赤くない。

瞳の色は鮮やかな翡翠色だった。

その色に、まるで、京楽がかつて想いを・・・・いや、いなくなってもなお想いが色あせることのない相手と似ているので、ついつい餌付けをしてしまった。

なつくことのないはずの野生の鳥だが、京楽によくなついていた。

体が弱く、一時は籠の中で飼育していたが、自然のままのほうがいいと自由にさせた。

手に乗ってきたり、肩にのってきたりと、随分なついた。

ただ、京楽以外の相手にはなつかずに、姿を見ると飛び立っていく。

チチチ・・・・。

書類を片付ける京楽の傍で、小首を傾げて小鳥は京楽の肩にとまった。


今日は、命日だ。

京楽の想い人の。


仕事を済ませると、京楽は小鳥を肩にとまらせたまま、花と酒を手に雨乾堂にでかけた。

そこには、京楽がもっとも愛した人が眠っていた。

「やぁ。こっちは相変わらずだよ。もう平和が15年も続いている。ちょっとした騒動はあるけれど、いたって平和だよ」

もう、彼がなくなって15年たっていた。彼の後は朽木ルキアが引き継いで13番隊隊長となった。そのルキアも、結婚して今は阿散井ルキアとなり、阿散井隊長と呼ばれている。

「そうそう、この小鳥みてよ。君の色にそっくりだろう?」

花を添えると、小鳥は墓石の上にとまった。

「またいつか・・・・・僕がそっちにいったら、酒を飲みかわそう」

酒瓶を傾げて、中身を墓石に注ぐ。

小鳥が、京楽の頭にとまった。

「やんちゃな子でね・・・・・・・シロって名付けたんだ。日番谷隊長もシロだけど、君もシロだったしね」

祈るように、黙祷を捧げた。

「さて。総隊長という身分は窮屈でね。昔みたいにさぼれない。君に会いにいくのも、ここ数年で命日だけになってしまっているけど、許してくれないかい」

苦笑して、また酒を注いだ。

いなくなっても、愛している。
何百年と共にいきた、比翼の片割れ。

失っても、色あせることのない記憶、恋慕、感情。

心は重なり合ったままだ。

伝えれるのなら、たくさんのありがとうを伝えたい。その真っ白な髪に口づけて、今でも愛しているのだと囁きたかった。

君のおかげで、今の僕がある。

「じゃあ、またね。ずっとずっと、愛してるよ。永遠の愛を君に・・・・」

チチチチ。

小鳥が飛び去って行った。

そして、久しぶりに彼の名を口にした。

「浮竹・・・・また、くるよ。来年になるかもしれないけれど」

比翼の鳥は、片割れを失ったけれど。

まだ一緒のところにはいけないのだと、総隊長になった。

そして、月日だけが無情に流れていく。


不変の愛を誓った。


総隊長になった京楽には、いくつもの縁談がもちこまれたけれど、全て拒絶した。


心は、彼と共にあるから。


ねぇ、そうだろう、浮竹?





花の神は、ゆっくりと瞼をあけた。


別名、椿の狂い咲きの王。冬に狂ったように咲く椿に恋こがれた、狂った王だ。


似ているな、と思う。京楽は王で、花が浮竹だ。


浮竹に狂った京楽。


さてはて、命を与えた愛児と、それを愛する男はどうなっていく?


そう考えながら、花の神はまた眠りについた。