<永遠







「ねえさあああん!その絶壁の胸に、俺を埋めてくれえええ!」

抱き着いてきたコンを、足蹴りにして、踏みつけながらルキアは一護をみた。

「おい、一護」

「なんだよ」

「私の胸は、絶壁か?」

「いや、知らねーよ」

一護は、話題ゆえに、ルキアの顔をまともに見ることができなかった。

「ほれ」

一護の背後から抱き着いてみる。柔らかな感覚はあったが、織姫や乱菊と比べれば確かに絶壁なのかもしれない。

「ななななな、何しやがる」

「私にも胸はあるぞ。絶壁ではない!」

拳を握りしめて、ルキアはコンをさらに踏みつけた。

「いたたたた、綿出る、綿出るから!」

そんなコンを、ルキアも一護も無視した。

「確かに、私の胸は井上や松本副隊長にくらべれば、小さいかもしれないが・・・・・あの二人が、でかすぎるだけだと、私は思うのだ」

真剣に、胸について語りだす。

「今のままで十分だろ。俺は、今のままのルキアがいい」

胸なぞ、小さくて構わないのだと、手をとると、ルキアは目を瞬かせた。

「貴様は、巨乳のほうが好きなのではないのか?」

部屋の中に転がっているグラビア雑誌(主に恋次が読む)には、巨乳のアイドルばかりがいた。

ルキアは、自分の胸が小さいことを少し気にしているようだった。

「巨乳でも、貧乳でも、ルキアはルキアだ」

「私は・・・・・・・!」

手をひかれて、体勢が崩れる。

ベッドに腰かけていた一護の上に、覆いかぶさるように倒れて、ルキアは紫の瞳を見開いた。

「一護・・・・・・・・」

優しく抱きしめられて、一護の腕の中でルキアは朱くなった。

「俺は、今のままのお前がいい。今のままのお前が、好きだ」

耳元で囁かれて、ルキアは自分の体温があがるのを自覚した。

「貴様は・・・・それでいいのか」

「何が」

「私は死神だぞ?」

「ああ、それがどうした」

「貴様は人間だ。私とは、決して結ばれない。それが運命だと分かっていても、私の手をとってくれるのか?」

「死神とか人間とか。恋愛に、そんなもの関係ねーだろ」

一護は、きっぱりと言い放つ。

好きだ、と。


その言葉に、ルキアの鼓動が高鳴る。

「貴様のことを、私も・・・好きだ」

「なら別にいいじゃねーか。死神だとか人間だとか、深く考えすぎなんだよ」

一護は、気づいていた。結ばれたとしても、それは一時のこと。死神であるルキアは長い時間を生き、ゆっくり成長していく。人間でしかない一護は、そんなルキアをおいて年老いていく。

それでも。

好きになってしまったものは、仕方ないのだと、現実から目を背ける。


「好きだぜ、ルキア」

啄むように口づけすると、ルキアはそれに応えてくれた。

「私も貴様のことが好きだ、一護」


お互いのことを確認しあうように、長い間抱擁しあっていた。エアコンは効いているが、長い間体を密着させたままだと、少し暑くなってきた。

「お前の胸、見た目よりけっこうあると思うぜ」

そんな台詞に、恥ずかしくてルキアは一護を蹴った。

「蹴ることねーじゃねーか」

「うるさい!貴様が全部悪いのだ!私のことを好きだとかいうから!」

「そういうお前も、好きだっていったじゃねーか」

「気、気の迷いだ!」

「いいや、言った!」

「言ってない!」

「言った!」

「言ってない!」

ぜーはー。呼吸を、二人して整えた。

「・・・・・・・・貴様は、残酷だな」

「なんでだよ」

「貴様が、本当の死神ならよかったのに・・・・・・・・」

そうしたら、尸魂界で一緒に暮らして、いつか結婚して・・・・・・。

ありえない未来を描いてしまいそうになる。

ぽたりと、紫の瞳から涙が一滴こぼれた。

「酷く優しくて、酷く甘く、そして酷く残酷だ。お前の手を握る今が、未来につながってはいない。それでも、私を求めてくれるか?」

「未来なんて、今の俺たちには関係ないだろ。そんな先のこと、考えるのはよそうぜ。俺は、今のルキアが好きなんだ」

繋ぎあった絆は、砕けない。

たとえ、死神と人間でも。

重なり合った想いは、溶けることはない。

たとえ、年月が経っても。


想いは、永遠だから。


世界は廻る。



やがて、ルキアは護廷13番隊の隊長となる。そして、阿散井ルキアとなり、一人娘を産む。
一護は、織姫と結婚して子をなす。

たとえ、違う道を歩むことになっても。

想いは、永遠だから。



だから、せめて今だけは。

互いの手を握り合って、甘い時間を共有しよう。


想いは、永遠だから。

たとえ、最後に結ばれなくても。

重なり合った心は、消えない。