斬魄刀(IF







巨大な虚が現れた。

それは、平和なある日の午後だった。次々とやられて行く隊士たち。主だった隊長副隊長は、現世の任務で尸魂界を留守にしていた。

「このおおおおおお!」

留守を預かっていた死神が、切りかかる。

大きな爪に体をえぐられて、大地に落ちていく。

その鮮血が、浮竹の頬に生暖かく散った。

「波動の33、双火墜!」

鬼道で攻撃すると、ゆらりと虚はこちらに狙いを定めた。

浮竹は、留守を預かっていた。斬魄刀もないのに、とは思ったが、流石に元隊長だ。人望も厚く、生前の頃のように慕われていた。

「もう、誰も殺させない・・・・・・」

ゆらりと、緑の瞳が黄金色に輝いた。斬魄刀が・・・・双魚理が欲しいと極限まで願った時、それは成就された。

「双魚理・・・・・?墓の下にあったんじゃないのか」

斬魄刀は、主を選ぶ。そして、一度従うと他の者には始解さえさせない。

「卍解……………………!」

誰にも見せたことのない、卍解をする。そして、一太刀で山のように大きな虚は切り殺され、霊子となって崩れていく。

「ふー。何十年ぶりかすぎて、ドキドキするな」

自分の卍解姿を見る。

こんな格好、京楽には見せれない。いや、誰にも見せたくない。

異質な卍解は、浮竹自身もあまり好きではなかった。



「浮竹・・!」

一刻ほどして、連絡をうけたて戻ってきた京楽総隊長は、尸魂界を手薄にしたことを大変悔いた。

「生きていてくれれよかった、浮竹・・・・。あれ、双魚理?掘り返したのかい?」

「いや、勝手に斬魄刀のほうからきた」

「そんな事例・・・・ないわけでもないけど、珍しい・・・・」

うーんと、双魚理と浮竹を見る。

「まぁ、斬魄刀も戻ってきたことだし。14番隊でもつくって、隊長になるか」

冗談でいったのだが、居合わせた浮竹を慕う隊士たちが、14番隊をつくって所属したいという嘆願を京楽にだしてきたので、流石にそれには驚いたが。

まぁ、14番隊などないので、元から話にもならなかったが。

ただ、隊長格を泳がせておくのはもったいない、せめてどこかの隊に所属して席官になれと、現隊長副隊長たちに言われたのだが、そのつもりはないと、浮竹は悉く拒否した。特に、阿散井ルキアは13番隊にきてくれとしつこかった。

「俺は、もう、死神としては緊急時以外は闘わない」

「そんな・・・・・・!」

ルキアの願いを無碍にするのは心痛かったが、仕方ない。朽木・・・ではなく、阿散井ルキアは、13番隊隊長の座を、浮竹に返還するとまでいってきたのだ。

それを、浮竹はつっぱねた。

「今はもう、お前が隊長だろう、朽木・・・じゃなかった、阿散井」

「浮竹隊長・・・・・」

「だから、俺はもうとっくの昔に隊長やめてるんだから、隊長と呼ぶのはよしてくれないか」

「では、浮竹さん・・・・・」

なんだか、むずがゆい。

「阿散井というのも、言いにくいにな。昔みたいに、朽木と呼んでいいか?」

「じゃあ、私も昔みたいに隊長と呼ばせてください。13番隊に、復帰してください」

お互いの顔を見合わせる。

それでもいいかと、納得の上で交渉は成立した。

「緊急時は、13番隊に配属されるということで」

「分かった」


放っておかれていた、京楽はすねていた。

「どうした京楽」

「僕だけのけものなんて酷いねぇ」

「いつも一緒にいるだろう。たまには、一人にも慣れろ」

寝起きさえ、いつも一緒なのだ。仕事をしている時も一緒、食事さえ一緒という始末。


昔より大分過保護になった京楽の自分に対する扱いに、浮竹は苦労していた。

「君を奪われないように、いっそ座敷牢にでも閉じ込めてしまおうか」

チチチチと、白い鳥が鳴いた。

「シロ」

浮竹の肩に止まる。

「俺はどこにもいかない。お前の傍に在る」

浮竹は、静かにそういった。

「閉じ込めておきたいなら、そうすればいい」

京楽の耳元で、囁くようにいえば、京楽は浮竹を抱き上げて、隊首室の奥の自分の部屋にくると、ベッドの上に浮竹を押し倒した。

チチチチと、シロが窓から飛び立っていく。

「教えてあげるよ。僕が、どれほど君を必要としているかを」

浮竹が、挑戦的な京楽を前に、ぺろりと自分の唇を舐めた。

生き返っても、変わっていない癖だ。

京楽が浮竹を抱こうとするとき、または抱いている時にする癖。浮竹にとっての、欲情したというサインだった。

「本当に君は、いつまで経っても変わらない・・・・・・院生自体から、変わらないね」

「何が」

「僕の扱い方だよ。よく理解してる」

「?」

日が沈む前から、総隊長がこんなのでいいのかと思ったが、まぁ京楽が総隊長になって十数年も平和が保たれているのだ。

いらぬ心配だろう。

浮竹は、京楽に死覇装をはぎとられながら、天井を見上げる。

シロがまた、窓から部屋に入ってきた。


「十四郎?」

耳元で囁かれて、ピクリと反応する。

「なんでもない、春水」

行為に没頭しだした京楽に合わせて、浮竹も乱れいく。


斬魄刀は、呼びかけに答えてくれた。

もう一期、死神として生きるのも悪くない。

花の神はまどろむ。愛児の夢を見ながら。 愛児は、再び死神となる道を選んだ。それでもいいかと、花の神は思った
そう思う、浮竹だった。