「浮竹、今度こそ海に行こう」 「この前は、紅葉狩り行こうとかいってなかったか?」 「言ってたね・・・・・」 「結局、雪国もいかなかったよな・・・・」 「そうだね・・・・・・」 年も明けて、夏がきて秋がきた。 「海に、いくのか?いけば、現世へはもう今年はいけないぞ?」 隊長クラスの現世への行き来は制限されている。年に2、3回いければ、まだいいほうだ。 京楽は迷った。今年のクリスマスこそ、現世で綺麗なイルミネーションを見せたいと思っていたからだ。 「じゃあ、川にしよう!川なら、現世にいかなくても尸魂界にあるし、魚だって釣り放題だ」 現世の汚い川みたいに汚れていないし、飲み水として使っても平気なほどの川ばかりだった。 「そうときまったら、レッツゴーだよ」 確か、去年に浮竹の誕生日を祝うためのカモフラージュに買った釣り竿を、持って帰ってきておいたのだ。 探すと、雨乾堂の物置の中にあった。 「あったあった」 「何を勝手に、人の部屋の物置にいれてるんだ」 「まぁいいじゃないの。君のお酒を、僕の隊首室に置いてあるだろう?あれみたいなものさ」 「かなり違うと思うんだが」 確かに、京楽の隊首室には、浮竹の飲む酒が置いてあるが、あれは京楽がたまに8番隊の隊首室まで遊びにくる浮竹のために、京楽が買い与えたものだ。 「いいから、釣りに行こう」 半ば強引な京楽に連れられて、浮竹は川に釣りをしにいく羽目になった。 「また、ヒットした」 「えー、またかい?僕は全然だよ・・・・・」 もう、アユを浮竹は10匹は釣っただろうか。京楽の釣り竿はぴくりともしない。 「お、きた!」 京楽の浮が沈んだ。急いで釣り上げると、長靴だった。 「ははははは」 浮竹は、長靴をつりあげた京楽をからかい半分で笑っていた。 京楽は、やる気を失って釣りをやめた。 そのまま火をたいて、塩をまぶしたアユを木の枝にさして、焼いていく。 「今日の夕飯はアユか。けっこう豪勢だな」 アユは、川魚としては豪華なほうだった。 浮竹が釣ったアユの7匹を京楽が食べて、3匹を浮竹が食べた。甘味もの以外だと食の細い浮竹のために、山菜やキノコ、野イチゴ、山葡萄やアワビといったものを京楽は近くの山でとってきて、料理した。 浮竹は、それを少し口にして、あとは好物でもある果物として、アワビや山葡萄、野イチゴなどを美味しそうに口にしていた。 その日は、野宿した。 地面に毛布をしいて寝転がる。 眼前に広がる、星の海に浮竹は言葉を失った。 「綺麗でしょ?」 「・・・・・・・・まるで、墜ちてくるみたいだ」 「手を伸ばせば、届きそうでしょ?」 「そうだな」 瞬く星たちは、静謐の光を生み出し、降り注ぐ。 「綺麗だな・・・・」 「あの星、緑色だよ。浮竹の瞳みたいで、綺麗だね」 「俺の目は、そんなに綺麗じゃないぞ」 「綺麗だよ。宝石の翡翠みたいで、とても綺麗だ」 浮竹の隣に寝転がった京楽は、厚めの毛布を浮竹の体にかけた。 「野宿だし、夜は冷えるからね。風邪、ひいちゃだめだよ?」 「今日は比較的暖かいし、多分大丈夫だ。最近は肺の発作もないし」 「でも、念には念のためだよ」 京楽の心配は尽きない。 本当に、浮竹はいつ倒れてもおかしくないくらいに病弱なのだ。一緒に行動するときは、とにかく熱を出したりさせないように心を配る。 楽しい時間も、浮竹が熱を出したり、発作を起こしてしまえば終わりだ。 酷くなると四番隊隊舎に運ばれて、数日間帰ってこない。 「流れ星だ・・・・・・」 「本当だね。何か、祈った?」 「ああ・・・・こんな日がいつまでも続くようにと、祈った」 「僕は、浮竹が元気になりますようにって祈ったよ」 「俺は今元気だぞ?」 「それが、日常になりますようにって意味だよ」 「本当に、そうなればいいんだがな」 浮竹の肺の病は、酷くなる時はあれど、よくなることは決してなかった。 そっと、隣にいる浮竹の白い髪を手に取って、口づける。 サラサラと零れる神は、月の光を受けて輝いて見えた。 京楽の想い人は、儚く麗しい。 星を見上げながら、浮竹は京楽の肩に頭を乗せた。自然と距離が近くなる。 「キスしていいかい?」 「いつもは、了解なんかとらないだろう。どういう風の吹き回しだ」 「君が、星の光に弾けて、消えてなくなってしまいそうだから」 そっと、触れるだけのキスをして、京楽はまた地面にひいた毛布の上に、ごろりと横になった。 「また、ここの星を見にこよう。この土地の星が、こんなに綺麗だとは思わなかったよ」 もし、流れ星が願いをかなえてくれるなら、何を引き換えにしてもいいから、僕から浮竹を奪はないで。 何度も、祈る。 浮竹の隣に在れることを。 星は弾ける。 何万光年、何十万光年、何百万光年という光を。 星空の下で、二人の恋人は穏やかな時を過ごす。 星は弾ける。 二人の恋人は、寄り添いあいながら、ただ静か眠りにつくのだった。 |