脱毛(IF







「うーん」

浮竹は、一番隊の執務室でうなっていた。

「どうしたんだい、浮竹」

仕事を何とか片付けて、一息しようとしていたところだった。

煙管の煙草に火をつけると、紫煙があがった。

ゆらりと、煙草の煙につつまれる浮竹。

甘い花の香のする浮竹に、煙草の匂いが染みついていく。

「いやな、朽木からもらったこの新発売のクリームをどうしようかと思って」

浮竹は、結婚で阿散井ルキアと名を変えたルキアを、阿散井とは呼ばずに昔のように朽木と呼んでいた。本人にも了承をとっているのだし、問題はない。

「クリーム?化粧品か何かかい。浮竹は肌がすべすべなんだから、別に手入れなんて無理にする必要ないんじゃないかい?」

何度も、浮竹の肌に触れたことのある京楽は、浮竹がみせてきたクリームとやらを見て、煙管を落としかけた。

「脱毛クリーム?」

「そうだ。だが、俺はほら・・・・見ての通り、すね毛がない。ひげも生えないし・・・・男性ホルモンが少ないのかな?」

塗る場所がないのだと、首を傾げる浮竹に、京楽はちょっと嫌な予感を覚えた。

「そうだ。もじゃもじゃの京楽のすね毛を脱毛クリームでつるつるにしてしまおう!」

「ええっ、冗談でしょ!」

「本気だ」

がしっと、見かけ以上の力で掴まれて、死覇装から足を出させて、脱毛クリームをひと塗りした。

面白いように、もじゃもじゃのすね毛が抜けていく。

「ああっ。こんな、一か所だけつるつるとかないよ」

「じゃあ、もういっそ全身をつるつるにしよう」

「ぎゃああああああああああ」

浮竹に襲われる、京楽の悲鳴が尸魂界にこだました。



「しくしく・・・・・」

結局、浮竹の手でひげ以外をつるんつるんにされてしまった京楽は、泣き真似をしていた。さっき、副官の七緒に今の姿を見られ、吹き出された。

京楽にとって、もじゃもじゃなのは男としての色香であり、けっこう気に入ってたのだ。毛深いことが嫌いなわけじゃない。

浮竹が毛深いのが嫌いなら剃っていただろうが、あいにく浮竹は京楽の濃い体毛の体に抱かれ慣れていて、むしろその姿が好きだといってくれる。

なのに、全身脱毛。

それにして、最近のエステ系のものの効果は凄いなと、京楽は思う。

女性が無駄毛処理をするのは当たり前な世の中なので、脱毛クリームとかその手のものはばかみたいに売れるだろう。

「このクリームすごいな。朽木に、感想を今度言いに行こう。いつまでしょげてるんだ京楽」

「穢されたよ!浮竹に弄ばれたっ!」

一番隊の執務室にきていた阿散井恋次は、その言葉を聞いて固まった。

「どうしたんだい阿散井副隊長」

すねてしまった京楽の代わりに、浮竹が要件を聞こうとする。

「浮竹隊長が、京楽隊長を襲った・・・・・・・・?」

恋次は、書類を提出すると、逃げ出した。

「あ、誤解だ!」

すでに、恋次の姿はない。


それから数日の間、京楽隊長と浮竹隊長はできているが、受けと攻めが逆転したとかいうデマ話が広がった。

噂は噂。すぐに消えてしまったが、京楽はしょげていた。

「毛が生えてこない・・・・」

ツルンツルンの足や手、胸を見て、溜息を零していたという。

あれだけ毛深かった京楽総隊長がツルツルになったのは、新発売の脱毛クリームのおかげだと広がって、件(くだん)の脱毛クリームは売り切れが続出した。



花の神は笑った。

なんて馬鹿げたことだろうかと。


まぁそれでもいいかと、また眠りにつく。いつか、愛児を取り戻そう。
愛児を再びこの手にしたい。そんなことを考えながら、眠りにつく。