イルミネーション







「メリークリスマスだ、一護」


現世のイベントに疎いルキアであったが、クリスマスというイベントは好きだった。

恋人同士が甘い時間を過ごす、現世でも溢れたキリスト教という宗教の、イエス・キリストが生まれた日。

クリスマスは特別であった。人々は休暇をとり、恋人と時間を過ごすために自分の時間を割く。

黒崎家に飾られたクリスマスツリーは、お世辞にも立派なものとはいえなかった。

埃を被っていたクリスマスツリーを、ルキアがせがんだので、仕方なく一護がだして、飾り付けをし、イルミネーションをつけた。

町に出ると、クリスマス一色だった。

ケーキ屋の前にはサンタクロースの格好をした店員が、必死にケーキを売っている。
子供づれの夫婦が、そんな店員からクリスマスケーキを買う。

町の街路樹の木にもイルミネーションが施されており、ルキアは夜の町を一人でぶらついた。

きらきら煌くイルミネーションが、とても綺麗だった。

尸魂界にはない代物である。

ルキアは帰宅した。

そして、勉強をしている一護を攫うように、無理やり外に連れ出す。

「あーもう、一体なんなんだよ」

一護が、吐く息を白くしながら、冬用のコートに身を包んだルキアを見る。

ルキアは、氷雪系の斬魄刀を持っているせいか、寒さには強い。ルキアより数段厚着した一護を引っ張って、ルキアは歩いた。

「綺麗だと思わないか。尸魂界では見ることのできぬ景色だ」

瞬くイルミネーションを見上げながら、ルキアが一護を振り返った。

「そりゃ綺麗だけどさ。だからなんだってんだ」

「何もない。ただ、貴様とこうして、イルミネーションが続くこの通りを歩きたかっただけだ」

ルキアが、一護の手をとった。

そのまま、手を握り合い、歩いた。

「どこまで行くんだ?」

「さぁ、どこまで行こうか。あまり遠くへも行くわけにもいかないしな。なぁ一護」

「なんだよ」

「また、来年も、こうやって一緒に歩こうな?」

一護の頬が、紅くなった。

ルキアは、いつものクールな顔で、一護を振り返ると、にこりと微笑んだ。

「メリークリスマスだ、一護」

「あー。メリークリスマス、ルキア」

二人は、並んで町を歩いた。

そして、サンタクロースの格好をした店員が売っているケーキ屋の前にきた。

一護は、財布を取り出すと、クリスマスケーキを買って、ルキアに渡した。

「いいのか?私が全部一人で食べてしまうぞ?」

「いいんじゃねーのか」

一護は、クリスマスケーキにはあまり興味はないようだった。

ルキアは、身長差のある一護の、巻いていたマフラーを引っ張った。

「いてててて!何しやがる!」

チュ。

音をたてて、一護の唇に触れるだけのキスをしたルキアは、桜色の唇で歌を歌いだした。

どこで覚えたのかもわらない、現世の神を称える賛美歌だった。

その狂った音程に、一護が吹き出した。

お世辞にも、うまいとはいえない。むしろ下手だ。どこをどうすれば、ここまで下手に歌えるのか聞きたいくらいだった。

「ルキア」

「なんだ」

ルキアが、黒みがかった紫水晶の瞳で一護を見上げる。

「寒いだろうから・・・・」

ふわりと、暖かな体温に包まれて、ルキアは歌うことを止めた。

一護が、自分がしていたマフラーを外して、ルキアの首に巻きつけたのだ。

「貴様は寒くないのか?」


「平気だ」

「風邪など、ひかぬだろうな?」

「そんなにやわにはできてねぇ」

「本当に、本当だろうな?」

「しつけーな。マフラー返せ」

「だめだ、もう私のものだ」

紫水晶の瞳が、悪戯っぽく光った。

まだ、付き合ってもいない。それなのに、酷く甘い一日だと、一護は思うのだった。