怪我も痛くない







「あいててて」
体育で、一護はサッカーをしていたのだが、ボールを巡って熾烈な争いになり、遊軍的位置についていた。
リベロ。オフェンシングもできるしディフェンシングもできる、万能な位置。
高い身体能力をいかし、何度もシュートを決めて、そして相手が放ったシュートをカットしようとして、つっこんできた敵側のスパイクに膝をやられた。
「何をしている一護、情けないぞ!」
「うっせ!」
ルキアも女子たちも同じくサッカーをしているが、男子のように真剣の血みどろな試合にまで発展しない。
あくまで、キャーキャーいいながらボールをけっているようなそんな世界。
「うらららああああ」
イツキがやけに燃えていた。
女子のサッカーも、それなりにサッカーの形になっている。
「朽木さん、パス!」
「パス?パス・・・・・織姫パス!」
「えええ、あたしなの!?」
「朽木さんパス!」
「織姫パス!」
二人はコントのようにパスの試合を続けて、他のメンバーがボールを持っていった。
「はぁ。こういうの苦手なの」
「何をいう。私は苦手ではないぞ。女性死神組合でも、ボール捌きは絶品と歌われておる」
「いいから、朽木さん、せめましょう。まだ1点もとってないよ!!」
「お、おお、そうであったな」
イツキのゴールに続き、ルキアが華麗にシュートを決めた。

その様子を、保健室から見つめている変態・・・いや失敬、ルキアを愛するものがいた。
「ルキア・・・今日も元気そうで何よりだ」
白衣を着て、死神衣装は脱いでいる。
「ちわー。ちょっと膝から血がだらだらで・・・」
何もしらない一護は、スケープゴートのように、白哉の前に姿を現して、そし戸をしめた。
「すんません。なんでもありませんでした」
ガラっと戸が開かれ、一護は白哉の手によって無理やり保健室の椅子に座ることになった。
「ふむ患部は・・・・これは、帝王切開せねばいかんな」
「ちょ、どんな保健の先生だよお前!コスプレまでして忍び込むなら、治療くらいできるようになってからにしやがれ!!」
「鬼道を使えば簡単だが・・・・・」
キラリと、かけた眼鏡のおくで瞳が輝いた。
とりあえず、白哉にタップリのオキシドールを染みるようにべたべたと塗りこまれて、一護は椅子から立ち上がるとマッハで逃げ出した。
「何故、兄は逃げる!?」
「じゃあ、なんで白哉はいっつも斬魄刀持って俺を追い回す!?」
「それは無論、兄をルキアから排除するため!」
一護は逃げる速度に拍車をかけた。

そんな様子を廊下の窓からみて、ルキアはポツリと。
「兄様、いつも一護と仲がいいな」
いや、すごい気のせいだから。二人とも殺し合いしてます。

「ルキアは、笑顔をよく浮かべるか、兄?」
「ああ、浮かべまくってるぜ」
「そうか」
白哉は、一護を追いかけることをやめた。
「白哉?」
「本当の保健室の先生は部屋の奥で伸びている。あとは兄がなんとかしろ、ではさらばだ」
「またおまえはああ、そんなことを俺に押し付けていくううう!!」
保健室の先生をなんとか解放して、一護は思う。
「たまには、俺おいかけてばっかりじゃなくてルキアの側にいたいんだろ。俺の家によってけよ」
「そうか。ならば、そうさせてもらう」
電信柱の上にいた白哉は、それだけいうとソウル・ソサエティに戻った。

ルキアと一緒に帰宅すると、家が騒がしかった。
「ルキアちゃんの、生き別れの兄が見つかったんだ!!」
抱きしめてくる親父をボコボコにして、一護はリビングルームに出ると、そこに死神装束の白哉がいた。
「兄が誘ったのだろう。愉快な家族だな」
「NOOOOO!でていけえええ!!」
「笑止!ルキアがいる限り、私はここにいる」
「居候か!また居候か!!!」
「仲良くしましょうね、兄様。一護を一緒にからかいましょう」
「おれは玩具かあああああああ」
「うむ。ルキア、よい笑顔を浮かべるようになったな」
「もあああああああ」
結局、白哉はなんだかんだ文句をいって、一週間は家に居候した。
部屋は一護と相部屋。

一護はどんな怪我をしても痛くない気分になった。
ベッドを白夜に譲り、部屋の持ち主である一護はコンと一緒に押入れで寝た。
ああ、早く帰ってくれないかな。
ルキアが兄のためにとつくる朝食は一護も食べさせられる。
凄まじい破壊の味で、胃薬がいくつあっても足りない。
「あー。この兄弟、俺をいつか殺す気だ」
コンを踏み潰して、一護は押入れの中で寝転ぶのだった。