日番谷の受難







「日番谷隊長聞いてくれよ。京楽のやつが・・・・・」

10番隊の執務室にやってきて浮竹の愚痴を、軽く流す。

面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと、適当に相づちをうつ。

「そうか。大変だったな」

「そうなんだよ、日番谷隊長!」

話の内容なんて、頭に入っていない。のろけ話も含まれているから、耳から入って耳から出ていく。

「それで、浮竹はどうしたいんだ?」

「俺か?俺は、京楽に謝ってほしくて・・・・・」

はて。

なんで、京楽が浮竹に謝るのだろう。

話を全然聞いていなかったので、日番谷はちょっと焦った。

「そうだな、京楽が悪い」

適当に話を合わせると、浮竹は顔を輝かせて日番谷に抱き着いた。

「分かってくれて嬉しいよ!」

なでなでと、頭を撫でられる。

「子ども扱いすんじゃねぇ!」

もう慣れてしまったやりとり。

「お菓子あるんだけど、食べるかい?」

浮竹は、かなり日番谷のことを気に入っていた。隊長クラスでは、京楽の次に好きなんだろう。

同じ「シロちゃん」である日番谷に、親近感を抱いていた。

渡されたお菓子を、当たり前のように食べた。与えたはずの浮竹まで食べていた。

「今日は、松本副隊長はいないのかい?」

「松本は、現世に虚退治にいっていていない」

「そうか、寂しいな」

「うるさいのがいなくなってせいせいしてる」

「それは酷くないか?」

「浮竹だって、もしも京楽がうるさくしてたら、たまには一人になりたくなるだろうが」

「いや、俺は京楽の傍にいたいな」

ああ、もう。

この二人は、喧嘩したのじゃないのか。

断片的な話から、二人が喧嘩したのだと判断した日番谷は、浮竹の背中をたたいた。

「もう帰れ」

近づいてくる静かな霊圧を感じて、日番谷は少し焦った。

気のせいか、殺気を感じる。

「京楽の元へ行け!早く!」

「どうしたんだ、日番谷隊長?」

まだ気づいていない浮竹の無防備さに、頭が痛くなった。

「浮竹〜ぇ」

ゆらりと、霊圧が揺れる。10番隊の執務室にやってきた京楽は、怒っていた。

「きょ、京楽!?言っとくが、お前が謝るまで許さないからな!」

「随分と、日番谷隊長と親しそうじゃないの?さっき言った僕の言葉、もう忘れたの?」

「それは・・・・・・」

「君は、無防備すぎるんだよ。誰彼構わず、色気をふりまいて。この前、名も知らぬ隊士に襲われたこと、もう忘れたの?」

「お前、それは本当なのか?」

日番谷が、浮竹を見る。

「ああ。京楽が、半殺しにしてしまった」

命知らずのやつもいたものだ。

浮竹に手をだして、半殺しですむだけまだましだ。殺される可能性だってあるのだ。

「俺は、お前のそういう・・・独占的なところが!大体、京楽がいなきゃ外に出てはだめなんてあんまりじゃないか!」

「襲われたこと、一度や二度じゃないでしょ。ちゃんと、僕の耳には入ってるんだよ?」

静かに怒る霊圧はそのせいかと、日番谷は思った。

相手を心配するあまり、度をこしたのだろう。

「おい、ここが10番隊の執務室ってこと忘れてないか?喧嘩するなら、よそでやれ」

「よっと」

浮竹を肩に担いで、京楽は日番谷を見た。

「巻き込んでごめんね、日番谷隊長。浮竹の言っていたことは気にしないでね」

喧嘩してたんじゃないのか?痴話げんかなのか?

「おろせ京楽!謝れ!」

「はいはい、ごめんよ」

「全然気持ちがこもっていない!」

「聞き分けのない子には、お仕置きが必要だね」

どさりと降ろしして、噛みつくよなキスをされる。

「だから、お前ら、ここは10番隊の執務室だと・・・・」

「んっやめっ・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・蒼天に座せ、氷輪丸!」


日番谷は、自分の執務室を半壊させた。

京楽は浮竹を抱えて瞬歩で去ってしまった。

「あのおっさんどもが!」

日番谷は、やり場のない怒りをどうしようかと思いつつ、壊してしまった執務室をどう説明すればいいのだろうかと、悩むのだった。