ひらひらと。 秋の風に吹かれ、一枚また一枚と葉を落としていく。 紅葉狩りにきていた。 京楽は総隊長であり、なかなか休暇をとれない。 仕事を徹夜で片付けて、やっと2日ばかりの休暇がとれた。 「綺麗だねぇ」 「そうだな」 山はもう黄色や赤に染められて、川のせせらぎにはトンボが飛び交う。 シートを広げて、ちょっとしたピクニック気分だ。 七緒がもたせてくれたお弁当と水筒を敷布の上に広げて、ひらひらと墜ちていく紅葉と、紅葉(こうよう)する山に風雅を感じる。 七緒が作ってくれたお弁当は、京楽のものには浮竹の顔ができており、浮竹のお弁当には京楽の顔がのりやら山菜やらでできいていた。 いわゆる、キャラ弁とかいうやつだ。 きっと、頑張って作ってくれたのだろう。 食べるのがもったいなくて、しばらく箸を手に、弁当を眺める。 「七緒ちゃん、けっこうやるねぇ」 「伊勢副隊長に、今度お礼をしなければな」 お腹が減ってきたので、もったいないがそのキャラ弁を食べていく。けっこうおいしかった。 「そうだ。焼き菓子があるんだが・・・・・あまり美味くないかもしれないが・・・・その、俺が作ったんだ。食べるか?」 京楽は、隻眼の瞳を瞬かせた。 「そんなの、食べるに決まってるじゃない」 奪われるように、白い包みをもっていかれる。 「見た目はなかなかいいねぇ、味はっと・・・・・・」 さくさくと、軽い音をたてて食べていく京楽の顔を見ていられなくて、浮竹は水筒の中のお茶を飲んだ。 「凄い美味しいよ。浮竹も食べてごらん?」 味見はしたのだが、いまいち自信がもてなかったのだ。京楽の手で、焼き菓子が浮竹の口元にもってこられる。 指まで口にふくんでしまい、まぁいいかと浮竹は菓子を食べた。 さくさくとした触感と、ほんのりとしたしつこくない甘みがあった。 自分で味見したときは、もっとそっけない味の気がしたのだが。愛しい人と食べるのは、こうも違うものなのかと驚く。 「そうだ。紅葉をおみやげにしよう。栞にして渡すのはどうだろうか?」 「いいねぇ」 昔、子供の頃に紅葉をたたいて葉脈だけにしたものを、乾燥させて和紙で固めて、形にして、色を染めて本の栞にした。病弱で、外に遊びにいけない兄を気遣って、妹や弟たちが、たくさんの本をプレゼントしてくれた。その本を読む時に使っていた栞を、まだ残している。 はじめて自分の手で、プレゼントできるようなものができて嬉しかったのを覚えている。 お金では買えない、手作りならではのものは、けっこう嬉しいものである。 「七緒ちゃんにルキアちゃん・・・・日番谷君に乱菊ちゃんに、朽木君に、後はだれがいるだろう?」 一通り名をあげられる。確かに護廷13隊の隊長副隊長全員の分は作れない。 「そうだな・・・・あとは一護君と、阿散井副隊長あたりじゃないか?」 大分大人になってしまった一護と、一度だけ会った。随分と驚かれ、同時に安堵された。 「苺花ちゃんの分も、わすれちゃだめだね」 ルキアの娘、苺花はみんなのアイドルだった。髪の色は父親の恋次似だが、愛らしく気品のある顔立ちはルキア似だ。 「じゃあ、帰りに紅葉集めて帰ろうか」 それまでしばらく散策しようと言われて、秋深まる山道を歩いた。 肺の病が亡くなったおかげで、大部体力がついた。病弱なのは相変わらずだが、もう慣れてしまっているので、気にもしない。 しばらく歩いて、綺麗な紅葉の木を見つけた。 落ちていた葉っぱを集めて、敷布で包んだ。 帰路についた二人は、流魂街の中にある、京楽の別邸にやってきた。必要な材料を揃えて、二人で栞を作った。 始めは不格好なものしかできなかったが、何度か試しているうちに綺麗に藍色に染まった栞ができた。 数日後、栞を全員に配ると、思っていた以上に喜ばれた。手作りものは、特に喜ばれるのだと知った。 「京楽と浮竹の手作りにしては、ましじゃねぇか」 日番谷は、そう言って栞を大事そうに懐にしまってくれた。 「えー、あたしの分もあるんですか!?わぁ、ありがとうございます!かわいい!」 松本も、嬉しそうに受け取ってくれた。 「こ、こんなことされても、ほだされませんからね!」 七緒はこんなかんじで。 「たたたたたたたた」 「?」 「隊長自らの手作りですか!?大切にします!むしろ家宝にします!」 「いや、大げさすぎるだろ、朽木」 浮竹は、阿散井ルキアとなった今でも、ルキアのことを朽木と呼ぶ。ルキアは、隊長でなくなった浮竹を隊長と呼ぶ。 その仲は、京楽が嫉妬するほどにいい。 「恋次の分と苺花の分までありがとうございます。兄様には、私が責任をもってわたしておきますね」 ルキアには、一護の分も託しておいた。 最近は、浦原がいろいろ技術開発に力を入れているので、顔まで見れる伝令神機までできる始末で。ルキアは一護に連絡をとると、数日後に現世にいく許可をもらい、苺花と一勇を遊ばせるついでに、栞を渡してくれた。 「浮竹さん?」 「ああ、一護君か」 最新の伝令神機で、尸魂界と現世を繋ぐ会話も、楽になった。 「栞、ありがとな。京楽さんにも礼を言っておいてくれ」 「京楽なら、隣にいるぞ。かわろうか?」 「いやいいよ。浮竹さん、体にきをつけて・・・・また、そのうち織姫と一勇を連れて、尸魂界に遊びにいくから、その時はよろしくな!」 「ああ、いつでも待っている」 隣をみると、京楽がむすっとした顔をしていた。 「一護君は、ただの友人だぞ。なぜ、そこまで嫉妬するんだ」 「君には、分からないよ」 どんなに時を経ても、変わらない気持ちがある。浮竹を愛する京楽は、一護が苦手だった。 「何はともあれ、大体の人には渡ったようだし・・・・・・」 本当は、清音と仙太郎の分も用意したかったのだが、紅葉の数が足りなくて作れなかった。 「京楽」 「なんだい」 「紅葉狩り、とても楽しかった。また、来年もいこうな」 「うん」 一度は、来年もという言葉さえ守れなかった。 浮竹の死。 それに覆いつぶされて、京楽は片翼を失った。 でも、片翼は蘇った。 それが、どんな理由だっていい。 もう二度と、手放すものかと、京楽は浮竹を抱き締めるのだった。 花の神は目覚めた。 愛児を----------浮竹という花をこの手に戻したら、孤独な王--------京楽はどうなるだろう? 花の神は、水に自分の姿を映す。 そこには、院生時代の京楽の姿があった。 愛児の記憶に触れ、その愛しい相手の姿を一時的にかりたのだ。これが愛児の想い人--------------花の神は、 水に映った自分の姿をぱしゃんと波紋をなびかせて、消してしまった。 |