「桜咲く場所で〜エピローグ」







カナダに永住した夜流と瑞希。
瑞希は、結局跡取り候補として甥を選んだ。最後まで息子になってくれた夜流に跡を継いで欲しかったようだったけれど、夜流は跡を継ぎたくて夏樹家の息子になったわけではない。
やがて月日は光のように過ぎ去っていく。
夏樹瑞希は82歳でこの世を去った。

最後まで独身を貫いた夜流には、老年になっても身の回りの世話をしてくれる者がいないため、介護施設に入居した。
それから、何年たっただろうか。

「ああ、ナースさん。今日はいい天気ですね」
おじいさんになった夜流は、ナースに声をかけた。
車椅子で、もう自分の足で歩くこともできない老齢になっていた。
「あら、夏樹さん。散歩でもしますか?」
「ああ、そうだね。庭に桜の木があるでしょう。今満開ですね。あの桜が見たいんです」
「はいはい」
若いナースさんは、夜流の車椅子を押して、庭に埋められた桜の木の根元に連れていくと、次の仕事があるので、10分後には迎えにきますねと笑って、施設の中に戻っていった。

「早いなぁ。もう94歳だ。よぼよぼのおじいさんですよ」
毎年咲く桜に話しかける。
「今年も綺麗に咲いているね」
「にゃあ」
ふと猫の鳴き声がして、夜流は後ろを振り返った。
「ああ・・・・みーちゃん、か」
懐かしい、大学の頃あきらと一緒にエサをあげていた野良猫だった。そのすぐ隣には、ワンピース姿のあきらが佇んでいた。
「あきらがいる・・・・目の錯覚かなぁ。もう、おじいさんだものなぁ、私は」
夜流は、瞼を閉じた。

体が軽くなった。
見ると、自分の体を抜け出して、高校生の頃の肉体になっていた。ブレザー姿だ。
「おっと・・・そうか、俺ももう終わりか。でも、嬉しいな。またお前と会えて」
「うん。迎えに来たよ、夜流」
「ありがとうな。迎えにきてくれて」
「ううん。ずっと待ってたんだ。ごめんね。本当に、たくさんごめんね。夜流を傷つけてばかりだったね、俺」
「そんなことないさ。俺は、お前と出会ったこともお前を愛したことも後悔したことはない」
夜流は両手を広げて、あきらを抱き締めた。
「もう、離さない。俺は、お前のナイト。お前の恋人だ」
「うん、離さないで。俺は夜流だけの王子様だよ」

「にゃ〜」

みーちゃんが、空へと続く扉をくぐる。
二人は、微笑みあって、手を繋いで扉を開けた。
真っ白な世界に、空に続く階段があった。
二人は手を繋いだまま、空に続く階段を昇りはじめる。
「一緒に、いこう?空へ」
「ああ。空に、還ろうか」
みーちゃんが、二人をふりかえって先に階段をかけあがっていく。
あきらも夜流も、階段をあがっていく。
やがて二人は光に包まれた。

光に包まれて。
夜の意識も体もあきらの意識も体も。
光に包まれて。
さぁ、一緒になっておやすみ。また、会おう。どんな未来になるか分からないけれど。
「今度あうときは、絶対に離れ離れにならない世界がいいね」
「ああ。絶対に離さないから」
二人は、光の泡になって空に溶けていく。
「空を見上げていたね、俺たちは」
「そうだな。よく空を見上げていたな」
蒼い蒼い吸い込まれそうな空を。

          Presented By Masaya Touha
                                   2010312-2010422
                スペシャルサンクス(敬省略)
               樹杏サチ
                ウエマ
                                       and....you


夏樹あきら、享年19歳。
夏樹夜流、享年94歳。


二人にとって、これはきっとハッピーエンドかもしれません。死に別れたけれど、また、二人は出会えたのだから。
そこからまた二人は歩きだして、そして空の中に溶けていきました。
空を見れば、そこにはいつも二人が眠っています。
仲良く丸くなって、お互いの手を握り合い。
時に目をさましてキスをして。だきしめあって。体温を共有しあって。
また空の中で眠るのです。

さぁ、歩いていきましょう。
もう一度、はじめるために。
もう一度、空を見上げるために。
いつか再び、巡り合い、愛し合うために。


                   The End........