扉の先は、花弁が舞う桜の木の下だった。 そこに、短髪の白い髪とオレンジのメッシュで髪の一部を染めたレンカが立っていた。 「レンカ。迎えに来た」 「あんた誰?」 桜が散っていく。 レンカは学生服を着ていた。 「私はユリシャ。お前の伴侶だ」 「はぁ?」 レンカは眉根を寄せて、異国風の井出たちのユリシャに詰め寄る。 「何の冗談?バカにしてんの?」 桜が散っていく。 レンカは走り去っていってしまった。 星が煌いた。光が溢れて、また桜の木の下に、気付くとユリシャはたたずんでいた。 「あんた誰?」 リピートされる言葉。レンカの仕草。 同じように言葉を返して走り去っていくレンカ。 そんな光景が何万回も繰り返された。 それでも、ユリシャは諦めない。 「お前の伴侶だ、レンカ。愛している。もう一度、サーラに来い」 「あんた誰?」 ポロリと、リピートされる言葉と一緒に、レンカが灰色の瞳から涙を零した。 「誰だよ・・・・なんでこんなに、悲しくなるの」 「迎えにきたよ。何万回でもいう。お前を愛している。サーラに戻ろう。この世界といったりきたりでもいい。お前を寵妃から正妃にする。さぁ、サーラにいこう。みんな待ってる。ルクレツィアもアルザも、イヴァルやクローディア、サリアだって・・・・」 「あんたなんて知らない」 さも当たり前のように返される言葉。 ユリシャは微笑んで、レンカを抱き寄せた。 「レンカ。全てを忘れてもいい。もう一度、私を愛するようにするだけだ」 星が、落ちた。 いくつもの流星群が降り注ぐ空を見上げて、レンカは学生服のブレザーのネクタイをとって、それを空に投げ捨てた。 「来るの、おっそいよ。何年たったと思おう。2年だ。サーラから元の世界に戻されて、もう2年だよ、ユリシャ」 灰色の瞳は、銀色と真紅のオッドアイになっていた。 そしてぶわりと、白の髪が伸びて腰までの位置になる。オレンジのメッシュは根元からの色に変わった。 そこには、ユリシャが愛したレンカが佇んでいた。 「18になっちまった。長かったなぁ。いつかいつかと思っても、アルザは一向に現れないし。半ば諦めて大学に進もうと思ってた。でも、あんたのことが忘れられない。俺をこんな風にしてしまったのはあんたのせいだ、ユリシャ」 噛み付くようなキス。 「責任はとるさ」 レンカを抱き上げて、ユリシャは現れた扉を開くと、そこは潰れてしまった後宮の再建が進む現場だった。 すぐに、行方不明だった皇帝ユリシャと寵姫のレンカが現れたと王宮中に知らせが届き、みんなが駆けつけた。 そして、精霊ドラゴンたちまで現れて、驚く人間を尻目にユリシャとレンカを取り囲んだ。 「お帰り、主」 「おかりんご」 「おかえりー」 みんな個性溢れるおかえりを投げかけてくれる。それに頷いて、レンカは皆の前でユリシュに口付けた。 「今日をもって、レンカをレンカ・リタ・フォン・リトリアとして皇族の一員として迎え入れる。正妃、皇婿とする!」 それは大きな宣言であった。 皇婿とは、皇后の男版である。 皇后のカレナは、姦通の罪で宮殿を追われた。 皇太子のユリナーラとその兄弟は、なんの罪もないためそのままだ。寵姫のクローディアとイヴァルは、ユリシャに愛想をつかせて違う男と結婚してしまった。ユリシャの子を身篭っていたはずのサリアは、悲しいことに子を流してしまい、寵姫として残る事を決めた。 レンカのよき話し相手、友人となる。 レンカの周囲にはいつも星のルクレツィアやニア、他の精霊ドラゴンの姿があった。 ユリシャと一緒に、レンカは今日もバカ騒ぎをして、笑い合う。 「ふう・・・・・さて、私はどうするかなぁ」 星のルクレツィアは、王が戻ってきたことに安堵して、次の行き先を決めかねている。 「お、いいとこにいるじゃないか。新しい物語がサーラの違う時間軸ではじまりそうなんだ。一緒にくるか?にゃおーん」 アルザの誘いに、ルクレツィアは簡単に乗ってしまった。 「そうしよう。王に会おうと思えばいつでも会えることだし。次は何をするつもりだ、かつてのカッシーニャの腹心影のドラゴンのアルザよ」 「にゃおーん。影のドラゴンって呼ぶな〜。そうだなぁ、風のウィザードがなんかうるさくってさぁ。かつての最後の銀のメシアと竜の子と旅でもするか?」 「ふむ。時間軸にして数百年前か。まぁそれもよかろう」 「じゃーいこう。にゃーお」 アルザは、空間の扉を開ける。 ルクレツィアは、レンカとユリシャに手を振って、新しい物語を見るためにその扉をくぐっていく。 さぁ、また新しい物語が始まろうとしています。 サーラの最後の銀のメシア、ユリシャの祖先のユリエスと竜の子、藤原カリンの物語の続き、風のウィザードでしょう。 さぁ、いきましょう、新しい時代へ。 新しい世界へ。 おっと、同じサーラの世界が舞台でした。 さぁ、いきましょう。 にゃおん。 猫のなく声がします。もしかすると、あなたの元にも、アルザという黒猫がいるのかもしれません。ただの黒猫ですから、見かけは。 前を横切られると、不吉ではなく新しい世界が広がるのかもしれません。 にゃおん。 月を仰いで END |