終幕 真那王へと







僅か在位2ヶ月の那伊王の墓を、真那は久しぶりに訪れた。
「父上。紹介します。私の命よりも大切な妻です」
「えっと・・・・僕なんていったらいいの?」
星嵐(セイラン)は、困ったように、王族の立派すぎる墓の前で苦笑する。

「普通に挨拶すればいい。星嵐」
「えっと。始めまして。僕、星嵐といいます。真那の正妃です、これでも。あといちおう、冠羅の第2王子だったりします。両性具有なんです」

水色の長い髪を風に弄びながら、星嵐は父だと紹介された墓に花束をそっと添えた。

「教えておこう、星嵐。私の母はな、本当は両性具有だったのだ。父王である那伊王に愛され、そして私を身篭った。だがあまりの美貌に、父王の私の祖父にあたる那琶王が父の正妃であった、名を藍零という彼女を横取りしたのだ。そして、母は祖父に蹂躙されたことにより精神に異常をきたし、私を産んですぐに、父である那伊王の手によって殺された」
「え・・・・・」
星嵐は目を見開く。
オパール色が弾けた。

「だがな、この棺の中に父王の遺体はないそうだ。父王は、那伊王は空中回廊にまできてそこから身を躍らせて・・・・・翼を生やした天使・・・・蒼銀の髪の乙女――藍零という名の母上に連れて行かれたのだそうだ。空に還ったそうだ」
「空に・・・・この、空に」
「そうだ。お前の髪と瞳の色のこの大空に」
真那は、星嵐を抱き寄せると、優しく微笑み、星嵐の髪を手ですいてから唇を重ねた。

今、星嵐の胎内には新しい命が宿っている。
次の時代の真国の王となる、王太子の命が。

太陽神殿の占いによれば、双子で片方は両性具有の姫らしい。

「もうすぐ、子供が生まれるんです。まだ先だけれど。双子で、それでえっと・・・・」
「双子で、一人は王子、もう一人は両性具有の姫なんだ父上、母上。きっと、星嵐と一緒に無事に育て幸せにしてみせる。いや、絶対に。星嵐と、一生を歩んでいくよ」
真那も、そっと那伊王の墓に花をそえてから、太陽が燦々と降り注ぐ蒼穹を見上げる。

「太陽王になってみせる、いつかきっと」
「もう太陽王だよ。僕にとってはあなたは太陽のようだ」
「私にとってはお前は月だな。そして太陽を支えてくれる」
「えっと。なんか恥ずかしいです、はい」

顔を紅くして、星嵐は背伸びして、真那の頬にチュっと口付ける。
「かわいいな、お前は」
瞳を和ませて、真那は星嵐を抱きかかえた。

「うわあ」
風が吹いた。

ひゅうううと、墓にそえた花束の花弁がいくつか空へと駆け登っていく。

「ん!?」
「あれ!?」

その時、二人は確かに見た。
蒼銀の浪打つ長い髪をした乙女と、金色の髪の真那そっくりの青年が、翼を羽ばたかせて手をとりあい、空へと羽ばたいていくのを。

「幻覚!?」
「見て・・・・羽が降ってくる・・・・」
星嵐は、二人の愛の記憶を、那伊王と藍零の悲しい愛の物語を見た気がした。
涙が止まらない。
なんて悲しい愛なのだろうか。優しくてそれでいて脆くて。

でも、とても幸福な物語。

羽が空からふわりふわりと降り注いでくる。
星嵐は、それを手のひらで受け止める。すると、羽は光の泡となって消えてしまった。大地に降り注ぐ羽も全て、光の波紋となって消える。

「真那」
「なんだ?」
「今、幸せ?」
「ああ、幸せだとも。お前がいてくれる。これ以上の幸福はない」
「うん。僕も・・・・子供も生まれるし・・・・一緒に、歩いていこうね」

たとえ、どんな困難が待っていようとも。
二人一緒なら、きっと大丈夫。

棺の中で、光もないのに那伊王の太陽剣が輝いた。

星嵐は、真那に涙を拭き取られて未だに幻想的に羽が降り注ぐ大空を見上げる。

「この道は、続いてるよ。あなたたちの物語は、僕たちへと」
「行こう、星嵐。もう夕方だ。夜になると冷える。体を冷やしてはいけない」
真那は、王の豪華なマントを星嵐に被せると、星嵐の手を引いて歩いていく。

物語は、螺旋して続いている。一つで終わっても、また新しい物語が綴られる。
太陽暦2032の冬の出来事。
2033年には、神託通り双子の王子と両性具有の姫君が誕生した。

さぁ、次はどの物語を綴ろうか―――。


END