君を想フ。 美しき君を。 藍零は待望の子を懐妊し、そして父である王に素顔を見られて犯され続け、ついに壊れた。 彼女の自我を支え続けていたのは、那伊であった。 それさえも粉々になるほどに陵辱された藍零は狂い、そして王を殺そうとした那伊は監禁処分を受け、藍零は那伊の子を身ごもったまま、記録に残されていない第11妃として、王の妻となった。 腹に、那伊の子を宿したまま。 生まれた子は真那と、狂った藍零が歌い続ける歌から名がつけられた。 幸か不幸か。 名だけは、望まれた名がつけられた。 二人で、育てていくはずだった真那。 後の太陽王となる、那伊の弟とされた、実の子。 藍零には似ることなく、那伊によく似た子であった。 君を想フ。 壊れていく君を。 「あははは。あなただあれぇ?」 館に軟禁されていた藍零の変わり果てた姿を見て、那伊は帯剣を許された太陽剣で彼女の腹を切った。 「愛しているわ、那伊」 ほんの僅かな時間、我に戻った藍零を揺さぶっても、もう藍零は瞬きひとつしなかった。 「あああああああ!!」 自ら、愛する者を手にかけた。 この罪、許されることなかれ。 那伊は、藍零の後を追うために、自ら自害しはてようとしたが早期に発見され、治療され適わず、結局ここまで生き永らえてしまった。 藍零。 愛していたよ。 誰よりも。 藍零。 守りたかったよ。 この命にかけても。 ふっと、王となった那伊は目を開ける。 優しい瞳の藍零が、微笑んでいた。 それにむかって、那伊は手を伸ばす。 「もうすぐだ。もうすぐ、君の元にいくよ藍零。愛している。心から。この命をかけて守れなかったこと、この命をもって償おう」 藍零の幻は、すぐに掻き消えてしまった。 死の病に冒された那伊王は、よく眠る前に歌を口ずさんだ。 「君を想フ」という名の恋歌。 若くして、結ばれたはずの男女が、引き裂かれる悲しい哀歌。 「君を想フ―――私は藍零、お前だけを想う。恋焦がれ続け引き裂かれ。死に別れてもなお君を想う。この命果てても」 那伊王の最後は有名である。 蒼銀の髪をした乙女に連れ去られた。空中回廊から身を躍らせ、自殺を図った那伊王を光が包みこんだかと思うと、蒼銀の髪をした白い翼を生やした乙女の少女が、那伊王を連れ去っていった。 墓に、那伊王の遺体はなく、かわりに太陽剣や身の回りのものが棺に入れられた。 「私もあなたを想フ―――あなただけを愛しています。あなたがいればそれで良かった。那伊・・・・・あなたに殺されて嬉しかった。狂った私をあなたが助けてくれた」 「私も君を想フ・・・・」 那伊は、蒼銀の乙女を抱きしめて涙を流し、もう離れないと誓った。 「私も君を想フ・・・・」 蒼銀の乙女、藍零は、那伊に抱きしめられて、涙を零して頷いた。 そして、二人一緒に光の泡となって世界から消えた。 君を想フ―――君だけを、永遠に。 END |