血と聖水\−U「砂時計の揺り篭U」







「ティエルマリア・・・・あなたの墓を荒らしてごめんなさい」
ティエリアの深層意識の下で、ティエリアは砂時計の揺り篭の中にいた。
上からは、砂が絶えず降り注いでくる。
ティエリアは、硝子の砂時計の中に閉じ込められていた。
砂が零れ落ちた瞬間が、ティエリアのティエリアとしての存在の終わり。
完全なる使徒として、ティエリアとしての記憶も何もかも失ってしまう。神が選んだ、最高の使徒。
代行者。世界に手を下す者。

ティエリアは、砂時計の中で砂に埋もれていきながら、その砂時計を作った神アクラシエルの哀しみに、彼(彼女)の代わりに涙を零した。
「あなたは・・・・ルシエードに捨てられたわけではない。ルシエードがあなたを絶対者にしたんじゃない。あなたが、憎しみから自分から絶対者になることを選んだんだ。ネイは、あなたを捨てたわけじゃない。あなたがルシエードを愛しているのを知って、ルシエードがあなたを愛しているのを知って、血族を放棄した。ネイを愛しているなら・・・・例え神でも、言葉に出さなきゃ、想いは伝わらないよ。行動しなきゃ伝わらないよ。神に二人同時に愛されておきながら、あなたは破滅を選んだ」
「使徒、黙れ」
パリンと、砂時計の硝子に罅が入る。
「かわいそうなあなた。恐れないで。世界は変革なんていらないんだ。未来は、人間たちが、この世界に生きる全ての種族によって作られ、そして変えれるものだよ」

「ティエリア!!」
「ティエリア!」
その空間に、意識の中に侵入してきた刹那とリジェネが、神をみて威嚇する。
ビームサーベルを、二人は手にとる。
「ティエリアを解放しろ!」
「ティエリアの中から出て行け!!」

「邪魔をするな!!」

神は叫んだ。
それだけで、二人は空間の壁に叩きつけられ、全身の骨を折る。
でも、傷をすぐに再生させて立ち上がる。

「神よ。お前は間違っている」
「間違っている」
「私が、間違っている?」
「種族の調整をする必要なんてないんだ。選ばれた者だけが住む世界なんてそんな理想郷、この世界に成り立つものか。人間が増えすぎたからと、淘汰する必要がどこにある。人間とて、神よ、お前たちが創造せし命だろう!!!」
刹那の言葉に、アクラシエルは背中の12枚の黒い翼を広げた。
「この世界にいきとしいける者全ては神の子!そうじゃないの!?」
リジェネがビームサーベルで、アクラシエルに切りかかった。
「この世界に住む者全てが・・・・・神の子」
刹那も、ビームサーベルで神に切りかかる。
「この、世界の全てが」

神は逡巡していた。
自分は、何がしたいのだろうか。
創造神に絶対者を与えられたはずだった。そう、そう思い込んでいた。
でも、本当は自分からそうなることを望んだのだ。
神である自分を呪い、この世界の生命を疎んだ。愛に満ちた世界よ。私には、決して手に入らぬ永遠が、そこにはたくさん溢れていた。

ネイを愛していた。父であるはずの創造神ルシエードを愛していた。
でも、自分を愛せなかった。
だから、愛されることを放棄した。
ネイの血族を・・・・放棄させたんじゃない。自分から放棄したんだ。だから、ネイも放棄せざるを得なかった。

「私は・・・・」

「ティエリアの中から、出て行け!未来は、俺たちで決める!!」
刹那のビームサーベルが、神の12枚の黒い翼の幾つかを切り落とす。
リジェネのビームサーベルが、神の背を切り裂く。

「私は・・・・・」

混沌とした渦となって、神はティエリアの中から這い出た。
それを確認して、刹那とリジェネは、ティエリアが閉じ込められている砂時計の硝子を破壊しようとしたが、精神世界では精霊の召還はできない。ビームサーベルで切り崩そうとしても、無理だった。

「この砂時計の砂が零れ終わる時・・・・僕が、消える。この世界ではだめなんだ。外から!!外から、僕を目覚めさせて!!」
硝子に貼りついたティエリアの言葉に、二人は頷くと、ティエリアの中から出ていった。


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