血と聖水フレア「ネイの血族」







ティエリア・アーデ・ネイ・フラウ・ブラッディ・ナハト・ブラッディ。
それがティエリアの本当の名前。
ネイの血族である者は、名前の最後に「ネイ・フラウ・ブラッディ・ナハト・ブラッディ」というネイの血族の証である名をつけられる。
ロックオンは、その名をティエリアに教えたことはなかった。なぜなら、ネイの血族ということは、血の神の一族であることだから。
ロックオンはネイ。神であることに変わりはない。
様々な弊害から、ティエリアを守るために、わざとティエリアをただの血族として、ネイの血族、血の神の一族にはしなかった。
けれど、ティエリアはネイの血族として覚醒した。
「ティエリア・アーデ・ネイ・フラウ・ブラッディ・ナハト・ブラッデかぁ」
ティエリアは、物憂げに自分の本当の名前を呟く。
覚醒した証に、翼を広げればネイと同じ白い6枚の翼がある。
「ネイの血族・・・・なんか、僕には重いなぁ」
ベッドに寝転がりながら、ティエリアは思う。

ブラッド帝国の皇帝メザーリアは、ティエリアのことを姫王と呼んでいた。それが何を表すのか、ティエリアには分からない。
姫王。ネイの血族に選ばれた姫。そして、ネイの伴侶である者は王となる。
だから、姫王。
そうでなくとも、姫王は存在する。代々のネイが生まれるために、その闇、影を利用した女性は姫王となり、ブラッド帝国では王族として皇帝には並ばないが、皇族と同じほどの権力を持つことができた。
ネイが選んだ姫王。いずれ、新らたなネイがティエリアという名の姫王から生まれる。それはいつか分からない。今のネイは6代目ネイ。すでに5代目ネイはこの世になく、灰となった。
使徒として覚醒し、敵対したティエリアは少しだけ己を取り戻し、自らをネイの禁忌の力エーテルイーターに投じて死んだ。そしてネイは、自分のコアをティエリアに与えて滅びた。
無の神アクラシエルが、自らの魂をネイに与え、6代目ネイは生まれた。
まだ、あれから2年もたっていない。
転生には数百年かかる。全てはネイの意思次第。ネイがこの世界で再び生まれたいと願ったとき、ネイは時をはやめて転生にかかる数百年の時を、僅か数日にしてしまう。

「なぁ、ティエリア」
「はい?」
「皇帝から手紙きてるぜ」
「皇帝から?」
ティエリアはブラッド帝国の皇帝メザーリアをいたく気に入っている。同じように、ブラッド帝国の皇帝メザーリアも、ティエリアのことをティエリアちゃんだとかティエリア様だとか呼んで、まるで実の母のように慕ってくれていた。
外見は幼いが、皇帝メザーリアはすでに結婚し、男子をもうけた。
皇帝メザーリアの年齢は200歳をこえている。立派な成人だ。だが、ヴァンパイアは老化することがない。個体によるが、ある一定の外見年齢になると老化がとまるのだ。だから、不老不死と呼ばれるが、ヴァンパイアは完全なる一つの種であり、老化はせず長寿であるが、死は必ずやってくる。
ヴァンパイアの寿命は固体によって違う。外の世界のヴァンパイアは平均で400〜500年ほど。帝国のエターナルヴァンパイアで平均700年ほど。貴族、皇族になると1000をこえる。最大で2000まで生きれるとされている。
実際にそこまで生きる者はいない。皆、病に倒れ、外見が若いまま体の内部だけが老化して死んでいくのだ。
実際に2000歳まで生きたエターナルヴァンパイアとして、五代目ネイの妻であったジブリエル(ティエエル)が有名である。
ネイは、神の力全てを使って、崩御したその姫王と世界に転生させた。命の精霊神ライフエルに魂の継承も託して。

そして生まれたのが、女王ティエルマリアの子、ティエル・ティエリアの霊子エナジーと女王の霊子エナジーを与えられて人工的に生まれたヴァンパイア、イノベイターのティエリア。
はじめ、ティエリアの名は女王の亡き王太子であったティエル・ティエリアであった。
ティエリアは、自分からティエリア・アーデと名乗るようになった。

それは、かつて夫であった五代目ネイとの約束。
「ティエリア・アーデと名乗るがよい」
そう遠い昔にかわされた約束を、ティエリアは気づかないうちに守っていた。そしてロックオンとなったネイと再び出会い、血族となった。
ネイの血族となったティエリア・アーデ。
ロックオンの永遠の愛の血族、ネイの永遠の愛の血族となった。ネイだけの姫王。ネイだけのもの。ネイが命をかけてこの世界に生命を促した、ティエリア・アーデ。
それが、今のティエリア・アーデの始まり。
ライフエルはネイの神の力と引き換えにジブリエル(ティエリエル)をティエリアとして転生させ、そして1000年もの長きにわたり、ネイはネイとしての記憶も力も失い、ただの狂ったヴァンパイアとなって帝国を這い出し、南の三つの王国を滅ぼし・・・やがて自我をもち、ロックオンと名乗るようになった。
まだ、ネイとして覚醒していなかった頃。
時折ロックオンの意識をネイが支配した。ネイはロックオンであると同時に、至高なる者として、存在意識の次元が違う。そのため、ロックオンという人格とネイの人格は基本はかつては別であった。今では、ロックオンの中にネイは溶け込んでいる。

「皇帝からの手紙・・・」
封を切ると、中には二人分のチケットが入っていた。
鎖国を解いたブラッド帝国では、飛行船で1週間たらずで帝国に入れるようになった。その飛行船の搭乗チケットであった。
「んーと・・・・ティエリア様へ。ネイ様と一緒に帝国くるよろし。皇帝の誕生日せまってる。みんなでわーいと祝って、ティエリア様とネイ様に我が子と我が夫を紹介したい。なので、チケット同封。こなきゃ、帝国騎士が二人を攫いにくるので注意」
「あーの皇帝・・・・あいからず、マイペースだなぁ」
ロックオンが、同封されたチケットを天井にすかす。
「んで、どうする?」
「行くに決まってるでしょう。協会にはしばし休暇届けを出します!」
ティエリアは嬉しそうだった。
また、皇帝に会える。

「まー、行かなきゃメザーリアは本当に帝国騎士よこしそうだしなぁ。二人で祖国に愛の逃避行・・・燃えるぜ・・・ふふふ」
「一人で燃えていてください」
「ティエリア〜〜〜」
一人できざったらしく格好つけるロックオンを放置して、ティエリアはさっそく使い魔をハンター協会に送り、1ヶ月の休暇をえてから、身の回りの荷物を整理して、ロックオンとそしてフェンリルと一緒にブラッド帝国行きの飛行船に乗り込んだ。
チケットがないと、乗れない。
密航を防ぐためである。
鎖国を解いたブラッド帝国は、神秘の国として、今いろんな国家がツアーを取り組んでいて、飛行船のチケットは半年先までうまっている。
「チケットあってよかった・・・・」
一般客と一緒に飛行船の乗り込むと、チケットから最上級のスイートルームに案内された。
そのまま1週間かけて、ティエリアとロックオンとフェンリルは、帝国行きの飛行船に乗り続ける。

「ふにゃー。さっぱりしたにゃ。いいお湯だったにゃ」
フェンリルが全身をふるわせて、水分を弾く。
「うが、おれの服が!!」
フェンリルの水気をわざと吸わされて、ロックオンの服が重たくなった。
「こらぁ、フェンリル!空から落とすぞ!」
「そんなことできないにゃー。主にロックオン、お前が殺されるにゃ」
「う、それは・・・・」
本当にそんなことしたら、ティエリアは間違いなく怒ってロックオンをはりたおす。それだけならまだいい、最悪数週間無視される。
それだけはごめんだった。

飛行船の窓から見える、ブラッド帝国の広大な領地。
フレアと呼ばれる、特殊な血の神であるネイの結界が帝国全領土を覆っていた。ネイとそして代々の皇帝の加護を受けている土地は、上空から見るとその紅い天蓋に覆われて見えた。
ヴァンパイアの最大の敵である銀とはまた別の、浴びると灰になる危険のある朝日から民を守るために作られた巨大な巨大な天蓋。硝子張りのように透けて見えるが、上空から見ると耀くフレアのように紅く、そうヴァンパイアがもつ瞳の真紅のように見える。

それが、ロックオンの、ネイの生まれ故郷であり、そして祖国、自分が作り上げた帝国。
ネイは、さまよい続けた千年の空白を得てもなお、ブラッド帝国で血の神、真なる皇帝として畏怖されている。崇めるのではない。恐怖。それが、民がネイに抱く感情。

「フレア・・・・俺の血でつくったんだよ。これ」
「この天蓋が?」
「そう。フレアって名前で、帝国に住み民を朝日から守る」
「へぇ・・・・綺麗ですね。真紅だ」
その天蓋は、そこに存在するはずなのに透明で、まるでないように見える。でも、上空から見るとその存在がはっきりと見える。

「ぶつからないのかな?」
「フレアはただの結界だ。ぶつかったりしねーよ」
「へぇ」
「ロックオンが作ったのにゃ?この真紅の」
「ああ」

懐かしそうなロックオンの表情。
その時、ティエリアは微笑んでいた。
「フレア・・・・血の民を守る、結界・・・・・」

その時、声が聞こえた。
「私は・・・・フレア。フレア。ネイ、愛してる。ネイの姫王になりたい。私はフレア・・・・」
「え?」
「どうした?」
「いや、フレアって声が」
「そんなはずねーだろ。このフレアは7千年前に俺が血で作ったただの結界だ。意識なんてもつはずがない」

ただの、フレア。
帝国を7千年もの間、今も守り続けている、ネイの血の結界。

フレアは、ゆっくりと目覚めた。
ネイの血から生まれたフレア。
血の神の力は予測不可能。その血から、いくつもの僕を生み出し、出来たばかりの帝国を守る基盤とした。
7千年の時を経て、ネイの存在を感知して「意識」を生み出したフレアは目覚める。
フレアはフレア。
ただの血の帝国を守る結界のはず。
けれど、血の神の力は気まぐれだ。ネイが気まぐれであるように、その血から生み出されたものも気まぐれ。
フレアは、幼い子供の姿をとって、愛しい、生みの親のネイが乗る飛行船をじっと見上げていた。

「私はフレア。ネイ、あなたの姫王になりたい。私はフレア」



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