血と聖水フレイム「フレイムロードの王」







「汝らの冥福を、血と聖水の名において祈る。アーメン」
セレニアとフレイムの墓に、ティエリアは蒼い薔薇を捧げた。
セレニアは花が好きだったという。
特に貴重な蒼い薔薇がすきで、よくフレイムの部屋にいけていたときいて、蒼い薔薇の花を、皇帝の許可をもらって宮殿の庭から摘み取って、メッセージカードと一緒に捧げた。
ロックオンも、二人の冥福と未来を祈る。
「守れなかった。俺は、ネイであるのに、大切な民を。どうか、安らかに」

養子に出されたというセレニアとフレイムの子供にもあった。
セレニアによく似ていた。種族は普通のエターナルだった。将来、いつかこの子供はフレイムとセレニアという実の親のことを知るだろう。
そして、それを救えなかったネイの存在を憎むかどうかは、この子供次第だ。
憎まれるだけの覚悟もある。アサシンになるかもしれない。でも、それでもネイはネイとして生きていく。何故なら、ロックオンは血の神、夜の皇帝ネイなのだから。
誰も、身代わりなんてできない。
帝国騎士の一人が、ロックオンに耳打ちした。
「ネイ様。謁見の間にて皇帝がお待ちです」
「分かった。ティエリアの護衛を頼む」
「は」
ロックオンは王宮に戻り、謁見の間で皇帝メザーリアと話をする。
「セレニアとフレイムの子に・・・将来、皇族としての地位を与えようと思う。よいか、ネイ様?教育も、皇族として。むろん親も」
「ああ、構わない。よろしく頼む。おれは、この帝国にずっといるわけじゃねぇから」
「ネイ様。帝国に戻ってくる気はないのか」
「ない。一度俺は国を捨てた」
「それでも。ネイ様は他の誰よりも、私よりこのブラッド帝国を愛し、そして行く末を心配しておられる。帝国騎士も家臣たちも、ネイ様とティエリア様に、この国にいて欲しいと」
「俺とティエリアには、ホームがあるんだよ。そこが、俺の住む場所だ」
「そうか。残念だ、ネイ様。ブラッドイフリール、フレイムロードの王である、フレイムの実の父親であるカシナート・ル・フレイムロードに気をつけられよ。あの王は野心家だ。自治区を広げている。皇帝である私の許可なしに。いつか、反旗を翻すかもすれない。先代教皇に、フレイムの恋人であるセレニアを推薦したのもカシナートだ。あの王は、民を民と思わぬ。ネイ様の爪の垢をせんじて飲ませたいくらいだ。その時がくれば。戦争となりそうな時は、ネイ様」
「分かっている。アサシンとして、カシナート王を反逆者として殺す」
「兵は、帝国騎士からも派遣する」
「その時は頼む」
少女皇帝メザーリアは、玉座から立ち上がると、ネイの隣に並んだ。
「ネイ様。この国は、いつまで人間と共存していけるのだろうな?」
「それは、俺たちとそして人間次第だ」
「滅びの未来を視られたそうだな。私も見た。あんな世界には、させたくない。未来はいくらでもかえれると、ネイ様は思うか?」
「いくらでも、かえられる。かえてみせる」
「ネイ様らしい・・・・・」
「皇帝陛下、ティエリア様が」
「通せ」
「は」
帝国騎士は立ち上がり、ティエリアを謁見の間に通す。
「ティエリア様!私とお揃いの服だ。気に入ってくれたか?」
「あ、ありがとう。ドレスより、こっちのほうがいいよ」
ティエリアは女官に着付けをさせられていた。皇帝としての正装。男装が基本である。男性の衣装をまとったティエリアは、それでも可憐だった。
「ネイ様もため息をついておられるぞ、ティエリア様」
ロックオンは、ティエリアの凛々しくもある高貴な姿に見ほれていた。
「クラウンは・・・・そのクラウンを受け取ってくれ、ティエリア様」
「メザーリア!」
「いいだろう、ネイ様」
「好きにしろ」
被せられていたクラウンは、ブラッド帝国の宝の一つで・・・・皇帝の証であった。
今の皇帝メザーリアに何かあれば、ティエリアが皇帝として一時的に選ばれる。皇帝に何かあった時、民に次の皇帝が選ばれるまでの仮初の皇帝。
でも、それはティエリアを嫌がおうでもブラッド帝国の権力争いに巻き込むことを意味していた。
どのみち、すでに権力は渦巻いている。
教皇庁が、次の教皇にティエリアを打診したのを折り曲げたのも皇帝メザーリア。ティエリアの知らないところで、ティエリアはネイの血族、正妃として権力争いに名を使われる。
皇帝が、次の皇帝までの仮初の皇帝にティエリアを指名したことは、その日のうちに帝国中に知れ渡った。
仮初の皇帝は、皇帝が最も信頼する友の証。
権力争いに巻き込まれるのを少しでも防ぐためだ。
フレイムロードの王カシナート・ル・フレイムロードはしつこくネイの血族であるティエリアに謁見をと皇帝に迫った。ティエリアを使って、何か権力の絡んだ悪巧みをするのは見て取れたため、謁見を拒否していた。

「安からに・・・・アーメン」
セレニアとフレイムの墓に再び墓参したティエリアは、そこで蒼い薔薇を持った三十代半ばほどの男性に会う。
「これはこれはティエリア様・・・・」
「あなたは?」
「わたくしは、フレイムロードの王、カシナート・ル・フレイムロード」
「フレイムロードの王・・・・フレイムに、アサシンとなることを甘言し、フロストの魔石を渡したのも、あなたか?

「さて、なんのことやら。ティエリア様は勘違いをしておられる。わたしくはフレイムロードの王であって、あなた様の見方。ブラッドイフリール自治区の王であって、皇帝とそれ以上である者に従属する。あなたは、皇帝メザーリア様よりも権力がおありだ。ネイ様の血族であるあなたなら・・・・次の皇帝となることも容易」
「何が言いたいのですか」
「ブラッド帝国は、もっと繁栄し、領土を広げるべきだと思いませぬか?」
「思いません」
ティエリアは断言すると、踵を返す。
「覚えられよ。その気になれば・・・・私がネイにあなたの首を刎ねさせることも容易であることを。あなたが言った通り、私の地位は皇帝メザーリアより上、ネイと並ぶ。ならば、フレイムロードの王であるあなたなど、私にとってはそこらにいる平民のようなものだと」
ティエリアは、金色の瞳を珍しく真紅にして、そう言うと去っていった。


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