血と聖水フレイム「ジブリエル・ラ・フレイムロード」







フレイムロードの王カシナートは注がれたワイングラスの中身をまわして、ネイの姫王であるティエリアの美貌を思い出していた。
「我が物にしたくなる美しさだったな。なぁ、アルテイジア?」
「別に・・・・」
ロックオンたちに殺されたはずの教皇アルテイジア。記憶を受け継ぐ魔石も完璧に破壊されたはずなのに。
そこにいたのは、確かに元教皇アルテイジアの記憶を持つ者だった。
「魔石を移し変え、砕いてお前に飲ませたのは正解だったな。完璧にお前はアルテイジアだ。史上初の女教皇か。それもそれで面白い。アルテイジア・・・・・いや、ジブリエルよ」
ジブリエルと呼ばれた女性は、つまらなさそうにカシナートからワイングラスを受け取って、中身を飲み干した。
「私の灰を墓地から勝手に取り出して・・・失われた古代魔法科学文明の、地下に隠された数十万人のあの人間の霊子エナジーから肉体を作ってどうするつもりですか、あなたは。私はアルテイジアの記憶を受け付けられても、人格を与えられても基本は代わりません。粉々にした魔石を飲ませても同じこと。私はアルテイジアであると同時に、ジブリエル。またの名をティエリエル。ネイの血族にして、永遠の姫王だった者」
その言葉は過去形である。今はもう、ネイの血族でもなんでもない。ただの、ヴァンパイア。
「だがなぁ、ジブリエルでありアルテイジアである者よ。今のネイには、永遠の愛の血族、姫王がすでにいる。お前が転生した、ティエリアという」
「知っています。ネイから、奪おうとは思いません。ネイは今は私が転生した者を愛している。それは私が愛されていることと同じことです。私は本来ならこの世になき存在。アルテイジアとしての野望だけが、今の私を支えています」
「ティエリアとかわらぬ美貌をもつ瓜二つの新しきアルテイジアよ。皇帝が冊立したセレニアという教皇を、わたくしは認めない。お前が、教皇だ。新しく教皇庁を作ろう。すでに、お前の世話をしていた者たちも、今の教皇庁の変貌ぶりに嫌気をさしたものやわたくしたちと同じに野望を抱く者、そして教皇の一族も全てこの自治区に招いている。女教皇アルテイジアの君臨だ」
はははははと、カシナートは愉快そうに笑った。
「あのネイと皇帝メザーリアを、これでまた楽しませてやれる」
「楽しんでいるのはあなただけではないのですか。フレイムロードの王、カシナート・ル・フレイムロード」
「どうとでも。ジブリエル・ラ・フレイムロードよ。フレイムロードの女王よ。ネイに愛されたブラッディイフリート」
「私はアルテイジアです。ジブリエル・ラ・フレイムロードは今から千年前に死にました。たとえこうして肉体を復活させても死者は死者」
カシナートはグラスに再度ワインを注ぐ。
「この血の色のように、ネイとティエリアを染め上げてやろうではないか」
「ご勝手に。アルテイジアとなった私を利用しようとしても、私はネイに、愛した夫に歯向かうことだけはできません。ネイの手で殺されることを望むでしょう。再び、灰となることを」
「それが面白いのだよ、アルテイジア!お前はアルテイジアの野望であるネイの血族になるということを望みながら、同時に生きていることに苦痛を覚えてネイに死を求める。その時のネイの顔が見たい!愛した女を、自分の手で殺すネイの苦しみが、はははは、くくくく」
「歪んでいますね」
新しきアルテイジアは席を立つ。
バルコニーに出て、ティエリアよりもずっと大人びた新しき教皇アルテイジアは、愛しいネイの手で殺される甘い夢をみる。この世に蘇っても、所詮は死者。仮初の命だ。ならば、せめて愛しい人の手で殺されることを望もう。ネイにはティエリアがいる。私は必要ない。

ブラッド皇暦7130年。カシナート・ル・フレイムロード王の名によって、現在帝都にある教皇庁を認めないと、かつての教皇庁の者や教皇一族が集まり、ブラッドイフリール自治区に女教皇9代目アルテイジアを冊立した。こうして、新教皇庁は皇帝と対立する。
新しい女教皇を見た皇帝は驚愕する。
大人になった女性のティエリアが、そこにいたのだ。でも何かが違う。
ジブリエル・ラ・フレイムロードという女王であった。ティエリアの前世にあたる女王は、アルテイジアの魔石を与えられ、カシナートの野望の元で女教皇となった。

ネイは、それを知り帝国へ、ティエリアとそして刹那と共に出発することになる。
ティエリアが嫌う権力争いに、こうしてティエリアも巻き込まれる形となる。
ティエリアは、女教皇アルテイジアと出会い、何を思うのか。
かつての自分を見て。
ネイに殺されることを望みながら、ネイの血族になることを夢見るアルテイジア。
そこには、かつてのアルテイジアはおらず、哀しみに溢れたフレイムロードの女王がいた。



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