血と聖水ロックオン外伝「魔女と吸血鬼」3







それから何日たっただろうか。
神と呟いて、壊れたように敵であったリボンズが去ってから。ルシエードももう関知しようとはせず、ロックオンはネイの意識を眠らせたまま、生死の境をさまよっていた。
コアを傷つけられたせいだ。コアを破壊されれば、ロックオンとて、ネイとて死ぬ。
ネイはまた眠ってしまった。
ロックオンは、コアを傷つけられたせいで、体の傷の再生が止まっていた。ここで死ぬのだろうかと、ふと意識を取り戻しては、喉の渇きに苦しんだ。傷の痛みなど慣れた。
ヴァンパイアとして生きている間に、何度もヴァンパイアハンターと戦って傷つき、傷を再生させた。
オオーン。
狼の遠吠えが聞こえた。
雪が降り出した。ロックオンは、白い雪に埋葬されていく。
薄れていく意識の中で、狼の群れに囲まれているが分かった。このまま狼に食われてしまうのだろうか。狼って、ヴァンパイアなんて食べるんだろうかとか考えていた。
「こらお前たち、狩りをさぼるでないよ!おやまぁ、いい男vV」
老婆の怒鳴り声に怯えた狼たちは狩りを再開する。草原をかけ、一匹のオスのトナカイを仕留めて、戻ってきた。
「ウホ、いいトナカイ!」
ここまで引きずってくるのはさぞ大変だったろう。
狼たちは全員ゼーハーいっている。
「情けないのお。息があがっておるじゃないか」
「しかし主、私らはただの狼だ。魔法を使える主とは違う」
「狼は群れで狩りをするのが当たり前じゃろ!文句いうでないよ!魔女の私と契約したんだから、死ぬまで一蓮托生だわいね」
「主・・・この男、ヴァンパイアだぞ。どうなされるおつもりか。意識を取り戻せば襲われるかもしれぬ」
「ウホ、ウホ」
魔女の老婆ばまるでゴリラのように吼えた。
「ウホ、この私を襲うって?いやん、私、95歳だけど処女なのん。惚れられたらどうしようかしら」
くねくねと、頬を染めた魔女の老婆に、狼は全員ドン引きして、遠吠えをあげて去っていった。
「こらお前たち!あーもう」
狼たちも、腹をすかせた子供が洞窟で待っている。また狩りをする必要があるのだ。魔女と契約したことにより、人の言葉を理解し話せるようになった。シルフの魔法をかけられて、走る速度があがって狩りの成功率は格段にあがったが、魔女のために狩りをしなければいけなくもなった。でも、炎の下位精霊を洞窟に住まわせてくれたり、子供たちが寒さで身を降るわすこともなければ、エサとなるトナカイや雪兎がいないときは、魔女がシルフの魔法でトナカイの群れをテリトリーにおいたててくれて、お陰でここ数年、餓死した狼はゼロ。長でありリーダーである狼は、魔女に忠誠を誓っている。人語を理解するのはこのリーダーとその妻と、第2位、3位までのオスのみ。あとは普通の狼。魔女にこき使われてるけど、魔女はいい人だ。狼全員が、魔女に感謝している。それまで、この不毛の雪と氷に閉ざされた森にはトナカイの群れが通りかかる時くらいしか狩りが行えず、他の南に住む狼に比べればいつもエサに不足してひもじい思いをしていたし、老いた狼など餓死してしまった。放牧された家畜を襲って飢えを凌いで、放牧していた人間に殺されることもしばしばだった。
魔女と契約したことで、家畜を襲うことはなくなった。魔女が近隣の人間と話をつけて、狼は自分で飼うことにしたと言った時、人間たちも喜んだ。狼を殺すことに人間も罪悪感を感じていたのだ。生きるために仕方なく家畜を襲う狼。でも、家畜を殺されては人間が生きていけない。
老いて走れなくなった狼まで生きることができるようになった。エサはいつも足りていて、子供はまるまると太って健康そのもの。

魔女を、人は怖がらない。だって、魔法を使える人は世界中にいっぱいいるから。老いた老婆は魔女と呼ばれるだけであって、普通の魔法士だって世界にたくさんいるんだから。あえて魔女として生きる若い女性もいる。
魔女とは、森の薬草などを摘み取って、薬を調合したり、宝石に魔力をこめたり、水晶で未来を見る錬金術を使った普通の魔法ではない魔法を使う者たちの総称である。
錬金術に必要な魔法も、精霊魔法だ。薬草の調合の時に使う精霊は木々の精霊。魔石を生み出したりするのに使うのは土の精霊。水晶で未来をみたり、占うのはこれは魔力そのものを使った、人間独自の魔法だ。
世界には、神を信仰することによる神聖魔法と、精霊と契約することによる精霊魔法、そして種族独自の種族魔法の3つに別れる。呪文の魔法は、古代に滅びた。今は呪文を唱えても、それは精霊魔法だったりする。

「さて・・・・魔法の絨毯や、おいで」
シルフの魔法がうんせうんせと絨毯をもってやってきた。それに、魔女の老婆はロックオンを乗せた。おばあさんなのに怪力である。そして、今夜のご馳走になるトナカイものせて自分も乗った。
「はい、戻るよ〜。信号に気をつけなしゃれ」
信号なんて都会ではないこの森の中にないのに。
シルフたちは、うんせうんせと、重くなった絨毯を魔法でとばして、魔女のホームにたどり着く。
ロックオンを一つだけしかない寝台に乗せる。
「おやまぁ、ほんとにいい男。これは・・・・コアを傷つけられとるね。それで傷が再生しないのかい。ええと、どこだっけかな。回復の薬はどこだどこだ」
魔女は、ホームの薬品がたくさん並んでいる棚を見回して、ひきだしをあけたりしてとにかく中身をひっくり返すが見当たらない。
「おお、いけない。この前、階段から落ちた時ギックリ腰になって使っちまったよ」
「血を・・・・・」
ロックオンがうめいた。
「血?ああ、ヴァンパイアは吸血で傷を癒すんだっけね。いいよいいよ、どうせ老い先短い。この命欲しいならあげようじゃないか」
老婆は、ロックオンの前にしわしわの手を差し出した。
「すま・・・な・・・・い」
ロックオンは老婆の手首に牙をたてて、その生暖かい血を啜る。
「おおう・・・・なんちゅーなんちゅー恍惚感。ああん、もうおばあさんイっちゃうぞ」
血をある程度啜って、ロックオンは牙を離した。
「おや?どうしたんだい。やっぱり95歳の老婆の血はまずいってぇ?ええどうなんじゃぁ!?」
ガクガクとロックオンを揺さぶる老婆。
「いや・・・・俺は、相手を、殺すまで・・・・吸血しない。ヴァンピールにもしない。もう十分だ。すまない、世話になる。しばらくの間養生させて欲しい」
「いいとも。じゃあ、私をハニーにしておくれ」
「ハニー?」
「そうじゃ。スィートハニー、お嫁さんじゃ」
「あははは・・・いいぜ。じゃあ俺はダーリンな」
そうして、魔女と吸血鬼の奇妙な共同生活が始まったのである。


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