血と聖水外伝「フェンリルの大冒険」3







声は、ドンドン小さくなっていく。
「急ぐのにゃ!」
フェンリルは、空を走り出した。まだ小さいけど、立派に空を走ることもできる。
町は障害物や行き交う人が邪魔で、俊敏に動けない。
(助け・・・て。死にたくないの・・・・)
その声は、町でも富豪で悪名の高い、バルワーズ家の豪邸から聞こえてきた。
「うーん・・・・不法侵入にゃ。でも、しかたないにゃ!」
フェンリルは、迷ったが、その声の在りかをどうしても確かめたくて、豪邸の庭に下りると、綺麗に整えられた庭園を走る。
声は、豪邸の地下のほうから聞こえてきた。
「潜入にゃ!」
ピンポーン。
フェンリルは、なんと真正面から向かった。
チャイムをおす。
「はい、なんでございましょう」
「宅配便ですだーにゃ」
「はいはい、お待ち下さい」
執事が扉をあけた。
その瞬間を狙って、フェンリルは素早く豪邸の中に駆け込む。
「あれ?」
執事は、まるで一陣の風が吹き抜けたにしか感じず、フェンリルの姿を目で確認することはでなかなった。
そのまま、豪華な調度品のある部屋を走り抜けて、地下に通じる階段を見つける。
そこから、はっきりと声が聞こえてきた。
「助けて・・・・助けて・・・・」

「今助けるにゃ!!!」
フェンリルは、地下の階段を降りて、そして青ざめた。部屋は広く、そして空気はとても冷たかった。
そこにあったのは、剥製。さまざまな種族の。
人間はもちろんのこと、エターナルヴァンパイアから、フェザリア、エレメンス、フォーリング、セラフィス、エルフ・・・様々な亜人種の剥製があった。
全部、豪邸の主であるバルワーズ当主が、種族の若く美しい者の死体を金で買取、剥製にしたものであった。
剥製にされた死体が闇市で売買されることもある。
殺して無理やり剥製にしない限り、罪にはならない。死体を買い取って、剥製にするのだから。もっとも、その買取もほとんど脅しのような手で、犯罪に近いが。
この剥製の中には、普通では手に入らないフォーリングやセラフィス、エレメンス、エルフのものがまじっている。彼らは気高い。いくらなんでも、死体を金に任せて売ったりしないはずだ。
完全に、犯罪だ。きっと、墓から死体を奪って剥製にしたに違いない。
種族協定により、種族の死体売買などはこれからの種族では禁止されているのだ。
だからこそ、高値で売れる。美しい。コレクターも多い。他の種族でありあえないほどに美しい。エルフは優雅で華麗で皆美しいが、精霊種族のエレメンスも、そして天使とも呼ばれる白い翼のセラフィスも黒い翼のフォーリングも独特の美しさを持っている。
死体はみんな、生きているように見えた。
高度な技術で剥製にされている。

「悪趣味・・・にゃぁ」
ぶるぶると震えながら、剥製が並ぶ地下のその部屋を見回す。
「助けて・・・・」
助けを求めていたのは、子猫だった。
人の姿をした剥製の他にも、小さなドラゴンや様々モンスターの剥製、生き物の剥製もあって、さながら小さな博物館のようであった。どれも、美しく希少な種族ばかりのもの。
小さな檻に閉じ込められていたその子猫は泣いていた。
「剥製になんて、されたくない」
「助けるにゃ!」
「君は?」
「僕はフェンリルのゼイクシオン!」
「フェンリル・・・・精霊が、どうして?」
「君の声が聞こえたのにゃ!!」
「僕の、声が」
黒い毛並みの子猫だった。瞳はルビーのように真紅で、背中に白い翼を持っていた。
絶滅危惧種に指定されている、フェザーキャッティだろう。
売買は勿論のこと、飼うことも、生息区域に許可なく立ち入ることも禁止されている、絶滅しかけている幻の種族。
「森で、捕まったの。罠で。闇市に売られて・・・・ここの屋敷の持ち主は、僕を剥製にするって。嫌だよ、嫌だよ・・・・ママとパパにあいたいよ」
泣き続ける子猫を、フェンリルは励ます。
「今助けてあげるのにゃ!フェザーキャッティは希少種!こんなことするなんて許せないのにゃ!」
フェンリルは、檻を魔力でできた氷の刃でも、ダイヤモンド並みの硬度をもたせる、アイスエッジを連発して鉄でてきた檻にぶつけて、檻の中で震えるフェザーキャッティの子猫を助けるために、奮戦した。
でも、檻には特殊な魔法がかけられているのか、傷はつくものの、檻自体が再生するのだ。
「にゃにゃ・・・・この檻厄介だにゃ」
「だめだよ。僕も、魔法で何回も檻を壊そうとしたけど、無理だった」
「ここに錠前があるにゃ!鍵を持ってくるにゃ!!」
フェンリルは走った。同時に、氷に書いた魔法の文章を交番と、主のティエリアに飛ばした。
 


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