許されたい「さようなら」







ティエリアは、ヴェーダと一体化した。
それが、全てを終わらせて戻ってきた刹那の言葉だった。
「なんだよそれ!!」
ライルはやるせない気分に、壁を乱暴に叩いた。
「もう、戻ってこないのかよ!!」
「戻ってこないと、思う・・・・」
「なんでだよ!!」
また、大切な人を失った。

そして理解する。
ああ、ティエリアのいっていた全てに許されたいとは、こういうことだったのかと。
世界から、全てから許されたい。
それは、いわゆる死といもの。
ティエリアの場合、意識体が生きているので完全な死ではないが、ヴェーダで眠りにつくことは死ととてもよく似ていると思った。

ティエリアの、あの笑顔が見たい。
また抱きしめたい。
でも、それは叶わぬ夢だった。

ヴェーダの中に残してきた遺体を、皆でトレミーに戻しにいき、綺麗に清められ、棺の中に入れられたティエリアと対面したとき、涙が零れた。
「お前さんの許されたいって、こんなことなのかよ。こんな形、あるかよ・・・・バカだよ、お前」
「ティエリア・・・・」
アレルヤも泣いていた。
「うわああん、アーデさあああん」
ミレイナなど、泣きすぎて泣きすぎて、目を真っ赤にしていた。
「ティエリア・・・・」
フェルトは涙を流しながら、ティエリアの額にそっとキスをした。
皆順番にキスをしていく。
刹那は一番最後、唇にキスをした。
結局、ライルはキスをできなかった。
白い薔薇と百合で埋められた棺は、そのまま宇宙に流されることになった。
「なんで、宇宙になんて流すんだ。地球に葬ってやらないのか!」
「これがね、あの子の遺言なの。ハロに、録音されていたのよ」
「!!」

ミス・スメラギはハロの録音機能を再生させた。

「僕は、全てに許されたい。きっと、その時がくる。僕は世界から逃げ出す形になるだろう。でも、それでいいと思うんだ。僕の体は、宇宙に埋葬して欲しい。僕が愛したロックオンの眠る宇宙へ。地上は嫌いだ」

「こんなとこまで、地上嫌いかよ・・・・」
ライルは嘆息した。
そのまま、皆が見守る中、ティエリアの遺体が入った棺は宇宙に流され、一緒にたくさんの花が流される。
わざわざ、地球にまでいって取り寄せた棺と花たち。
ライルは、できることなら地球にある兄の墓、ティエリアがたてたその墓の隣に埋葬したいと考えていた。でも、ティエリアはそれを拒否した。
何故なら、あの墓の下にロックオンは、ニールは眠っていないから。
本当に眠っているのは、この宇宙なのだ。
きっと、永遠の姿と留めたまま、ティエリアの棺は宇宙を彷徨い続けるだろう。
まるで、兄であるニールの姿を探すように、旅をするように。

「愛して、いた」
ライルは、ぽつりともらして、一輪の忘れな草の花を宇宙に流した。
ティエリアが大好きだった忘れな草の花。
小さくて可憐で儚くて、まるでティエリアそのもののような。
花言葉の私を忘れないで、の言葉通り。
「俺は、お前を忘れない。生きている限り、お前のこと忘れないよ、ティエリア」

ティエリアは、きっと許された。
世界にも、全てにも。
神にも。
運命にも。
そして、兄さんにも。

兄さんに、会いにいっておいで。
宇宙で兄さんが待ってるよ。
恋人同士、仲良くやりな。じゃあな。

ライルは流れていく忘れな草に手を降る。
包帯の巻かれた右目。まるで、兄の傷のようだ。
俺は、兄さんにはなれない。だから、救えない。

さよなら、ティエリア。

「さよなら、ティエリア。ありがとう」

(どういたしまして)
そんな言葉が聞こえた気がして、ライルは振り返る。いるのは、トレミーの残ったメンバーのみ。
でも、はっきりと見えた。ティエリアの意識体、だろうか。
「どういたしまして。僕は、死んだわけじゃない。さよならはないだろう。通信回線を開いてみるといい。詳細は、刹那に聞くといい」
刹那は、ティエリアの意識体に気づいて、そっちを見ていた。
ティエリアの意識体は、ライルの頬と、刹那の頬にキスをしてから、消えた。



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