ティエリアの作戦







カタカタカタカタ。
人がうてないタイピング速度で、ティエリアはコンピュータに文字を打ち込んでいく。
そして、いつも使っている持ち運び可能なパソコンから、自室に備わっているメインコンピュータと接続し、ティエリアは作戦を開始した。

「作戦は、完璧だ」
ティエリアは、アロウズの駐屯基地にあるマザーコンピューターにハッキングをしかけた。
30カ国にも渡る国のいろんなコンピュータ、それに衛星システムなどを経由してのハッキングは、あまりに複雑してハッキングした相手が誰であるかなどわからないだろう。
まず、人間の能力をもってして、ここまで複雑なルートを経由してのハッキングは不可能であった。ヴェーダの申し子であるティエリアは、一部のコンピューターと同調することができる。
ティエリアの部屋に備わっているコンピュータは、ヴェーダではないが、その造りは似ていた。無論、シンクロもできる。その能力を使って、ハッキングをしかけた。
金色に光る瞳。
太陽のコロナのように、鮮烈な色を燃え上がらせる。時折石榴色や翡翠の色がまじる。
まるで、オーロラのような瞳で、ティエリアはあらかじめ用意してたデータをハッキングした基地のマザーコンピュータに送り、データを転送する。
転送し終わったら、今度はハッキングしたマザーコンピュータから基地全てのコンピュータを動かし、ボイスシステムを起動させる。
眠りについていた兵士たちの部屋にあるコンピューターの電源が急に入り、それに起きていた者が驚く。
警報が鳴り響いた。
「何者かが、マザーコンピューターにハッキングをしかけています!」
「身元を割り出せ!」
「だめです!30カ国の千台以上のコンピューターに・・・・衛星システムの経由!?こんなの、人の力では不可能です!」
「そんなばかなことがあるか!衛星システムの経由などあるはずがない!ちゃんと確かめろ」
「ハッキングされて送ってこられた文章に、衛星システムを経由している、見つけれるものなら見つけてみろという文章が!」
マザーコンピューターが、基地に備わっていた全てのコンピュータをのっとった。
そして、ティエリアが送ったデータは信じられない速度で転送され、コンピューターのボイスシステムを完全に掌握した。
警報が鳴り響く。
それに、寝ていた兵士たちが飛び起きて、臨戦の体勢をとるが、敵は目にみえない存在だ。
遥か遠くはなれた宇宙から、ティエリアがハッキングしているなんて、誰も想像すらつかない。

ティエリアの金色の瞳が、オッドアイの石榴色と金色に変わった。
ボイスシステムの掌握を確認し、データ転送を終了する。
ティエリアは、美しすぎる白皙の美貌を輝かせた。
神秘的な、太陽のように燃えるオーロラの金色の瞳。
生きているというに、ここまで美しい存在をどうやって保てるのだろうか。
美しいという一言では言い現れない、その絶対存在。
女神の化身でも、ここまで美しくないだろう。
神が創造した奇跡。
肩のあたりで切りそろえられた、紫紺の髪をかきあげて、ティエリアはメインコンピュータに命令する。
「作戦を実行せよ」
シンクロしたティエリアは、まるでヴェーダとアクセスし、システムルームにこもっていた時のようになっていた。
不安定な体を、ハッキングに協力したライルが受け止める。
「うはぁ、すげぇ。まじでアロウズのマザーコンピューターにハッキングしてやがる」

「ええい、マザーコンピューターの電源を切れ!」
「無理です!完全に、相手側に掌握されています!」
「くそお!」
アロウズのマザーコンピューターには、極秘のデータがいくつも記録されており、そのデータの一つでももれだせば、連邦政府という存在を揺るがす大事態にもなりかねない。
ハッキングされ、データをとられるくらいならば、破壊したい。しかし、破壊してしまっては、アロウズという軍隊を統一することもできなくなる。
そもそも、ハッキングされないように厳重にガードされているというのに、どうすれなハッキングできるというのか。普通の人間の手ではまず不可能だ。ハッキングを得意とする人間が、千人あつまっても、可能かどうかわからない。

ライルは、あまりに美しいティエリアに言葉を失った。
もともと絶世の美貌を持っているが、コンピューターとシンクロした姿は神秘的すぎて、もはや人間という生命の枠をこえていた。これぞ、イノベーターの力。人を凌駕する新人類。その力をもっているのならば、いっそのこと逆手にとってみようではないか。

金色の瞳が、銀色の星を瞳に映した。いや、ただそうみえただけで、金色のコロナの中に、銀色の光が混じりだしたのだ。
太陽と月の色を、両方宿した瞳。

「ティエリア・アーデの名において命ずる、作戦を実行せよ」
メインコンピューターが、ハッキングしたマザーコンピュータに転送して全データを解放する。
基地中のコンピュータをのっとられ、アロウズの基地は今までにない混乱に陥っていた。
ボイスシステムを掌握したティエリアは、ボイスシステムを最大限のボリュームにして、データを全解放した。

ティエリアのシンクロが終わる。
ドサリと、その体をライルが受け止める。
「無茶しまくりだぜ、ったく」

一方、地球にあるアロウズの基地、それに宇宙にある基地の全てのコンピュータは電源がいれられ、艦隊に備わっているコンピュータでさえもマザーコンピュータをハッキングしたせいで、全てティエリアの手の中にあった。解放されるデータ。使われるのは、ボイスシステムのみ。

「くそおおお!!」
アロウズの高官が、壁を叩いた。
ハッキングが止まらない。
かといって、独断でマザーコンピューターを破壊することもできない。

最大ボリュームので、ボイスシステムが音をだす。


(ほげ〜。ほげ〜ほげ〜ほげげげ〜〜♪♪ほげ〜〜♪
ほげほげ〜〜〜♪〜〜〜ほげ〜〜♪)

それは、刹那の歌声だった。

「ぎゃあああああああああ!」
「うぎゃあああああぁぁぁぁ!」
「ひいいいいい!」
「ぐわぁあああああ!」
「死ぬーーー!!」
様々な悲鳴をあげて、アロウズの兵士たちが耳をおさえて痙攣し、意識を失った。
だが、最大ボリュームとなったコンピュータのボイスシステムはデータを解放しつづける。

(ほげ〜〜。ほげ〜〜。ほげげ〜〜)

アロウズの兵士たちは、苦しみの断末魔をあげて、次々と意識を失っていく。
そのダメージは計り知れない。
数日間は、まともに動くこともできないだろう。

ボイスシステムを利用し、転送され、解放されたのは刹那の歌声のデータだった。
刹那の歌は、人を精神的に殺せる。
そう確信したティエリアは、わざわざメインコンピュータとシンクロするというような大それた行動にでたのだ。
ヴェーダとシンクロするのとはわけが違う。危険が伴う。
それでも、ティエリアは作戦を実行した。

メメント・モリ破壊に成功したが、散ってしまった百万人以上の命は戻ってこない。
一人でもアロウズの兵士を、兵士として役立たずにできるのなら、危険をおかしてメインコンピューターとシンクロし、アロウズのマザーコンピュータにハッキングする価値はある。
CBは、核兵器なみの兵器をもっている。
誰でもない、刹那の歌声だ。
利用しない手はない。

その事件は、後に「地獄の呼び声」という名前がつけらた。
その事件をきっかけに、戦士として不能になった者はおおった。刹那の歌声が耳から離れず、戦闘行為ができないのだ。日常生活には支障はないが、命をかける任務は不可能であった。
退職していく兵士の退職届を、アロウズの高官は頭をかきむしりながら机から落とした。
「くそおお、一体誰があんなすさまじい作戦を考えたんだ!退職者は200人をこえたのだぞ!」

ライルの手の中で、身震いするほどに美しかった女神が、目を覚ます。
「ああ、ちゃんとうまくいきましたね」
シンクロをやめたなその顔は、美しいというより愛くるしい。
「ったく、凄いこと考えつくなぁ。っていうか、まずアロウズのメインコンピューターにハッキングなんて思いつかねぇ。思いついても不可能だ」
「僕は、イノベーターですから。可能です。せっかくもっている能力だ、生かすことに意義がある」
「イノベーターじゃなくって、人間だろ?」
ティエリアの言葉を訂正するライル。
大きな石榴色の瞳で、ティエリアは嬉しそうに笑った。
「はい!」

一方の刹那は、ティエリアに歌声をいつも聞きたいからと依頼され、それはそれは心から熱唱した。まさか、そのデータがアロウズに核爆弾のように投下されたことは、知る由もない。