永遠の果て「再生・リスタート」







西暦3530年。
グランジェ3にある人工コロニー・第27コロニー「スタリア」
そのコロニーの南の地区で、ニールは生まれた。母も父も移民で、地球のアイルランド出身だった。
今はもう珍しいかもしれない。移民は。宇宙に点在するコロニーに移住する大規模宇宙移住計画は終わり、今は地球から時折移民がコロニーにやってくるくらい。
だから、ニールの両親は珍しい存在だった。アイリッシュ系の顔立ちのニールは、よく女の子にもてた。
柔らかいウェーブのかかった茶色の髪に、エメラルドの瞳は珍しいらしい。最近はエメラルドの瞳の人間なんて滅多に生まれてこないから。
ほとんどが茶色の瞳で、様々な人種の果てのハイブリッドは、黒の優勢遺伝子のせいで、黒髪に黒い瞳の人間が多くなった。
一度その遺伝子をもって生まれてくると、次に生まれてくる子どもも、パートナーが白人でも茶色の髪や瞳で、白人という人種は昔に比べるとけっこう少なくなっていた。ニールは生粋の白人だった。両親もだ。
まぁ、瞳の色なんて、手術でいくらでも変えれるけど。でも、手術でかえた瞳は色が透明ではなく、明らかに人工的なものなので、あまり綺麗ではないらしい。
実際に手術で瞳を紫色にかえた友人がいたけれど、まるで硝子球のような目だなと思った。
ニールは自分の目が好きだった。まるで、宝石のような瞳だと母や友人に褒められるのが心地よかったし、実際自分でも綺麗な瞳の色だと思った。
この容姿のせいで、同じハイスクールに通っている女生徒から、よく告白されるけど、今一ぴんとこなくて何度か付き合ったけど、長くもったためしはない。

「ニール、遅れるわよ。早く支度しなさい」
「はーい、母さん」
ニールは、ベッドから起き上がると、制服に着替えてそしてキッチンに下りると、家庭用ロボットが作った朝食をTVを見ながら食べて、それから母の作ってくれた弁当箱を鞄にいれた。
朝食を10分もかけないで食べ終える。TVが流すのはニュースで、またコロニーとコロニーの間で戦争が起こったという事件を流している。
いつの時代も人は戦争を繰り返す。CBによって一度は人類の意思の統合がされたかと思いきや、人々は争うために生まれたかのように、何度も戦争を繰り返した。
今は、CBは世界に存在しない。CBは存在をさらに昇格して、人類宇宙連合となった。戦争が起こると、マイスターが武力介入で戦争を止めるのは昔と変わっていない。
「ガンダムか。かっこいいよな。俺も乗ってみたい」
ガンダムの機影がニュースにうつり、それにより戦争が鎮圧されたことを繰り返し報道する。
「母さん、行ってくる。帰りは早いと思う」
「あらそう。でも母さんいないわよ。お父さんと一緒に、隣のコロニーに、オペラを見に行くの」
ホホホと母は嬉しそうに笑った。そういえばいつもはしてない化粧をしているし、衣装が派手だった。
「へぇ。じゃあ、友達の家に泊まっていってもいいか?」
「いいわよ。でも、ちゃんと朝には帰ってきなさいね。あら、ミーシャ。それはこっちに置いてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
「ミーシャ、家の戸締りよろしく!」
ミーシャは、ニールの家のアンドロイドだ。アンドロイドには一応人権もあり、迫害すると服役系が待っている。
ミーシャは、家庭用アンドロイドとして作られ、ニールの家にやってきた。アンドロイドたちはメンテナンスを自分たちでできるが、どのアンドロイドも人間と一緒に住みたがるようにインプットされてある。アンドロイドの反乱など、あってはならないから。
ただでさえ人間は同種族同士で戦争を起こしやすい種族なのだ。アンドロイドは人間に従順にできている。
アンドロイドと人間の結婚も今では珍しいものではない。子供はできないけど。
ミーシャは、20歳くらいの美人な女性アンドロイド。セクサロイドとは違い、ミーシャのようなタイプのアンドロイドはこの宇宙、銀河中にたくさん存在する。生産階級のほとんどを今ではアンドロイドは占めているのだ。
「じゃあ、行って来るな!」
ニールは鞄をもって、高層マンションのエレベーターに乗り込むと、そのまま自転車がある場所まで走って、自転車でハイスクールに向かった。

授業の合間に、友人が話しかけてきた。
席は自由で、いつもこの友人を中心としたグループの中にニールは溶け込んでいた。
「なぁ、ニール、この後繁華街であそばね?」
「んー。俺、帰るわ」
「なんだよ、付き合いわるいな」
「ごめん、また今度な!」
「おう、また今度な」
「ニール、なんだぁ、彼女でもまたできたのか?」
他の友人は、ニールがもてることをひがむわけでもなく、ただ羨ましがり、誰が彼女だよと聞いてくるがニールは首を振る。
「そんなんじゃねぇよ」
やがて、授業が全て終わる。
今日は、誰かの友人の家に泊まろうと決めていたはずなのに、授業が全て終わるとそんなこと頭から綺麗さっぱり消えていた。
かったるい授業が終わり、下校の時刻になって、ニールは自転車を自宅に向けてこぎながら、ふと広場で止まった。
白いワンピースに麦藁帽を被ったとても綺麗な女の子が、ニールの前を横切ったのだ。
ワンピースの裾のリボンが風でゆらゆら揺れていた。
その子の姿を見たとき、ニールは心臓を鷲掴みにされるような衝撃を受けた。

この子と、どこかで出会ったことがある。
デジャヴ。

「・・・・・・あれ、俺なんで泣いてるんだ?」
ニールは、涙が溢れていることにびっくりして、またその女の子を見ようとしたけれど、もういなかった。
女の子は、美術館のほうに歩き去ってしまった。ニールは自転車を止めて、美術館に入る。チケットを買って、中に入ると普通の美術館で、平日のこともあって人は少なかった。
絵を見るよりも、さっきの女の子をニールは捜していた。
「ここにもいない・・・ここに確かに入ったんだけどなぁ」
探し回ったが、やはりいなかった。
見間違いだったのだろうか。あの靡く紫紺の髪を、もう一度見たいと何故か思ったのだ。ニールはそれぞれのフロアをしらみつぶしに探して、ついには最後の最上階にまでやってきた。
最上階は人がいなかった。ニールは走り出す。何かに吸い寄せられるように。
「いた・・・・」
その場所で、ニールは足を止めた。
ワンピースの女の子が、一枚の絵画を見ていたのだ。
そっと近寄って、隣に並ぶと、女の子は笑顔で声をかけてきた。
「あなたも、この絵がすきなんですか?」
「え、ああ」
適当に頷く。
女の子は、石榴と金色のオッドアイの瞳をしていた。とても綺麗な目だと思った。
手術で作ったものではない、先天的なものだろう。
人は美しい人間を作り出そうと人工的に遺伝子に手を加えたせいで、オッドアイの瞳の子供は時折生まれてくる。その誰もが美しい美貌をもっており、その子もぞっとするくらいに綺麗で綺麗で、まるで人形のようだと思ったけれど、嬉しそうにこちらを見ていたかと思うと、興味をなくしたのか興ざめといった表情になったりして、くるくる表情が変わって、愛らしいと思った。
プルルルル。
その時、携帯が鳴った。自分のは着信音があるので、女の子のものだろう。
「あ、今美術館にいます。はい。迎えはいりません。自分で帰ります」
丁寧な言葉使いだった。どこかあどけないとさえ思えた。自分と同じ17歳ぐらいだろうか。

かわいいな。すっげー好みかも。
男であればみんなこんな子は綺麗だから好きだと答えるだろう。でも、ニールの答えは違った。なんだか、昔どこかであった気がするのだ。だから、好きだと思った。自分でも変だとは思った。

女の子と並んで、ニールはしばらく絵なんて見ないで、女の子ばかりを見ていた。
女の子も白人だろうか。紫紺の髪は珍しい。オッドアイもかなり珍しい。さらにはこの美貌だ。そこらのアイドルなんかよりも美人だし、かわいらしい。

ふと、ニールの脳裏に笑顔と言葉が浮かんだ。
(ずっとあなたを愛しています。僕は、あなたのお陰で人間になれた。ロックオン、愛してます。ニール)
「え・・・・と?」
ニールは軽い混乱状態になって、頭を整理する。
白昼夢だ。
脳裏に浮かんだ笑顔は、隣の女の子の顔そのものだった。
そっと隣を見ると、女の子は食い入るように真剣に一枚の絵画を見ていた。
釣られて、ニールもその絵画を見た。
 



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