この閉ざされた世界で「もう一度、明日へ」







蒼い水底に、今もティエリアとニールは眠っている。
この世界でまた出会うと誓って、どれくらいの時が流れただろうか。

***************************************

「この物語は・・・・悲しいままですね」
ジブリールは、本を閉じると、その物語の続きを描いてあげようと思った。
この世界のティエリアとニールもまた、ジブリールとルシフェルが人間として生きていた頃の記憶でもある。
「すきだな、お前は」
ルシフェルは、ため息をついて、ジブリールを後ろから抱きしめると、耳元で囁いた。
「吉原か。お前は、苦しくなかったのか?」
「いいえ・・・・信じて、いましたから。辛くはありましたけれど、苦しいとは思いませんでした。何百万年まえのことでしょうね。どの世界のニールもティエリアも、私たちの記憶であり、過去であり、そして現在進行形で進んでいる」
堕ちてしまったジブリール。かつて、至高天で聖女とも歌われた彼女。
彼女もまた、中性だ。
そう、いろんな世界のティエリアのように。
ニールであるルシフェルは、茶色の髪をジブリールであるティエリアにかきあげられた。
「簪、ここにありますよ。ほら」
ぽうっと、ティエリアの手の上に、ニールがその世界であげた簪があった。
「お金なかったからなぁ」
「お金なんていいんです。大切なのは、心。愛しているかどうかです」
「そうだな」

二人の前に、文字が浮かんだ。
この物語の続きを描きますか?
描く 描かない 本を閉じる

ジブリールは、描くを選び、本を開いてルシフェルと一緒に世界を創造する。

***********************************

それは、浄瑠璃となった哀しい物語。
お上によって愛される者同士でありながら、仲を裂かれたものたちの物語。
今は、演劇なんかでもよくやっている。
タイトルは「この閉ざされた世界で」

千年の悠久なる時が流れた。
お上の三番目の子であり、中性として生まれたティエリアは、いつものように、桜さく春になると、桜の木の下でずっと誰かを待っていた。
「約束、したから・・・信じてる」
手を胸の前に組んで、祈る。
「お嬢様、帰りましょう。風邪をひきますよ」
「ううん。ばあや、一人で先に帰って。もう少しいるから・・・」
「仕方ありませんねぇ」
乳母を先に帰らせる。
皇族であるティエリアは、中性ということもあって大切に育てられている。
一人の兵士が、ティエリアのところに近づいて、声をかけた。
最近入った騎士だろうか。
「お前さんは、まだ騎士をもっていなかったよな」
「はい。約束した方がいるのです。遙かなる昔に。桜が咲くと、こうして待っているのです」
「俺が、騎士になろうか?」
「いいえ・・・」
「ひっどいなぁ。せっかく、桜の下に、約束通りやってきたのに」
騎士は、外套を脱ぐと、ティエリアの手の平に口付けた。
「騎士に、なってください。私だけの、騎士に」
「了解。お前を守る、お前だけの騎士になるよ」

「おかえりさない、ニール」
「ただいま、ティエリア」

それは、千年をかけた物語。

この物語を終わりますか?
はい いいえ もう少し続ける

ジブリールは、涙を流して抱き合う二人を満足そうに見て、そして本をそっと閉じた。

この物語を終わりますか?
はい いいえ もう少し続ける

ジブリールが選ぶまでもなく、ルシフェルが「はい」を選んでしまった。
「せっかちですね」
「物語を紡ぐには魔力を消耗するんだ。たくさん紡がれているからなぁ」
「そうですね・・・・」

******************************

悠久の果て。
水底には、今もティエリアとニールが眠っている。
でも、二人の願いはこうして果たされた。
さぁ、出発しよう、もう一度。
この世界で。

「さぁいこうか、俺のお姫様」
「ティエリアでいいです、ニール」
「了解!」
ニールはティエリアを抱き上げると、走り出した。
明日に向かって。


                  この閉ざされた世界で The End

                            Presented by Masaya Touha

***********************************************
吉原ものを書こうとして・・・なにこれ。
かなり違う。( ´Д`)
最後はやっぱりこうなるのね。この終わり多いよ。
まぁいいかー。

微妙な作品だけどミホリ様へ!