金色の瞳







「アニュー?」
また、アニューが動かなくなった。
瞳は金色に光り、微動にしない。
「アニュー、アニュー!!」
ライルはアニューの体を乱暴に揺さぶった。すると、アニューが忘れていた瞬きを繰り返して、不思議そうにライルを見返した。
「どうしたの、ライル」
「いいや、なんでもないよ」
ぎゅっと、アニューの体を抱きしめた。
「おかしなライル」
なんでもいい。どうか、アニューを。アニューを・・・失いたくないんだ。
もう愛してしまった後なんだ。失いたくない。
「俺が、何があっても守るから」
「あら、本当に?」
「本当に」
「じゃあ約束よ」
アニューはライルの頬にキスをすると、ライルの手からすり抜けて廊下を走り出す。
「私を捕まえてみて。まずはそれからよ」
「アニュー!ベッドで捕まえてみせる!」
相変わらずのライルのセクハラじみた発言に、アニューは声をあげて笑い出した。
「あなたはいつもそうね。まるで雲の上を歩いているみたい」
「俺が?」
「そう。何処までも自由な人」
「そうでもないさ」
「私には、そう見えるわ。ティエリアも言っていたわ。ライルは自由主義だって」
「ティエリアめ」
「あら、自覚ないのかしら」
「俺は、ちゃんとしっかりと芯はあるよ。兄さんじゃないけど」
「私はあなたのお兄さんは知らない。知りたいとも思わない。私が知りたいのは、あなただけ」
「アニュー」
だから、彼女を選んだのだ。
トレミーで、唯一ロックオンを知らない年頃の女性。同じく兄を知らないミレイナは年があまりにも若すぎる。お子様だ。あれでは犯罪になる。

「お前の金色の瞳、綺麗だよ」
「あら、私の瞳の色は菫色よ」
「菫か。綺麗な色だ」
「そうでしょう。気に入ってるの」
アニューはふふふふと笑って、くるりと回った。
また、ライルの手からアニューがすりぬけていく。
まるで、砂のように。

「アニューー!!!」
失う痛みを、神は与えた。
一方は兄のニールを愛しおいていかれ。
一方は弟のライルを愛し去っていった。
「ロック・・・オン・・・」

「お前が、お前が・・・・」
泣きながら、刹那を責めるライルに、ティエリアもまた涙を流していた。
「ロックオン・・・・もう、よすんだ」
ライルと呼ぶこともあるが、最近はもうロックオンと呼ぶようになっていた。
イノベイターと人は、種族をこえて愛し合ってもその結末は同じだった。
ああ。

アニューは、でも綺麗な微笑を残して死んだという。ロックオンも、最後は微笑んでいたことだろう。
何故か、そう思った。

神は・・・・神など、俺は、僕は、私は信じない。ティエリアは思った。
神など・・・・もう信じてやるものか。カトリックで神を信じていたライルは嘆いた。

「アニュー・・・・・」
ライルは、アニューの影を探して、これからも生きていくのだ。
そう、ティエリアがニールの影をいつも探しているように。